高橋和巳「散華」

 (タイトルを高橋和巳「散華」としましたが書籍のご紹介ではなく、僕の他愛ない弱音の話です。ただ数日前から何回も読み返している本がこの「散華」なのでタイトルに置いてみました。)


 「多くの戦友が空に海に散っていきました。私も明日、戦場へと向かいます。国は私たちを機械の部品くらいにしか思ってはいないのです。使い捨てられていくだけなのです。私は自分の死が何にもならないことを知っています。日本は負けます。何の役にも立たないと知りつつも命を投げ出さねばならない苦しみを誰に伝えましょう。それでも母さん、少しでも米軍の侵攻を遅らせることができると言うのなら私は喜んで命を散らせましょう。この桜の花のように。母さん、お元気でいてください。少しでも長く生きてください。ありがとうございました。」

 神風特別攻撃隊に赴いた青年の手紙です。

 「空が地面が真っ赤に燃え上がり、私は子供たちの手を引いてただ逃げまどいました。橋が落ち、道も失せ、どこにも行き場がなくなった私たちの前に川がありました。私たちは川に飛び込んだのです。そうして私は祈りました。願わくは私たち家族を苦しめずに一瞬で死なせてくださいと。」

 東京大空襲でのある女性の手記を引用しました。

 「散華」と言う言葉があります。
 菩薩が来迎した際に華を降らせたという故事に因み、諸仏を供養するために花が撒かれることを指します。
 無常観や「あはれ」と言った思想と結びついて、それが死の観念として捉えられるようになり、大戦中は「散華の思想」として自己を犠牲にして大義を守るために戦死することを美化し、また強要されて使われました。

 日本は一部の人間の保身のために参戦しました。沖縄は本土決戦を遅らせるための捨て石として使われ、広島と長崎もまた同じく欺瞞とエゴの犠牲にされました。そして国民は特権階級の保身のための終戦を押し付けられたのです。国は個人を認めず大衆化し、それを更に八紘一宇の旗の下に一般化し完全に個を失わせ、散華などと言う言葉で殺したのです。

 散華(高橋和巳) 「散華」(河出書房、昭和42年)

 高橋和巳に「散華」と言う小説があります。

 国の電力政策のために電力会社の用地買収の責を負っている主人公・大家と、大戦中は国粋主義者として多くの若者を扇動し特攻に追いやった思想家・中津。
 中津は自らの思想の結果を恥じ懺悔するために世捨て人となり瀬戸内の孤島に遁世生活をおくっていました。大家はその島を買収するために調査に赴き、中津と邂逅します。出会った当初は人を跳ね除けた中津でしたが、次第に大家に関心と親近感を覚えていきます。孤島で暮らす老人に触れる大家もまた同じく、自分の任を進めることもできずに無為に親密を深め、自己の中の矛盾や存在を問い詰めていきます。最後は、互いの思想と現実の立場とが衝突し重大な諍いを生じ、物語は急展開で結末に向かいます。小説の結びは中津の日記の記載で終わります。「今日もまた晴天、海あおし…」と。

 「散華」とは何に手向けたものだったのか。
 見るものを讃える人間の多くはそれが美しい時にしか謳いませんし、描きません。だからと言ってそれを責める資格など誰にもないでしょうし、その理由もありません。
 ここのところ自分が煮詰まっていると感じています。この閉塞感は今に始まったことではないのだけれど、行き場を失っている自分が常に言い訳を探しているようで苛立ちます。
 この数日で何度も読み返した自分とは全く異質とも思えるこの小説が、今、僕が感じている自分に対する、どこかが間違っていると言う感覚と何かが重なっているような気がするのです。

 高橋和巳署名 高橋和巳署名

 やはり疲れ気味なのでしょうね。一日でもいいから休みを取ってどこかをぶらぶらと歩いてみたいです。





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