“THE TAILOR OF GLOUCESTER ” (Beatrix Potter ) - 20世紀初頭の挿絵 -

 Helen Beatrix Potter (1866 - 1943 )

 「ピーター・ラビット」であまりにも有名なイギリスの児童文学者であり、ナショナル・トラストの創設に貢献したヘレン・ビアトリクス・ポターは、1866年7月28日、サウスケンジントンで生まれました。
 彼女の両親であるルパート・W・ポター(陶芸家、弁護士)、ヘレン・ポターはともに裕福な家庭に育ち、その両家の資産で生活をしていました。ビアトリクスも当時の富裕層の子女と同じく傍付きのメイド(ナース)とカヴァネスと呼ばれる専任の家庭教師によって育てられました。
 彼女が作品を生み出したイマジネーションには、毎夏を過ごしたパースシア、スコットランド、ウィンダミアなどの避暑地での生活が大きく関わっています。彼女はそこで小動物を観察するとともに、植生に関する探究心を呼び起こされました。特にあげられるのは地衣類が菌類と藻類の共生関係にあることを発見したことであり、それについての論文も書きました。しかし、当時、生物学界の頂点にあったリンネ協会(カール・フォン・リンネの功績を讃えて設立され、アルフレッド・ウォレスやダーウィンが所属していたことでも知られる)は女性の進出を認めず、ビアトリクスの論文は正式に採用されることもなく黙殺されることになります(1997年のリンネ協会の総会においてビアトリクスに対して正式に謝罪を表明)。また英国国立植物園(キューガーデン)への推薦を受けたこともありますが、やはり女性であったため採用されることはありませんでした。

 Peter Rabbit 00 Peter Rabbit 02
 (Privately Published / Printed By Strangeways, London, 1902)

 1900年前後から子ウサギ(ビアトリクスのペットであった)を主人公とした物語を書き始め、周囲からは出版を勧められ請負先を探しますが見つからず、初期の作品は自費(privately issue)で発表されることになります。ですが彼女の生み出した子ウサギの物語は年齢を問わず世界中の人々から支持され、1902年「ピーター・ラビットのおはなし」から1930年に発表された最後の本である「こぶたのロビンソンのおはなし」まで23作が刊行され、今日まで愛読されています。

 Peter Rabbit 01 (Privately Published, 1902)

 晩年、イギリスの湖水地方で牧羊場を経営していた彼女は、自然保護活動の重要さを提唱していた牧師・キヤノン・ハードウィックの影響を受け、地元の土地4000エーカー(16km²)を買い、その管理をキヤノン・ハードウィックとその後継者に託しました。これがナショナル・トラスト運動の第一歩となります。
 ビアトリクスが所有していた土地は、現在、湖水地方の国立公園(ウィンダミア)の一部になっています。また彼女が晩年に生活していた自宅は「ヒル・トップ」と名づけられて一般に公開されています。
 執筆活動と自然保護活動に尽力したビアトリクス・ポターは1943年12月22日、ランカシャー州ニア・ソーリー(現在のカンブリア州)で永眠しました。。

 THE TAILOR OF GLOUCESTER (Privately Printed) “ The Tailor of Gloucester ” 
 (Privately Published / Printed By Strangeways, London, 1902)

 “My Dear Freda Because you are found of fairy tales, and have been ill, I have made you a story all for yourself - a new one that nobody has read before.”で始まる「グロースターの仕立て屋」。
 その最初の出版はビアトリクス・ポターの個人出版でした。1902年に発刊されたそれは500部限定であり、ピンクのダスト・ジャケットがついていました。そしてその翌年、1903年にFrederick Warne 社から正式に刊行されます。  

 “ The Tailor of Gloucester ” (1903年)

 The Tailor of Gloucester 00 The Tailor of Gloucester 01 The Tailor of Gloucester 02
 (London and New York, Frederick Warne and Co., 1903) 
 
 グロースターに住む貧しい仕立て屋はクリスマスの朝までに市長が結婚式で着る典礼用のコートを作らなければなりませんでした。しかし、連日の疲れからうたた寝をして風邪をひいて寝込んでしまいます。病気から快復したときには既にクリスマス当日、「もう到底間に合うわけがない」と諦めて仕事場に来てみると、どうしたことか見事な刺繍が施されたコートが出来上がっていました。たったひとつのボタン・ポールのかがりを除いては。そしてそこには針で小さなメモ紙が留めてありました。そのメモには「穴糸が足りない」と書かれてありました。
 その見事なコートは、日ごろから仕立て屋の家に住まわせてもらい、猫のシンプキンから助けてもらったネズミ達の恩返しだったのです。

