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つぶやき

 だいぶ以前の話になりますが、ある方からのご厚意で芹沢光治良という作家の本が手元に届きました。贈られた本を手にするまで、恥ずかしながら僕はその作家に関する詳細な知識を有せず、もちろん作品自体も読んだことはありませんでした。辛うじて彼に関することで僕が持ち合わせていた情報は「川端康成の後をうけて日本ペンクラブ会長になった」ことと、「巴里に死す」という小説がフランスでベストセラーになったことがあるというふたつのみです。
 その僕の無知がこの作家との縁を呼び込んでくれたと言うべきでしょう。贈られた本の後見返しに挟まれていた「知らないのでしたら読んでみてください。そして興味を覚えたなら是非とも他の作品を手に取って、さらに奥深い芹沢光治良の世界を訪ね、その渾身の一行を生涯の伴侶の一端にでも加えていただければ幸いです」という短い手紙、それは確かにその通りになりました。
 
 「小説家は確かに作品だけが物を言うけれど、作家はその作品が読者の魂を動かし、読者の人生に加えるものを、貪欲にもとめるものだと思っていますよ。言葉を換えれば、作家は作品を通じて読者のなかに生きようと願っていますね。自分は死んでも、他人の中に生きて、永遠の生を願うものだと思いますよ・・・」(「人間の運命」第2部第6巻7章より)

 言語と言うものに限りがある以上、表現には限界があり、そこには既にオリジナルというものは存在していないと考えるのが妥当でしょう。これは音楽も同様だと思います。端的に言うなら「誰も発したことのない言葉や音並びなどはありえない」と言うことです。それを何とか打開し、自分らしさを表現しようと作家は苦悩します。小説で言うならば、それらは時に荒唐無稽な展開や難解すぎる文字の使用、多言語を活用した表現など奇をてらった方向へと進みます。奇抜なことは目を引きますし、話題にもなります。しかし、それは本当に心に届いているのでしょうか?
 作家は何のために作品を書いているのでしょう?生み出すということに自己顕示欲は当然にあるとして、かつ、そこに差別化を図るため排他性を包含する手段に及ぶこともあるかもしれません。しかし、結果として受け手に届かなければ意味がないと僕は思います。
 かつて、遠藤周作先生が「難解な哲学を子供でもわかるように表現できるのが理想なんです。それは単に容易と言うだけじゃなく、知的好奇心や心そのものをも満たさなくてはならない。そういった文章、作品を生み出すために僕は闘っているんですよ」と話されたことがあります。
 娯楽に浸るのではない、真の小説というものが伝えなくてはならないかたちを先に挙げた芹沢光治良の一節は僕に伝えているような気がします。
 現在、芹沢光治良の作品の多くは絶版になっていますがそれは読者に支持されなくなった結果ではなく、斬新で刺激的なものを求めすぎた出版界の弊害のためです。
 梶山季之は「天才に失望することはない。天才とは才能のことではなく宣伝の結果である。失望するなら才能にではなく宣伝に失望すべきだ」と述べたことがあります。それと同じことなのでしょう。
 絶版になっているから駄作であり、現行でベストセラーになっているから良作であるということではありません。今日の出版業界の低迷は、自ら良書を葬り、話題作りに狂奔した結果が生み出したものです。
 たとえば、違法ダウンロードで済ませてしまえる音楽はそれまでの価値しかありません。本当に気に入った良質なものは自分の手元に最高の状態で置きたいと願うものです。いつでも手に取ることができ、眺めることができ、聴くことができるよう占有欲が働きます。心に届くものと言うのは書籍も音楽も変わりはないと思います。

 今回取り上げた「人間の運命」第2部第6巻5章に次のような科白があります。

 「万一戦争にでもなれば、私共の雑誌だって、何時つぶされるかわかりません。その場合、最後までいい小説を連載できたという記憶がのこれば、編集者冥利だと言えます。」

 「人間の運命」は一種の自伝小説であり、第2部第6巻は第2次世界大戦前夜を背景に負っており、この場面は「婦人公論」とのやりとりに現れます。出版に対する気骨や覚悟がどのようなものだったかを窺わせる一文です。実際にこのような言葉が出たか否かはわかりませんが、結果として某大手新聞に掲載を断られた「巴里に死す」は「婦人公論」に連載されました。
 売り上げを伸ばすために刺激性と宣伝に頼ってきた悪弊を見直し、心に生き続けることのできる作品を世に送り出してほしいものです。受け手が望んでいるものは「感動」なのですから。
 
 


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