閑話休題 “アリスロージュ”

 ここのところ挿絵を取り上げていますが、それもつきつめるところ仕事で19世紀末のイラストを必要としているからであって、どうしても仕事から離れられない自分をみつけてイラっとしている今日この頃です。
 
 で、今日は仕事を離れて気分転換に上野まで足を延ばしてきました。
 理由は、イラストレーターのSHUさんの絵をみたいがためです。
 恥ずかしながら、僕がSHUさんの作品を知ったのは、つい最近のことでして、店先のディスプレイに並べられたジグソーパズルのパッケージからでした。
 アップルワンから発売されているシリーズなのですが、ファンタスティックで、かつ、抒情性をたたえた絵柄に目を惹き付けられました。
 お聞きしたお話は僕がボランティアで受けている機関紙の方にもださせていただきますが、ここではもう少し書きたいと思います。

 夢宵桜 夢宵桜 エヴェンジェル エヴァンジェル
 
 発売元のアップルワンは、もう15年くらい前になりますが、とある著名な画家のパズル化の時に共に仕事をさせていただいたことがあります。
 今も元気で、というか、更に成長した姿を感じて嬉しくなりました。
 当時はマンションの一室を事務所にして、女性ばかりで頑張っていた姿を思い出します。
 商品化の申し込みがあった際、画家事務所側は「もっとメジャーな会社での商品化ならOKだが、こんな小さな会社では作品を認知してもらうにも、さほど効果はない」と言う理由で危うくNGになるところだったのですが、将来性と品質の良さを説得材料に、彼女たちの誠意と熱意をくみ取ってもらって何とか商品化にこぎつけました。
 デザイナーの若いお嬢さんが、画家のアトリエまでサンプル画像を携えて、色の再現性やトリミングの仕方など細かい(かつ、手厳しい)指示にもめげないで、何度も何度も足しげく通ってくれました。
 本当に誠実に作品を取り扱ってくれているのが伝わってきました。
 あの時の苦労を思い出すのも懐かしいです。

 ということで、今日は外神田にあります「エピキュートギャラリー」で作品が見られると言うことをインターネットで調べて行ってきた次第です。
 エピキュートギャラリーは、版画の製作販売をてがけるアートコレクションハウスの直轄画廊です。
 末広町交差点からほどない、1Fに牛丼屋が入ったビルの6階にある、こじんまりとしていますが、家庭的な雰囲気で作品を回覧するには堅苦しくなく入りやすいギャラリーだと思います。
 ビルの横手にあるエレベーターから6階にあがり、すぐ左手側がギャラリー入り口になっています。
 さっそく受付カウンター兼キャッシャーに挨拶をしてから中に入りますと、なんとメイドさんが!
 「間違ってメイドカフェに入ってしまったのか?」と思いましたが、室内に展示されている作品を確認して、ほっと一息。
 SHUさんの新作「アリスロージュ」をイメージしたコスプレだったのでしょう。新鮮なインパクトを受けました。
 まさか画廊にメイドさんがいるとは誰も思わないでしょうからね。
 
 SHUさんご本人の来場を待つまでの間、ゆっくりと12点ほど並べられた作品を見て、画集を手に取ったりしていました。
 現在、SHUさんの画集は、六耀社から「SHU」と「QUIET DREAMS」の2種が刊行されています。

 SHU   “SHU”(2009年)

 最初の画集は変形A5版の小型のもので、イメージストーリー形式でイラストが編集されています。
 テーマは「1000年の恋」です。単なる作品集にしないところがSHUさんのポリシーを伝えてくる気がします。
 「QUIET DREAMS」は大型本です。
 作品の全体から細部まで鑑賞できるように編集されています。
 先日、ジクソーパズルで見た作品の多くが掲載されており、「アリス」のシリーズも巻末に少しですが特別編集されています。

 ALICE (QUIET DREAMS) ALICE Alice004(QUIET DREAMS) アリスと小豚

 ところで、ギャラリーで販売されている作品も思っていたほど高価な値段ではなく、ちょっと無理をすれば手に入れられる印象でした。
 僕は保守的な人間なのでエスタンプと呼ばれる複製原画には基本的には興味を示しません。むしろ高額な出費をしてまで手に入れるのは馬鹿馬鹿しいと思っている人間です。
 人の手作業によった19世紀末から20世紀初頭アールヌーボー、アールデコ当時の版画までにしか価値を見出さない偏見をもっている質です。
 しかしながら、SHUさんの作品はデジタル絵画ですから、油彩画などのように生原画という観念がありません。
 色彩の再現性が原画に忠実であれば、それを生原画と同等に捉えるにも抵抗は少ないと思います。
 それでも「ただのプリントでしょう?」と言われればそれまでですが、それを言うならロダンのブロンズだって「ただの型押し」です。
 それらが作品として「価値を持つ」のは、その作品の有する説得力を「どう再現しているか」だと思います。
 今回見たアートコレクションハウスの版画は、十分に再現力を持っていると言えます。あとは個人の価値観の問題です。
 「勧められたから購入した」と言うのでは無く、自分の中の「作品への思い入れ」を冷静に見極めてください。
 後悔が大きくなると作品自体を粗末にすることにもなりますし、好きなものを一つ失うことにもなりかねません。それは残念ですので。
 余談ですが、今回、ギャラリーの担当の方から熱心に購入を勧められるようなことはありませんでした。
 販売会社によってはアプローチからクロージングまで、分業、もしくは、複数で取り囲んで放してくれないところもありますからね。

