ふたつの時間

…いくつかの季節が過ぎて行き、幾人かの友達が過ぎて行き、そのことが紛れもなくひとつの時代だったのさ。…

 70年代に活躍したフォークグループ、ガロのアルバム「吟遊詩人」に収録されている「個人的メッセージ」の冒頭の歌詞です。作詞を担当したのは阿久悠、作曲をしたのは「マーク」こと堀内護さんでした。
 その堀内さんの訃報を昨日の朝刊で目にしました。
 「学生街の喫茶店」「君の誕生日」「ロマンス」「一枚の楽譜」「ビートルズはもう聞かない」など曲を挙げはじめたら全曲のリストを書く羽目になってしまうくらい僕はガロが好きです。
 数年前になりますがガロの軌跡としてCD-BOXが発売された時には飛びあがって喜び、高額ではありましたがすぐさま購入に踏み切りました。
 ガロと僕のささやかなつながりの話をすこしだけさせてください。
 堀内さんのご記憶には残っていなかったかもしれませんが僕にはひとつの思い出があります。それは新宿の厚生年金ホールで開かれたコンサートを聴きに行った時のこと、僕の不注意から置き引きにあってしまい、サイフを入れたポシェットを盗まれてしまいました。
 会場スタッフにそのことを告げ、対処をしていただいておりましたら、それを耳になさった堀内さんが様子を見に来られ、「どこから来たの?」「帰りの交通費はあるの?」と気にかけてくださいました。僕は友人と来ていたので帰りの交通費は彼から借りられると答えました(もちろん嘘です。実際は家に電話をかけ姉に迎えに来てもらいました)。
 「せっかく僕たちのコンサートを聴きに来てくれたのに災難にあって、嫌な思いを残しちゃうよね。ごめんね」と言われました。会場のセキュリティや対応に問題があったわけではなく、すべては僕の一方的な不注意ですから、堀内さんにお詫びをしていただく謂れはありません。
 スタッフの方に出された何かの用紙に住所氏名などを記載し渡した後、楽屋の方に招かれ、「ガロの歌でどんなのが好き?」と聞かれました。僕は堀内さんの作られた「水色の世界」が好きだと答えると、開演前のお忙しい中なのに、置かれていたマーチンを取り出しワンコーラスだけ歌ってくださいました。決してその時のことを僕は忘れないでしょう。
 ガロの歌は僕にとって昔のフォークソングではなく、今も頻繁に口ずさみますし、CDもよく聴きます。つまり何年たっても「現在」なのです。

 その現在に身をおく僕ですが時間の重要さに気づいていないようです。
 時間はいつでもあり、都合の良いときにいつでも立ち寄れるし、人に会えると思い込んでいる節があります。最大の欠点です。
 今日(既に昨日)、仕事の途中に銀座に立ち寄りました。
 そこに「ニューキャッスル」という洋食屋があります。並木通りを折れたところにある元の店は何年も前から閉ざされたままになっていますが、新たに銀座2丁目にある銀座ランドビルの地下一階に移って営業を再開しています。
 その新店舗の方へ初めて食べに行きました。
 メニューは「カライライス」。
 品川、大森、川崎といった駅名がついているのはそのままでしたが、カライライスは30年前当時食べたものとは異なり、もっと洗練されたカレーライスになっていました。
 「元のオーナーはお元気なのですか?」とカウンターの向こうにいた青年に話しかけました。
 思えば馬鹿な質問です。僕が足しげく通っていた30年前当時、すでにご高齢だったオーナーが現在何歳になっているかを数えてみればわかりそうなものです。
 初代のオーナーが他界されてもう14年になるそうです。
 いつも食べていたから、いつでも食べられる。そんなはずはないのです。同じく銀座にあったジャルダンというムール貝料理専門店が閉まった時にも同じ後悔をしていたはずなのに。
 僕は時の実感をつかめないまま、店の跡地の変遷を眺め、閉じたまま朽ちてゆく店構えを見送り、その14年を空白にしてしまったのです。
 時が過ぎている。
 僕には10年も20年も前のことだとは今もって思えないのに。
 「カライライス」という同じ名を持つ別の料理を口に運びながら当時を思い出し、新しくなった「カライライス」に現在のおいしさを感じていました。
 僕の頭の中では、自分は今でも高校生か、大学生のつもりでいるのです。
 20歳になったばかりの頃だったでしょうか。瀬戸内寂聴さんに「切に生きる。刹那を生きる。その大切さを感じられるように生きてください」と言われました。けれども、どうやら僕には難しすぎる課題のようです。

 堀内護さんとニューキャッスルの初代オーナー、逝かれたお二人に心から合掌致します。




スポンサーサイト

テーマ : ひとりごと…雑記…きままに
ジャンル : 日記

コメントの投稿

非公開コメント

おはようございます

堀内さんはとっても素敵な人だったんですね
素敵なエピソードに、
朝から胸があたたかくなりました。
今を大切に生きるというのは
ほんとうに難しいものですね。
ぼくも「カライライス」のお話を
教訓にさせていただき
いまここに生きることに邁進したいです。

ありがとうございます。

偕誠様

 偕誠様のブログ、拝見させていただいております。更新が為されるたびにお元気であることを確認し、そのお話をゆっくり読ませていただいております。

 ガロのコンサートに行ったのは、僕がまだ小学校高学年の頃で、きっと堀内さんの眼には線の細い、頼りない子供に見えたのでしょうね。本当に優しい方でした。

 「今日できなくても明日がある。いつでも会える」というのは恵まれた思い上がりですね。
 時間はもっと厳密で切実なものであるのに。僕ももっとしっかりしないと駄目ですね。
 これからも宜しくお願い致します。
sidetitleプロフィールsidetitle

otosimono

Author:otosimono
全く役に立たない独り言です。

sidetitle最新記事sidetitle
sidetitle最新コメントsidetitle
sidetitle最新トラックバックsidetitle
sidetitle月別アーカイブsidetitle
sidetitleカテゴリsidetitle
sidetitleFC2カウンターsidetitle
sidetitleカレンダーsidetitle
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
sidetitle検索フォームsidetitle
sidetitleRSSリンクの表示sidetitle
sidetitleリンクsidetitle
sidetitleブロとも申請フォームsidetitle

この人とブロともになる

sidetitleQRコードsidetitle
QR