"LE PETIT PARISIEN " 若しくは 隠れ家的な何か(後)

 後半は、オーナーである石川さんのインタビューをご紹介致します。
 店名の由来や古書を橋渡しの材料とする理由などについてお訊きしました。

「来たいから来る。
 話したいから話す。
 そういった場所でありたい。」


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 曳舟にある "LE PETIT PARISIEN " 。
 店名を直訳すれば「小さなパリの住人」となりますが、転じて「我らパリ市民」の意味になります。
 パリという街に囲まれた同朋たちと言うことです。
 これは1870年初から1930年代頃まで発行されていたパリのタブロイド紙の名前から採られています。
 この新聞はフランスにおいて日露戦争を大きく取り上げた貴重な資料として注目を浴びたことがあります。
 そのタブロイド紙と店名についてどのような思い入れがあるのでしょうか?

 「あまり期待させて悪いのですが、それほど深い意味はないんです。語呂が良かったというか、響きが自分に合っていたということが大きいですかね。勿論、LE PETIT PARISIEN の新聞としての役割にも注目はしています。
 当時のパリの教育の平均水準はお世辞にも高いとは言えませんでした。文盲の人も多くいましたしね。教育格差が非常に大きかった。この新聞はそういった人たちにも分かり易いように絵を多用し時事を伝えていたんです。
 ですから、僕の店も大衆性というものを主眼に置いて、誰にでもわかり易くしたかったというのはあります。」

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 次に、そのポピュラリティのツールに古書、それも作家存命当時、或いは、初刊行の書籍を中心に展開することにはどんな意図があるのかをお尋ねしました。

 「初版本に拘っているわけではありません。重版でも再販でもいいんですよ。ただ作家が小説なり随筆なり作品を書いた時、明治、大正、昭和初期(戦前)までは装丁を含めてひとつの作品だと考えていた。それを伝えたい。
 収録されている作品に対して作家が抱くイメージは装丁に表れているわけです。
 装丁は作品の入り口です。それを手に取ることによって、より作品世界に入りこんで行く手掛かりになればと思っています。芥川も佐藤春夫なんかも非常に装丁に拘っていました。そこを知ってもらいたいんですね。
 今の作家さんがご自分の本の装丁にどこまで拘っているのかわかりませんが、大概は出版社任せではないでしょうか。もちろんそこには出版コストという問題があるのは避けられません。
 今の出版事情で、作家や装丁家が芯になる紙を選定してそれを皮なり布で飾って、木版や銅版で挿画や題字を作り、見返しにマーブル紙を使うようなことをしていたら一冊がいくらになるのかわかりません。
 大量生産が可能になったために書籍はより大衆化したと言えますが、大量に作るためには簡単な材料でなければなりません。それが書籍の魅力を失わせてしまう原因にもなったと感じています。」

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 確かに室生犀星などはその随筆の中で極論とも言えますが「本の装丁に関わってこそ小説家である。それに関心を払わないというのは小説家の資質がない」と述べています。
 そこには昔と今の本の立場の違いが大きい。例えば芥川や犀星の随筆に「本を一冊売って生活費の足しにした」というエピソードが数多く登場します。彼らの当時、普通に販売されている書籍でも、ものによっては2~3日食い扶持を稼げたのです。
 本が高価な贅沢品であった点が現代との差であるかもしれません。
 現在販売されている単行本は1500~2500円くらいが中心です。勿論、それは安くはないです。しかし商品社会においてはほとんど価値を有していません。3000円で買った新刊を古本屋に持って行ってもせいぜい100円ってところでしょう。状態によっては10円と言われることもあります。最良の状態の本で頑張って300円つけばラッキーです。
 つまり今の書籍は流通コストを償却するための値段しかついていないのです。本そのものは無価値な消耗品になってしまっている。文具とかわりありません。そうなってくるとわざわざ高いお金を払ってまで嵩張る紙の書籍を買う必要がなくなります。
 そこでデジタル書籍の登場となるわけです。

 「デジタル書籍は様々な形で普及し始めていますが、それは単に作品を読むためだけのものであって、本を楽しんでいるのとは違うと思います。
 カバーの見た目、そしてカバーを外した時の書籍本体の作り、何よりも自分でページをめくることの楽しさ、それが紙の本が持つ固有の価値であると思っています。
 タブレットやスマホの画面を撫でているのは簡単で便利ですが、同時に文字も流れて行ってしまいます。自分で感触を得るという大きな楽しみが失われている気がします。」

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「できれば高校生とか
 若い人にこそ知ってもらいたい世界。」


 では、紙の本を残すということへのヒントというか、手掛かりというものはあるのでしょうか?

