別府葉子 in ルーテル市ヶ谷 2015

 9月4日、残暑を満喫するかのような一日。流れ出る汗を、ハンカチでは足りずにカバンからタオルを出して拭うほどの一日を「好天に恵まれた」と言えるほど、僕は夏の暑さが得意ではありません。
 朝から外回りをして足が棒になり、疲労感の割には仕事は思うようにはかどらず、少なくとも健康的には見えない、ただ見苦しいだけの汗に眩暈のする頭をどうにかこうにか上に向けているのが精いっぱいとも言える挫けてしまいそうなこの日、気力を支えていたのは市ヶ谷で開かれる別府葉子さんのコンサートでした。
 正直を言えば、開場後、前列のシートに着き深く腰を掛けた瞬間、非常な睡魔に襲われて開演のアナウンス直前までしばし眠りに落ちてしまいました。自室以外で仮寝をすることはほとんどない僕ですがそれほどにクタクタだったんです。
 「これはマズイ。コンサート中に眠ってしまうかもしれない」と掌に爪が食い込むほどに握りしめて、第一音が発せられるのを待っていました。
 しかしにこやかに登場した別府さんの歌声を聴いた途端、その世界に集中することができました。
 某クラシック・コンサートの時のようにアルファー波MAXで真剣に眠ってしまわなくてよかったと今でもほっとしています。別府さんの声は心地よいのでその虞は十二分にあるのですから。
 
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 「私は歌をシャンソンに限らないんです。歌いたい、コンサートに合っていると思えばジャンルを問わずに歌います」とステージで仰っていたように、この夜のプログラムも非常に多彩でした。

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 一曲目は「花の季節」です。
 僕たちの年代ですと中学の教科書にジプシー音楽の歌曲として紹介されていたのを憶えている人もいるかと思います。
 当初はロマニーに伝わる民謡として紹介され、その後、ロシアのБ.И.フォミーンが採譜アレンジしたものにК. Н.ボドレフスキーが詞を付けて広く知られるようになり、この二人の作とされるようになりした。
 また一部にはラスキンの作とされているようですが、これは英語版を歌ったジーン・ラスキンがアルバム中に自作としてクレジットしたため誤解を招いているようです。当時は著作権にあまり関心がはらわれていませんでしたから。
 原題は「長い道」(Дорогой длинною)。「花の季節」と言うタイトルは芙龍明子が仏題「Le temps des fleurs」を和訳して使われるようになりました。

 原詩とその大意を添えておきます(訳文が拙いのは僕の語学力のせいです。ごめんなさい)。

 Ехали на тройке с бубенцами,
 А вдали мелькали огоньки...
 Эх, когда бы мне теперь за вами,
 Душу бы развеять от тоски!
 Дорогой длинною, погодой лунною,
 Да с песней той, что вдаль летит звеня,
 И с той старинною, да с семиструнною,
 Что по ночам так мучила меня.

 我々は鈴を鳴らしトロイカで走る
 遠くで灯りがちらちらと揺れている
 ああ、もしもあなたたちと共に行けたなら
 この魂を重い憂鬱から解放してくれていただろう
 月灯りが射す長い道を行く
 彼方から歌声が響いてくる
 そして過ぎ去った思い出を誘う
 夜毎に私を苦しめ悩ました七弦ギターの音色と共に

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 変ったところでは4曲目の「検察側の証人」ですね。
 破局したカップルについて擁護したり、非難したりする第三者の証言を綴ったものです。男が悪いとか、女が悪いとかですね。
 これは、さだまさしのアルバム「印象派」からの一曲。歌詞は3番まであるのですが、オリジナルでは1コーラスごとに半音ずつ転調し、声色もノーマル、電話越し、エコーとエフェクトをかけて三者の違いを表現しようとしています。 
 この日のコンサートではエフェクトを掛けるのではなく別府さんが声のテンションを変えることで表現しようとしていました。すごく久しぶりに聞いた歌ですけど、いい歌ですね。イントロのツインギターの部分を上田さんがうまくピアノに置き換えていたのも良かったです。
 ところで音楽とは無関係ですが、今、ガールフレンド(仮)で行われているイベントにでてくる「悪フェス男」が、さだまさしさんに良く似ているんです。
 「さすがはさださん、今をときめくGF(仮)の女の子たちと共演するなんて!」と変な感心をするのは僕だけでしょうか?

