薔薇は生きてる - 山川弥千枝 -

 先日、知人から少し早い誕生日プレゼントとして、山川弥千枝「薔薇は生きてる」(ヒマワリ社、昭和24年第三版)をいただきました(これに至った経緯については前振りがあるのですが、その話はまた後日)。

 この本は16歳で早逝した少女の遺稿集です。
 彼女は12歳の夏に発熱したのを最初に、それ以後は病気と切り離せない身となり、1933年3月31日に高熱のため開け広げた氷点下の病室で深夜に亡くなりました。享年16歳でした。
 収録内容は、彼女が8歳の頃の作文から16歳で逝去するまでの散文や詩歌、それから日記の断片となっています。そこに記されている感性の瑞々しさは今もって胸をつくものがあります。
 彼女が残したそれらの文は「火の鳥」(7巻6号、昭和8年)に初めて遺稿集として掲載され、昭和10年に沙羅書店から単行本として出版されました。その後、甲鳥書林(昭和14年)、ヒマワリ社(昭和22年)、四季社(昭和30年)、創樹社(昭和62年)、創英社(平成20年)と繰り返し刊行されてきました。

 薔薇は生きてる(甲鳥書林) (甲鳥書林、昭和14年) 創英社 平成20年 (創英社、平成20年


 「私は人形」(弥千枝、14歳)

 私は人形です。私の名はないのです。私のご主人は気の変わりやすい人で人形なんぞ何とも思ってないのです。私はママー人形とよばれてます。
 ある日のことでした。私のご主人は随分乱暴に洋服を着かえさしました。その時私の足はぽろりがたんととれてしまったのです。私はみにくい片輪になってしまいました。ご主人は「あら、足が取れちゃった。古い人形だからしょうがないわね。いやだわ」と言いました。別に気の毒とも思っていない様子です。私の顔は随分汚れてしまいました。人形は損です。
 

 「日記 1931年3月23日」(弥千枝、14歳)

 今日はいやな日。
 書きたくない日。
 寒い風が吹くいやな日。
 一日ぼんやりくらしました。
 御本の手帳をつくりました。
 今日はいやな子ですぎました。
 明日はよい子で過ぎましょう。


 「ひよけ」(弥千枝、15歳)

 中野の駅を下りて長い道を行くと大きな黒瓦のいかめしい家がある。
 その家は芝の上に檜木の植えてある土手が出来ていた。夏の事であった。其のいかめしい西洋館の東の一室に弱い女の子が寝ていた。
 女の子は五月からずっと今まで寝床の上に座れもしなかった。娘の母は、暑かろうとその赤と白の縞の日よけを作らせた。娘は日よけを非常によろこんだ、なぜならそれは暑い日が這入らないし、夏の真っ青な空に ― 娘には空がただ一つのなぐさみであった。 ― 赤と白のはっきりとした縞が、ひらひら見えるのは随分いい気もちでったから。
 道行く人は思った。「おや、あそこはきっと女の子の部屋だな、きれいな日よけだなあ」と。


 「日記 1933年3月1日」(弥千枝、16歳)

 「何か面白いことなあい」私は尋ねます。
 「何んか何んかすてきなことなあい」
 私はつまんなくてしようがないのです。
 今、私はこう飛び上がりたいのです。手をひろげて、思い切り息を吸い込んで、片方の足を強く踏んで、高く高く飛びたいのです。
 そしてこのつまんない心をどこかに捨てたいのです。
 でも私は飛べない。だから面白い話でもきいてつまんない心を捨てたいのです。
 「ねえ、お話してくださいな。面白い、たのしいおはなしをしてくださいな」
 私は言います。


 「歌」(抜粋)

 たのしいリズムが心に浮かんだ。鉛筆の芯でリズムにあわせくちびるをつつく。

 ものをじっと見つめていたい夜、いつもより電気があかるい。
 
 起きる力きっとあるのだ、肩を布団に強く押し付けて思う。

 ふんわりと柔いふとんの中に身をかがめたお姫さま、あのバラを見てるとそう思う。

 一日一日ばらの花は開いてゆく、うつくしいかげもばらについてゆく。

 暖かい日あたりで、母様と春の来たことをよろこんで話す。じんじんする、人の声がする、人がこっちを振り向いた、返事を待って見つめる。返事を待って見つめる人、私はあたまがじんじんする。

 薔薇は生きてる(ヒマワリ社) (ヒマワリ社、昭和24年


 昭和22年、ヒマワリ社から発行されたものの装丁は中原淳一が手がけています(現行の創英社版の表紙は中村佑介)。



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