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沈丁花の枝の間に

 急に暖かくなりましたね。
 たぶんそのうちに寒の戻りはあって花を凍らせてしまうのかもしれないけれど、今は「春を感じている」と思うことは悪いことではないですよね。

 僕はいつも時計を気にしていて、文字盤を眺めて、秒針が一回りするのを、長針と短針が刻んでゆく位置ばかりを見ていて、それが「過ぎて行く」ことなのだと思い込んでいたのです。
 僕が本当に見ているのは時計ではなく、「時」であるはずなのですけど、目に見える形のある分かり易いものにとらわれやすくて。
 そして僕はふとしたはずみに時計があることも意識の外においてしまい、何かの拍子でどれほどの時が経ったのかも気づかずに慌てているのです。

 長崎で出会った少女が言っていた通りに桜は少しも弱くありませんね。
 僕が寒さで縮こまっているときでも彼らは耐えて、耐えているだけではなく、花を咲かせるために自らを進めていました。
 あの子は元気でいるのでしょう。
 あそこの桜、あの幼稚園の門にあった桜は、もう咲いているのでしょうね。毎年、一番先に蕾を開いていたから。
 あの庭先で鳴いていた鶯も歌を思い出し始めたことでしょう。
 それらは僕が見ていなくても同じように繰り返していると信じられます。
 見ていないからこそ、そう信じられるのです。
 知らないでいるほうが良いと思えることは、恐らくずっと多いのだから。

 この季節になると決まった後悔が顔をもたげます。

 ふたりして北鎌倉女学院裏の坂道を上っていたあの時、君に言わなくてはいけないことが思い浮かんだのです。
 それはとても大切なことのように思えたのです。確かに大事な言葉だったはずなのです。
 でも、沈丁花の花の間から小鳥が、たぶん目白だったと思うのですが、飛び立ったものですから、それに気を取られた拍子に何を言おうとしていたのかを忘れてしまったのです。
 なのに僕は失くした言葉を探そうともせずに、それをしていれば伝えられる可能性もあったはずなのに、あまりにも気楽にいつものことのように流してしまったのです。いつでも思い出せるような気がしていたのです。安心して。

 「思い出したら、また話すよ。」
 僕はきっとそう言ったのですけど、あれきり僕の心はその言葉を抱き起すことはありませんでした。
 今も記憶と呼べない時間の底に沈み、埋もれてしまったままでいます。
 でも、とてもとても大切なことだったはずなのです。

 僕はそうやって数えきれないいくつもの「大切」を忘れてきました。

 遥かに時は流れ、変わらない沈丁花の香りを風が運んできます。
 その香りは、一瞬、僕に何かを思い浮かばせ、同じようにまた枝の間に小鳥の影を見つけさせるのでしょう。
 僕は既視感の反復のようにまたそれに気をとられるのです。
 時の中には、それを言わせないようにするための何かが存在しているのかもしれません。
 ですから余計なことは忘れられずにいるのに、大切なことはいとも簡単に忘れてしまえるのです。

 僕は言い訳のように繰り返します。

 「思い出したら、また、話すよ。」


 

  
 
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テーマ : ひとりごと…雑記…きままに
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