 「装丁の力は大きいと思います。まずは並んでいる本を手に取る動機になるわけですから。
 もうひつとには、蔵書票が紙の本を残すきっかけになるのではないかと感じています。
 けれど残念ですが日本では蔵書票自体の知名度が低い。銅版画を学んでいる美大生でも蔵書票を知らないという人が多いんです。
 現代においては、銅版画と蔵書票は、例えば同じエッチングという手法を使うものであっても分別されてしまっているのです。どちらも手掛けている作家はいるのですが、どうしても蔵書票の制作は手工業商品的な印象が強くなり、銅版画家を芸術家、蔵書票作家を職人のように見てしまう傾向が強くなります。
 ユメノユモレスク原画展も、実は、夢野久作の本を通じて蔵書票の存在を知ってもらいたかったという意図がありました。
 蔵書票って何だろうと思ってもらえれば、ある意味で成功でした。」

 今の蔵書票には少なからず問題点も存在します。
 それはコレクターズ・アイテムと化して実際に書籍に貼られることが少なくなってきたということです。
 蔵書票は大体1作品30~50枚で作ることが多く、票主は一部を自分の保存用として取り分けたら、残りは交換用として使用するケースが多くなってきました。
 これでは蔵書票ではなく、額に入れて眺める版画作品と変わらなくなってしまいます。蔵書票である意味を失くしてしまうのです。

 「蔵書票を作るというのは誰にでもできるというものではありません。制作費がかかるということもありますが、本に対する考え方というのが大きく作用します。
 高価な蔵書票をまず貼るということに対する抵抗と、大事にしている本に何かをするという抵抗があります。どちらも勿体ないという気持ちの表れですが。その勿体ないというのが実は大切なのです。
 貴重な蔵書票を大切な本に貼るということは、貼りたいという気持ちが強くないとできません。そこには、この本だけは手放さないという思い入れがないといけないんです。自分のものであることを主張し、残したいという感情がないと貼れません。
 そのためにも今の大量生産の普及版ではなく、一作品としての価値を持つ古書の装丁を知ってもらいたいんです。
 僕にできることは持っているものを見てもらい、それらを後に残していくことです。」

 オーナーにとって "LE PETIT PARISIEN "とは、どんな場所であるのでしょうか?

 「本の感触というか、楽しさというか、そういうものを残すことができる一助になりたいですね。
 古くなった本はゴミではないんです。
 様々な思いが詰まった作品であること、そういう時代があったこと、 そんな気持ちを伝えるきっかけとして作用してくれれば良い。
 うちは基本的には古本の販売をしません。飲み物も強引にお勧めしてはいません。
 来たいから来る。話したいから話す。そういった場所でありたい。
 皆さんがおっしゃるとおり、うちは外から見ると怪しい店で入りにくいんです。何のお店だかわからない。それはドアを開放してても同じだと思うんですね。
 ですから、その媒体としてドリンクの看板を出しているのです。その方が入りやすいですから。
 来店された方は、並べられた古書の背表紙を眺めて通り過ぎるのではなく、本を開いて、読んで欲しい。特に自分の知らない作家の本を手に取ることから始めていただければ、と思っています。できれば高校生とか若い人にこそ知ってもらいたい世界です。」

 (8.14. 2016)

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 ここまで話をしてきますと、このカフェの商売欲が希薄なのも納得いきます。
 要は、 "LE PETIT PARISIEN "というカフェは「サロン(運動体)」なのです。

 最後にオーナーの石川さんは、水曜荘同人の本を手に取り、その中の挨拶状を取り出して見せてくれました。
 そこには「特装本というのは道楽でないと作れない。自分の作りたい本を自分が納得する形に作る。後先を考えてつくるものではない」という様なことが書かれていました。

 非常なご苦労を重ねて場所を維持していらっしゃることは察しれらますので、それを道楽と言ってしまうと失礼ですが、道楽とは経済的余裕の表出ではありません。
 本当の道楽は借金をしてでもそれを貫き通すものなのです。
 「道の苦楽を合わせて楽しむことこそ道楽の極み。」
 誰だったかがそんなセリフを言っていました。

 "LE PETIT PARISIEN "というお店自体がオーナーである石川さんの特装本なのではないかと僕は感じて、今日のインタビューを終わりました。

 石川さん、長時間お付き合い頂きありがとうございました。

 後ほど石川さんからメッセージをいただくことになっておりますので、届きましたらご紹介したいと思っております。

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 【 LE PETIT PARISIEN 】
 東京都墨田区東向島2-14-12
 東武スカイツリー線「曳舟駅」より徒歩1分
 TEL 03-6231-9961
 http://le-petit-parisien.com
 営業時間  13~18時、19時~24時



 
 



 

 
 

 
 
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