 The Tailor of Gloucester 03 The Tailor of Gloucester 04  The Tailor of Gloucester 05

 ビアトリクス・ポターは、グロースター郊外に住んでいた従妹キャロライン・ハットンを訪ねた折、そこで不思議な話を彼女から聞きます。それがこの絵本の物語の元になりました。
 それは「仕立て屋が急ぎの仕事を受けたものの病気で伏せって、期日であるクリスマスまでに仕上げることができなかったのです。ところがクリスマス朝に仕事場に来てみるとボタンホール一つを除いて見事に仕上がっていました」と言うものでした。ビアトリクスはこれをネズミの仕業と想像し、この物語を書きあげました。

 The Tailor of Gloucester 06  The Tailor of Gloucester 07

 グロースターはイングランド・グロースターシャーの州都であり、セント・ピーター修道院(グロースター大聖堂、Cathedral Church of St Peter and the Holy and Undivided Trinity)を中心とした街です。その街の名前の由来である「輝く川の上の砦」が示す通りに、川による商業交易で栄えたところでした。グロースターからやや東に向かうとコッツウォルズがあります。

 The Tailor of Gloucester 08 The Tailor of Gloucester 09

 僕がこの街を訪れたのは20年以上も前のことになります。現在はどういう風に変わっているのかわかりませんが、その頃の街並みはビアトリクスが描いた挿絵そのままの風情を残していました。小さな横道にそれて路地裏に入り込むと「あの仕立て屋」を探してしまうくらい時間の動きを忘れさせてくれる場所でした。 

 The Tailor of Gloucester 10 The Tailor of Gloucester 11
 
 猫のシンプキンがネズミに締め出されて雪の街を仕方なくうろつく様を想像して、「あの二階家のベランダがちょっと似ている」とか、飲み屋の裏にある地下倉を覗き込んでは酔っ払いネズミの大宴会の醜態を思い浮かべたりしました。
 ついでに「24人の仕立て屋さん、カタツムリを捕まえに。角だしゃ怖いぞ、カタツムリ。仕立て屋さん、みんな逃げ出したよ…」なんて歌いながら店先の小さなウィンドウを覗き込めば、刺繍に精を出すネズミの姿が見えそうな、本当にそんな街でした。

 The Tailor of Gloucester 12

 ビアトリクス・ポターの描く世界は非常に独特なものです。ただ単に動物を擬人化するのではなく、彼らは彼等の世界で生きています。人が入り込む時はそれは異次元の扉、幻想の世界のごとく、夢うつつの狭間のように描かれます。そうたとえばティギー・ウィンクルに出会ったルーシーのように。
 余談ですが「ティギーおばさんのおはなし」に登場する洗濯屋のティギー・ウィンクルにもスコットランドに住んでいたキティ・マクドナルドという実際の人物のモデルがいます。

 The Tailor of Gloucester 13 The Tailor of Gloucester 14

 今回はクリスマスが近いのでそれに因んでというのもありますが、それとは別に、頑張っている人への応援の気持ちを込めて取り上げてみました。
 実は僕は自分が文章を書くよりも誰かが書いたものを読むほうが圧倒的に好きです。ここ最近はあるブログで連載されている小説を読んでいます。書いている方は学生さんなのでしょう。アルバイトに卒業論文、いろいろと忙しい中で書かれているようです。寒気が降りてくる中、無理をして体調を崩さないようにしてくださいと祈るばかりです。

 The Tailor of Gloucester 15 The Tailor of Gloucester 16

 今年はいろいろなことがあり過ぎました。
 日々の生活では嬉しいことよりも嫌なことのことが多い気がしたり、良いことや幸運は努力してもなかなかやってきてはくれませんが、不運や悲しいことは何もしなくても向こうから近づいてくる気がします。でも、努力をした人はやはりそれなりの幸せをつかむものなのです。ただかなえられた望みや夢といったものは、見落としてしまいがちに小さかったりするものですから、気づかずに通り過ぎてしまうのです。けれども、それがどんなに小さくても願いは確かにかなっているのです。
 現実では土壇場でネズミさんが手助けをしてくれたり、眠っている間にこびとさんがあらわれて代わりに仕事をしてはくれませんが、すべては自分の心が知っていてくれます。ですから、深刻にならず、肩ひじを張らず、できることをその瞬間に精一杯やりましょう。後悔が小さくすむように。

 それでは素敵なクリスマスをお迎えください。


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