 朧咲夜 朧咲夜 桜風 桜風

 さて、待望のSHUさんにお会いできる瞬間がやってきました。

 「先生がいらっしゃいました。こちらでどうぞ」と案内されテーブルにつきますと、作品のイメージを損なうことのない繊細な印象を纏った好青年のSHUさんがいらっしゃいました。

 画集にサインをいただき、お忙しい中ではありましたが少し時間を割いて頂き話をお伺い致しました。

 SHUさんは1972年生まれの29歳。
 ゲーム会社でデジタル・グラフィックの世界に入られ、その後、オリジナルの作品を発表し、現在はアクセサリーデザインからジグソーパスルの原画などで活躍の場を広げられている新進気鋭のアーティストです。その美しい作風は非常に幅広い年齢層から支持されています。

 SHUさんは、元はパステル画を得意とされていたようです。
 下絵のためにパステルを使われるのかと思い尋ねたところ、そうではなく、ひとつの独立した作品として取り組まれているそうです。
 しかしながら今年は非常にご多忙のようで、作品製作に取り組み、かつ、北海道から沖縄まで全国を作品と一緒に回られてファンとの親交に努めている中では、パステルに向かうのは時間的に厳しいそうです。
 「要望があれば取り組みますが、ここ最近は本当に多忙のため、パステルの方は少し休ませてもらっています」とのことでした。
 SHUさんのパステル画をぜひとも一度見てみたいですね。次にもし画集が出版されるなら何枚かを収録していただければと思いました。

 Arcana Blanc & Arcana Rose Arcana Blanc & Arcana Rose

 僕がSHUさんにもっとも尋ねたかったのは「ALICE」のことでした。
 それまでSHUさんが手掛けていた作品とは少し離れたイメージがあり、なぜアリスに着目したのかと言うことです。それをご本人にダイレクトに質問させていただきました。

 「もともとアリスは好きな作品でしたし、描きたいという気持ちはありました。しかし、自分の画風が果たしてアリスに向いているのかどうかを考えると、僕の画風はアリス向きではないと感じていたのです。ところがある作品を境にして気持ちが変わったのです。その転機となったのが“Arcana Rose”と“Arcana Blanc”の2作品でした。この2つを描いた時に『行ける』と感じたのです。その時にはもうすでにアリスの顔だちについてはイメージが纏まっていました。ただ、アリスと言うのはファンも多く、素晴らしい作品も数多く存在します。ですから、その中で自分の求めるアリスを作るために、必要な資料を集め、調べるための時間も膨大に必要としました。1作目のアリスを描いてから本当は続けて取り組みたかったのですが、妥協したくないのと、他の仕事を止めるわけにもいきませんので、今回、やっと自分の中では2作目の“アリスロージュ”の発表にこぎつけたわけです。」

 Alice 3 (QUIET DREAMS) アリスロージュ

 SHUさんは一見すると線の細い男性に見えますが、その実、非常に確固とした自分のビジョンをもっている、妥協しない生粋のアーティストである力強さと頑固さを感じさせます。

 今後のアリスの展開についてお聞きすると。

 「アリスは一連の作品として必ず完成させたいという気持ちはあります。そう出来る様に取り組みますし、この作品を単に絵の中で終わらせるのではなく、3Dの中で動かしてみたり、フィギュアとして実体化させたいと言う思いも強くあります。人形制作については既にご相談したり、具体的な取り組みの準備をはじめているところです。アリスと言う可能性を追い求めてみたいと思っています。」

 そう話された後、「まだ試作段階ですが」と言いながらSHUさんご自身で製作された書斎で軽やかに踊る3D画像のアリスを見せていただきました。

 きちんとした取材ではなかったのでSHUさんのお時間を独り占めするわけにも行かず、お聞きしたいことを山ほど残したまま、今日は退席いたしました。
 僕が席を立とうとするとSHUさんはご自分から握手を求めてくれ、その手からは僕が今までお会いした芸術家、作家の方々と寸分違わぬエネルギーが伝わってきました。

 QUIET DREAMS  “ QUIET DREAMS ”(2010年)  サイン

 アリスの絵と言えば、ルイス・キャロルと組んだジョン・テニエルの印象が強く、その強すぎる個性とイメージは後世の挿絵の呪縛ともなりました。
 アーサー・ラッカム、ウォルト・ディズニー、マリー・ローランサン、サルバドゥール・ダリ、金子國義、ヤン・シュバイクマイエル、ティム・バートンなど枚挙に暇がないほどのアーティストが、時に陰鬱に、或いはコミカルに、またはエロティックに、その独自のアリスのイメージ作りに挑んできました。
 ウォルト・ディズニーが「私はアリスを表現したいのではなく、アリスの世界を表現したいのです」と言ったように、ルイス・キャロルが自ら描いた現実の少女に捧げた物語と挿絵のイメージの完全なる複製としてのテニエルのアリスからの脱却と言うのはそう容易いことではありません。
 SHUさんのアリスの世界に見るアリスは、ルイス・キャロルの持っていた「少女アリス」の印象を損なうことなく、かつ、実体から解放された透明感のある新たなるアリスを作りだしたと言えます。


*エピキュートギャラリー
 東京都千代田区外神田6-15-14外神田ストークビル6F
 TEL. 03-5846-1971



 

  
 
  


 
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