約束の日

 如何お過ごしですか。
 2日つづけて陽光を全身に受けるのは何だか久しぶりな気がして、それだけで少し嬉しくなったりもします。今日は夜半からの雨も降りませんでしたし。
 高校生の頃、雲一つない青空に真っ直ぐに引かれた飛行機雲が好きでした。
 あの潔さと誠実さにあこがれて、可能ならばたった一度だけでも、ほんの一瞬だけでも、あの雲のように生きてみたいと思っていたのです。 
 たとえ短い時間で拡散し消え失せて誰の記憶に残らないとしても。
 人はなれないものに憧憬を抱くものですね。
 
 昨日、長野順子さんに依頼していた僕の蔵書票が出来上がってきました。
 秋の個展を控えてご多忙の中お時間を割いて制作してくださったことに深く感謝しています。
 長野さんから蔵書票のイメージを訊かれた時、「書斎、或いは、図書館と少女をモチーフで」とだけお伝えしました。
 長野さんに作っていただくのは初めてでしたが、今までもそうでしたから。
 届いた函を開けて、仕上がってきた作品を目のあたりにした僕の驚きをどう表せばいいのでしょう。
 完成した蔵書票には長野さんから一筆箋が添えられており、そこにはつぎのように書かれていました。
 「少女が昼下がりの書斎でだれかを待っている・・・。そんな事をイメージして描きました。」
 タイトルは「約束の日」です。
 僕は自分のブログに綴ったように「本と少女」に今も囚われ続けているのです。
 偶然なのかもしれないけれど願っていることまでも見抜かれてしまうなんて。

 君も入ったことがあるかもしれません。神保町の「さぼうる」と言う喫茶店の壁紙には、たくさんの落書きや伝言があります。
 そして誰かの文字の下に埋もれていなければ、まだ僕が書いた落書きもあるはずです。
 僕自身、どのあたりに書いたのかも覚えてはいないのだけれど。
 書いたことはいつでも思い出せます。
 「僕はあなたに近づくための勇気を持ち合わせていない意気地なしです。でも、いまでもあなたのことが大好きです。」

 室生犀星の最後の詩集に「昨日いらしつて下さい」と言うのがあります。
 君には余計なことかもしれないけれど一応書いておきます。

…きのふ いらしつてください。
 きのふの今ごろいらしつてください。
 そして昨日の顔にお逢ひください、
 わたくしは何時も昨日の中にゐますから。
 きのふのいまごろなら、
 あなたは何でもおできになつた筈です。
 けれども行停まりになつたけふも
 あすもあさつても
 あなたにはもう何も用意してはございません。
 どうぞ きのふに逆戻りしてください。
 きのふいらしつてください。
 昨日へのみちはご存じの筈です。
 昨日の中でどうどう廻りなさいませ。
 その突き当りに立つてゐらつしゃい。
 突き当りが開くまで立つてゐてください。
 威張れるものなら威張つて立つてください。 …

 あれから遥かな時間が過ぎました。
 昨日へ戻る道は誰もが知っていて、誰も気づいていない。
 僕の悔恨は尽きず、「懐かしい」という言葉ひとつでオブラートに包んで誤魔化そうとしているのです。

 今日は写真を2枚添えておきます。
 蔵書票の写真と庭で咲きはじめたエニシダです。
 この花が散ってしまえば梅雨も間近ですね。
 夏の気配が色濃くなります。
 4月5月はカノンの季節です。
 肌寒さと初夏の暑さと。
 北原白秋はこの時期を「春と夏の二重奏」と評しましたね。
 とても美しい表現だと思います。

 それでは、また。

 蔵書票「約束の日」 エニシダ


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