深夜ラジオ

 「雲が押しかかる様に低く空に掛った、物憂い、暗い、そして静まり返った秋の日の終日、私は馬に乗って唯一人不思議な程うら淋しい地方を通り過ぎて行った。そして到頭夕暮の影が迫って来た頃、陰鬱なアッシャー家の見える所までやってきた。」
 エドガー・アラン・ポーの「アッシャー家の崩壊」の書き出しです。

アッシャァ家の没落 奥付 「アッシャァ家の没落」 (谷崎精二訳、新潮社、大正14年初版)

 彼は、1809年に旅役者をする両親の子としてアメリカのボストンで生まれ、1849年バルティモアの酒場で飲酒がもとで人事不省に陥り世を去りました。
 僕がエドガー・アラン・ポーを積極的に読みだしたのは、高校受験に備えていた頃の深夜ラジオがきっかけでした。
 覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが、「高島ヒゲ武の大入りダイヤルまだ宵の口」の番組の中に「キリン夜の図書館」というのがありました。
 そこで「アッシャー家の崩壊」の朗読を聴いた翌日に本屋に走り、エドガー・アラン・ポーの作品集を買い求めました。
 TBSラジオの「夜はともだち」の中にも「夜のミステリー」という同様の番組があり、どちらが面白いかプログラムを比べてよく耳を傾けていました。
 これらの番組で放送された中には、横溝正史の「八墓村」や萩尾望都の「ポーの一族」、艶話版「平家物語」などのラジオドラマなどもあったように記憶しています。
 それらは実写映像よりも落ち着いて鑑賞することができましたし、何よりも「深夜ラジオ」ということが気持ちを惹きつけていたのだろうと思います。

 最近では車の運転中に極稀にしか聴かなくなってしまったラジオですが、今思えば、当時の情報源の多くを深夜ラジオからもらっていた気がします。
 受験勉強などそっちのけで、銀座山野楽器提供の「えみこの長いつきあい」とか、「歌うヘッドライト」など朝が来るまで親の目を気にしながらイヤホンで聴いていました。
 もちろん、たまには勉強に役立つものも聴いていましたよ。「百万人の英語」の中の「Kumiko's open room」は大好きでしたから。
 音楽もラジオが中心でした。
 ヤマハ提供の「コッキー・ポップ」は聴き逃せない番組の一つでしたね。
 深夜ラジオではありませんが、日曜日の不二家提供「歌謡ベストテン」は姉がよく聴いていました。
 クラシックでは、やはりNHK-FMでした。
 「演奏、フィラデルフィア管弦楽団、レオナルド・バーンスタイン指揮。ピアノ、ルドルフ・ゼルキン。ベートーベン・ピアノ協奏曲第1番ハ長調、作品15」などという通ぶった言い方を覚えたのもここでした。

 ラジオから流れてくるキャスターの声は、温かくて優しい、それ自体が音楽のようなリズムをもっていましたね。
 声で忘れられないといえば、城達也さんが堀内茂男さんの散文詩を読み上げ、洋楽を中心として構成されていた「ジェット・ストリーム」です。
 「…夜間飛行のジェット機の翼に点滅するランプは遠ざかるに連れ、次第に星の瞬きと区別がつかなくなります。お送りしてますこの音楽が美しくあなたの夢に溶け込んでいきますように。ではまた午前零時にお会いしましょう。おやすみなさい。日本航空がお送りしたジェットストリーム 、そろそろお別れの時刻が近づいてまいりました。皆様のお相手は、私、城達也でした。…」
“ミスター・ロンリー”をバックにして流れる声を今でも思い出します。

 小学校高学年くらいから中学まではSW波、いわゆる短波放送で諸外国の国営放送を受信するのが友達の間で人気がありました。
 放送開始時刻にあわせて、夕暮れに自宅の屋上にラジオを持ち出し座り込んだり、眠い目をこすりながらまだ夜明けやらぬ時間にラジオをチューニングし、「今日はラジオ・オーストラリアの受信に成功した」とか、「また朝鮮放送しかダメだった」とか学校で顔を合わせると話をしていました。
 動物の鳴き声の効果音に乗って流れてくる「This is Radio Australia …」などという放送開始の冒頭をラジオカセットで録音してコレクションし、何ヶ国の放送が集まったかを自慢してみたり。
 とにかく夢中になって、より良いラジオを求めて秋葉原のラジオ・ショップに出入りし、そこの店員と仲良くなり夜中にビルの屋上に集まって皆で周波数を苦心して合わせながら聴いたりもしました。

 今日、久々に車の中でNHK-FMをつけ「みなさまからのお便り」を聴いていて懐かしくなり、ここにちょっと書いてみました。



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