狐火の花

 きつねのかみそり  群落 「きつねのかみそり」

 きつねのかみそりの群落を見つけたのは、今の事務所に越してから間もない頃だった。
 その時に写真に撮ろうと思ったものの、「近いは遠い」の言葉通りに、ついにシャッターを一枚も切ることなく7年目の夏の終わりがきた。
 それが昨日やっと写真に収めることができた。
 私ときつねのかみそりとは、いくらか因縁めいたものがある(と言ったら多分に大仰すぎるだろうけれど)。

 子供のころ埼玉の何もない田舎に2年ほど移り住んだことがある。7歳から9歳までのことであった。
 私自身、精神的にも身体的にも健康体と言うには遠く、東京の学校に通ううち自律神経失調症になり、喘息に悩まされ、ついには転地療養をするはめになったわけである。
 しかし子供とは現金なもので興味がわけば自分の体力も厭わず野山を走りまわるもの。
 埼玉の田舎暮らしが性に合ったのか、それとも里山が人に命を分け与えるのだろうか、急速に回復に向かった。
 いたずらと探検に明け暮れたある日、薄暗い林のなかで、ぼうっと蝋燭を灯したような花を見つけた。葉は一枚もなく、すっくと延ばした茎の先に薄明かりに似た花だけを咲かせていた。
 彼岸花にも良く似ているが花も蕊も線香花火のように球形を描くようにはについておらず、近くに寄ってその特徴を記憶し、家に帰るなり直ぐに植物図鑑を持ち出して名前を調べた。
 「きつねのかみそり」という風変わりな名前を知ったのはその時であった。
 ヒガンバナ科の球根植物。地下茎にはアルカロイドが含まれている。有毒植物である。
 何でも春先に伸びる葉の形が剃刀に似ていることから名づけられたらしい。
 けれども私には剃刀というよりも藪に灯る鬼火、狐火のように見えた。
 「もしかしたら狐は、狐火を細く研いで髭を刈るのかもしれない」などとも想像した。そんな昔話がどこかにありそうに思えたし、私の知る狐の伝説を集めればあながちあり得ないことではないとも信じられた。
 私はその花が好きで、幾度か球根を掘り起こして持ち帰り自宅の庭に移植しようと試みたが、ついに一度も成功しなかった。そのうちに土が合わないのだろうと思い諦めた。

 昔のことを思い浮かべながら、今年も「また見事な群落をつくっているな」と感心して眺めていると、橙の中に白い花弁が混じっているのに気付いた。
 「何の花がまざっているのだろう」と足を止め、藪の中に踏み込んで見ると、それは白花のきつねのかみそりであった。
 亜種なのか、突然変異なのか、それとも別の花であるのかは分からない。
 が、毎年見かける群落中で初めて白花を見つけた。これは私にとっては小躍りするような発見でもあった。
 バッグから急いでカメラを取り出し、風がやみ花が静止する瞬間を息を潜めて待った。藪蚊が刺そうが、雀蜂が耳を翳めようがただじっとその時が来るのをまってシャッターを押した。
 写真を撮り終わって、改めて群落の周囲を見回してみると昨年よりもそれが縮小しているのに気付いた。
 「昨年はあの椎の木を越えて広がっていたはず」と思い返す。うっかり見落としていたが木が伐採されて小さな階段が作られている。
 そこを覆っていたはずの木が無くなり、地面に直接強い日差しが照りつけていた。
 「棲処を無くしたな」と胸の内で呟く。

 別の話になるが私が千葉に越してきた30年ほど前には、近所には小さいながらも夕菅の群落地があった。しかし、それも土地開発の波にさらされ姿を消した。しかも、その整地された場所は閑散とした道路が通った他は、家が建つこともなく、開発計画途上で投げ出され放置されている。
 「あの夕菅を犠牲にしてまで」と思うのは身勝手な感傷であることは承知している。理解はしているが残念なことに変わりはない。できれば、あの夕菅を知らない、今ここに住む子供たちや大人たちに見せてもやりたかった。
 そんなことを思い出し、「誰がどのくらい使うのかわからない階段の設置をきっかけにして、やがてはこのきつねのかみそりも姿を消すのかもしれない」と思った。

 きつねのかみそり 白花

 
スポンサーサイト

テーマ : ひとりごと…雑記…きままに
ジャンル : 日記

コメントの投稿

非公開コメント

sidetitleプロフィールsidetitle

otosimono

Author:otosimono
全く役に立たない独り言です。

sidetitle最新記事sidetitle
sidetitle最新コメントsidetitle
sidetitle最新トラックバックsidetitle
sidetitle月別アーカイブsidetitle
sidetitleカテゴリsidetitle
sidetitleFC2カウンターsidetitle
sidetitleカレンダーsidetitle
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
sidetitle検索フォームsidetitle
sidetitleRSSリンクの表示sidetitle
sidetitleリンクsidetitle
sidetitleブロとも申請フォームsidetitle

この人とブロともになる

sidetitleQRコードsidetitle
QR