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祈る少女の話

 先日、こんなことがあった。

 PC用部品を買いに秋葉原へ出かけた。アニメイトの前あたりで何かを抱えて、胸の前で手を組み祈っている女の子がいた。遠目にもその異様な感じは私の注意を惹きつけるには充分だった。関わらないのが肝要。その子とは逆側の新作ゲームの看板に目を向けながら、そそくさと通り過ぎようとした瞬間。
 「アニメ、好きですか?」
 唐突に声をかけられた。新手の客引きかと身構え、きっと表情を作り、目を合わせないようにして冷たく答えた。
 「興味ありません。」
 すると女の子は「え~っ、うっそぉ~!」と派手なリアクションを返してきた。はっきり言ってムカついたので、そこで初めて声の主をまじまじと見た。
 「初島さん?」
私は驚きを隠せずに、確認するようにその子の顔を窺った。
 「はいっ!」と彼女は元気に答えた。
 初島さんは、今年3月に某アニメ専門学校を卒業し、4月から某アニメ製作会社に採用された女の子である。
 「何してるの?」
あまりにも意外な出来事に私はちょっとばかりうろたえていた。
 「リサーチですぅ。会社から言われちゃって。」
テヘっとか言って、彼女は笑った。
 「リサーチ…」
 「はい、リサーチですぅ。」
(アニメ、好きですか?)ってダイレクトに問うて、次に何を質問する気だったのだろう、この人は。
 「何のリサーチをしていたのですか?」
彼女は照れ臭そうに言った。
 「していたって言うのは語弊があるかも。今、初めて声をかけたんですぅ。」
 また彼女は、テヘっとか笑って見せた。(立て続けに擬音付きで笑うな、君は某エンジェ○イドか)とツッコミたかったがそこは言葉を伏せて、「始めたばかりなのですか?」と差し障りなく尋いてみた。
 すると彼女は、またまたテヘっと笑って、「知らない人ばかりで声をかけにくかったので、知っている人が通らないかなぁとか神様に祈ってました。」
 この人はリサーチの意味がわかっているのだろうか?誰が指示したんだ?齊藤さんか?
 「で、何をリサーチしてたんですか?」
 彼女は少し困ったような顔をして、急に真面目になって言った。
 「何を訊けばいいんでしょう?」
 「はぁ?さっき仕事で来てるって言わなかったですか?仕事なら目的があるでしょう?リサーチのシートとか持ってないんですか?」
(いくら総天然色少女の初島さんとは言え、ほどがある)と内心イラっとした。
 「ありますよぉ。ちゃんと」とホルダーに留められたシートを差し出した。私はそれを見て目を疑った。こんな自由度の高いリサーチが存在するのかと正直、呆れた。そこには中太の黒マジックで「アニメの好きな人に質問して何かを聞いてくること」とだけあった。何かを聞いてくるって、この「何か」って何?哲学的に深い存在意義を尋けということなのか?それとも、何でもいいから話をして来いということなのか?この句読点のない一文がとてつもなく重く感じられた。と同時に、あまりにも無責任で彼女が可哀想に思えた。
 「確かに、これでは曖昧すぎるね。」
 「ですよねぇ」と彼女は笑った。
 「声がかけにくいと言うか、その後の話題がないって言うか、困っちゃいますよねぇ。」
彼女は、またしてもテヘっと擬音を交えて笑った。
 「でも、リサーチしないことには社に帰れないでしょう?」
 「ですよねぇ」とB4のホルダーを胸に抱えて、無邪気に自分の右側頭部のあたりをコツンと叩いた。
 「これって齊藤さんですか?」
 「ちがいますよぉ。楢崎部長でーす。」 
 「楢崎さんから質問事項について説明がありませんでしたか?」
 「なーんにもないですよぉ。」
(これは確かに困るな。直接、楢崎さんに聞いたほうが良さそうだ。)
 「楢崎部長は、今、社にいるの?」
 「いるはずですよぉ。」
 私は携帯を出して、差しでがましいとは思いつつも楢崎部長に電話をいれた。
 「楢崎部長ですか?今、秋葉原で初島さんに会ったのですがリサーチの件で困っているようなんです。私が口を出すことではないのですが、お聞きしてもよろしいですか?これって何のリサーチなんです?」
 すると楢崎部長は豪快に笑って、こう言った。
 「ああ、いいの、いいの。それ。実はね、プロットでそういうのがあってね。実際にそんなシーンに出くわしたらどうするかって、ほら、表情とか、行動とかさ。それをリサーチしてたんですよ。」
 「つまり、リサーチの対象は不特定多数の通行人ではなくて、初島さんだったってことですか?」
 「うんうん、そういうことだね。はっはっは」と彼は豪笑した。
 私はあたりをゆっくりと見廻した。すると通りの反対側、ソフマップのところでVサインを送っている齊藤さんと演出の神崎さんがいた。

 何ということはない、ある平和な昼下がりの出来事であった。

              (文中の呼称は仮名で表記させていただきました。)

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