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Alone Together

 お元気ですか。
 汗ばむ体がもう夏だと言っていますね。

 先日、仕事途中のことです。
 見晴らしの好い道路端に車を停めました。
 その日はやや雲が多いけれども、曇天というには陽気な光が射していました。
 生えそろったばかりの草は柔らかく、風が吹き抜けるたびに銀色に翻りながら、同じ方向に緩やかな弧の波を作り戦いで行きました。
 そこに、こどもが二人ちいさく見えました。
 たぶん僕の小指の間接ふたつ分くらい。
 くさ原の側を流れる小さな川を覗き込んで。
 メダカか、ザリガニか、オタマジャクシかもしれません。
 それともアメンボウがスイスイ渡る様を追っていたのでしょうか。
 詳細を掴めるべくもなく、彼等が覗いているものをただ想像するのみで、それを見守りながら木下夕爾の「若き日」という詩の冒頭を思い浮かべていました。

   晴れた日の丘の草を藉きながら一人が言った

  ― もう百年もしたらきっといい時代が来るだらうと

  他の一人がそれを笑った

  もう一人は黙ってゐた  …

 君には、かくれんぼで取り残されたような思い出はありますか?
 息をひそめて全身に真剣さを湛えて隠れ居たまま、誰の声もしなくなり、誰も探しに来てくれなかったこと。
 それが偶発的に示し合わされた結果だとしても、認める自分を身窄らしく惨めに思ったこと。
 ドッジボールに入れてもらえず、少し離れた場所から眺めていたことはありますか?
 誰かが自分を見つけて声をかけてくれるのではないかと思って待っていたことはありませんか?
 自分にだけ知らされなかった集まりの顛末を翌朝に耳にして、自分は何なのだろうと落ちこんだことはありますか?
 それから君は自分以外の誰かが同じような立場にいるのをみたことはありませんか?
 君はどうしましたか、その時。
 僕は何もしなかったような気がします。
 どこにでもあることだったし、誰にもでもあることだったし、その場だけちょっと悔しい思いを噛み締めるだけなんだと。
 僕も同じ思いを味わったんだから大したことじゃないってね。
 本当に大したことじゃなかった?
 今でも覚えているのに。
 悔しいって言ってるよ、あの時も今も。
 ささいなことが恨みになってずっと残っているのを誰も知りません。
 まあ、それはお互い様。
 ごく稀には歩み寄った記憶もあります。
 口に出さない見返りを期待して。
 けれどいつだってそんなものはシャボンの泡より簡単に潰えてしまうのです。
 初めからむすばれていなかった自分だけの「約束」。
 心の中にその数だけひっかき傷を残して。
 その事々の逐一など覚えてはいないのに、傷があることだけは思い出せるのです。
 なんて都合の良い身勝手さなのでしょう。
 逆のことは思い当たったとしてもスーパーディスカウントなのにねぇ。
 それでも思い出さないよりはマシっていう言い訳は通じますか?
 
 僕はダッシュボードの中にあったお茶を取り出して喉を潤しました。
 それは車内の気温と同じ温さで、僕の体温よりもやや高めで。
 こどものひとりが近くの枯れ枝をひろって川底を引っ掻き回す仕種をしました。
 水が撥ねたのか、もうひとりがキャっと言って立ち上がります。
 そうか、あの子は女の子だったんですね。
 シャツと半ズボンだったのでふたりとも男の子だと思っていました。
 何かがいたのか、それともただの悪戯なのか。
 僕も同じようなことをしたことがあるな。
 目的なんか何もなくて、澄んだ水を濁らせるだけで楽しかったんです。
 そのうち靴のまま川に入ってズボンまで泥と水に浸しにして。
 春も夏も秋も冬も、関係ありませんでした。
 水があって、何かがいるかもしれないというだけで面白く思えたんです。
 たとえ何もいなくても。
 いるものを想像できさえすれば。

 彼等の話し声は聞こえません。
 車を停めた遠くからそれを眺めていただけです。
 ひとりは僕に似ているような気がしました。
 今のではなくずっと昔の僕に。

 ふたりきりでも楽しかったんです。
 ふたりきりだったから楽しかったのかも。
 こどもはおとなより遥かにお得です。
 素直に遊べるぶんだけ幸せが多い、その中にいてそれに気づくことはないけれど。
 僕はこんなことを思ったんですよ。
 「笑えるのなら笑えるだけ笑っていたほうがいいよ。」

 すぐにそれが笑いたい時の笑顔じゃなくなる日がきます。
 自分でも笑っている理由がわからないなんてことが。
 文字通りのただの「馬鹿」騒ぎ。
 だから君はこどもたちの声を騒がしいなんて言わないでくださいね。
 彼等にはもうスペースがなくなっているのですから。
 そうしてしまったのは誰なのかを考えてみないといけないのです。
 僕も君も。

 空のどこかを飛行機が通り過ぎる音がして、雲がゆっくりと地面に影を作って動いていました。
 上空はここより風が緩やかなのでしょうか、それとも距離のせいでしょうか。
 いずれにしてもそれはゆるりと彼等を追い越して、もうすぐ僕のところにやってくる、草を食む牛の速度で。
 だから僕はそこを退くことにしたんです。
 もう戻らないといけなかったし。

 君が同じ場面に出くわしたら、君は雲に場所を譲る必要はありませんよ。
 あの子たちのように追い越されたのも気づかないまま、くさ原の見える場所に立っていてください。
 そしてもし心あたりができたら空を見上げてみてください。
 いくつの雲が自分を追い越して行ったのかって。

  ― もう百年もしたらきっといい時代が来るだらう …

 それでは、また。


 

 

 
 

 
 

  
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テーマ : ひとりごと…雑記…きままに
ジャンル : 日記

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No title

幼い日の記憶はいつまでも鮮明なままですね。
不思議なものです。
ぼくは転校が多かったので
「だれも探しにこないかくれんぼ」に似た気分は
いつものように味わっていました。

好きな歌手の知久寿焼さんのうたにこんな歌詞があります。
「十万年たったら ぼくら
もすこし賢くなってるのかな
十万年たってもまだ
恥ずかしいままなのかな」

読んでいて、ザリガニのにおいを思い出しました。

偕誠様

いつもありがとうございます。

> 幼い日の記憶はいつまでも鮮明なままですね。

遠く離れれば離れるほどイメージは上書きされて鮮明に思えますね。
それが本当のことだったのかは、また別の問題なのでしょうけれど。
それを懐かしむ気持ちは恐らく本当なのです。
甘くても苦くても。

> 読んでいて、ザリガニのにおいを思い出しました。

記憶は音や匂いまで連れてきますね。
それはかつて耳慣れたものであったり、身の回りに漂っていたものであったり。
「あの夏、あの空」で、たぶんいくつものそれらが帰ってくる気がします。

十万年後、新しい地球上の繁栄者が僕の化石をみつけたらどう思うのでしょうね。
「旧人類の骨の痕跡」以外のことは何もわからないのでしょうね。
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