 gf201509wrf.jpg レア悪フェス男

 一曲ずつ紹介していたらどれほどの長さになってしまうのか怖いので、ピックアップするだけにします。
 そもそも歌の背景は歌そのものに無関係です。歌の持つ説得力を最大限に表現できるのは当然に作者ですが、作者ではない歌い手が感じるその感動を伝えることなくして歌は存在できません。作者ではない歌い手の方が遥かに数が多いのです。そうして歌を継いでゆくことにこそ意味があると思うので。
 残念なのは文章では歌声の素晴らしさを伝えられないこと。だから無能な僕はエピソードに留まるしかないというわけです。

 第一部の最後は別府さんのオリジナル曲「砂漠のバラ」です。
 サハラで産出される「砂漠のバラ」という石が主役というか、石そのものよりも時間が主役と言ったほうがいいかもしれませんね。
 砂漠のバラは石膏、或いは、硫酸バリウムが主成分のガラス状の結晶です。その周りに砂が付着し茶色に見えます。
 これは水に溶けた成分が悠久の果てに結晶化したもので、この石があるということは「かつてそこには水があった」と言うことの証拠でもあるんですね。
 コーダからのサビの部分がGm(Gマイナー)で始まるのですが、その音がエキゾチックな盛り上がりを見せています。
 Gm-Am・Dmと続く後にB♭7が置かれているのも良い効果を出していました。
 この歌も歌いこまれてアルバムに収録されるのでしょう。その日が待ち遠しいです。

 第二部のインストルメンタルに続いて披露されたのは「死んだ男が残したものは」です。
 これは1965年に開かれた「ベトナムの平和を願う市民の集会」のために、谷川俊太郎が作詞し、武満徹が作曲した歌です。友竹正則によって歌われました。顕かな反戦歌です。
 高校の頃、この歌を好きな奴がいまして、その彼がよく歌っていたのですが、僕には冗長な曲としか感じられなかったのです。本田路津子さんが歌っていたから聴けるのだと疑っていませんでした。僕は言葉を深く噛み砕くことを知らなかったんですね。30歳を過ぎたころでしょうか、NHKのFMで武満徹の特集が組まれた時、流れ出てきたこの歌に打たれて息が止まるほどの痛みを覚えました。それからですね、この歌はベトナム戦争当時にファッションとして垂れ流された夥しいエセ反戦歌と決定的に異なると思ったのは。

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 「アムステルダム」はもう別府さんのオリジナルと言っても良いですね。白眉です。「百万本のバラ」はYouTubeを通して名刺のようになっていますが、僕には「アムステルダム」が別府さんのそれのように思えます。あのエネルギー、緊張感、とても素晴らしいです。

 それからこの日、僕の大好きな歌が披露されました。
 「悲しみのソレアード」です。昔に「カックラキン大放送」と言うのがあって、そのエンディングにも使われていたのですが、非常に美しいメロディです。
 ミレイユ・マチューのアルバムにも収録されていてカセットテープに録音し飽きることなく持ち歩いていました。ここでは別府さんがオリジナルの訳詩をつけて日本語バージョンで紹介していました。
 ミレイユのヴァージョンではイントロに合わせて語りが入っていました。

 ラストは「Commet Toi」です。「マイ・ウェイ」と言ったほうが名が通っていますね。

 アンコールは「The Water Is Wide 」。
 ケルト民族の伝承曲。カーラ・ボノフの少しハスキーな淡々とした歌声に心惹かれて、幾度もコピーして歌っていましたね。これも高校時代の懐かしい思い出です。

 コンサートの最後に「やっとノってきて、これからというところでコンサートの終りの時間になってしまうのが残念」とコメントしていらっしゃいました。きっとそれは聴く側にいる僕たちも同じ気持ちです。ずっと生の別府さんの歌を聴いていたい、そう思うのに嘘はありません。

 12月26日にも神楽坂でコンサートをお開きになるそうです。楽しみですね。気がかりなのは年末に掛かっていることでしょうか・・・。

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 この日の特記事項を忘れてはいけませんね。
 ベースを担当された中村新太郎さんです。
 音運びが丁寧で、いぶし銀のような演奏かと思えば、若手にも勝るパワーで弦を弾きます。
 ぱっと見は強面に思えたのですが、演奏に入ると愛おしそうにベースを弾くんです。
 ピアノの上田さんとアイコンタクトをとっていた表情も印象的で、ビル・エヴァンスとエディ・ゴメスのように思えました。
 それと、ビルの代表曲である「ワルツ・フォー・デビィ」。
 別府さんならすごく素敵な歌詞をつけてくれそうな気がします。別府さんの声であれば英語詞でも十分に魅力的なのですけど。

 
 

 

 
  
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