蔵原伸二郎 「きつね」

 僕は本当は何にでもなれたんです。
 なれなかったことは努力を怠ったことが原因なんかじゃない。
 努力をして失敗したときの恥に堪えるだけの強さがなかったからなんです。
 やらないから失敗したというのは決まったことで、誰に対してもそう言えたんです。
 「やればできるんだよ」という言い訳はとても便利で都合よく、遠目から頑張ってる人を笑っているだけでよかったから。
 嫉妬と羨望を捨てきることもできずに。
 無限の時間が人にとっては刹那の有限であることに気づきもしないで。
 思い上がっていたんだね、若さってやつに。
 もうこうなってしまうと取り返すことは時間を巻き戻すことに匹敵するほど不可能に近いんです。
 だから取り返すのではなく、新しく始めてみようかと思っています。
 その「新しく」が何なのか、見当もつかないのだけれど、とにかく始めてみたいんです。
 そう思えるようになったってことは、ちょっぴりだけやる気を取り戻してきたのかな?
 あの日、授業をさぼって屋上で寝転がっていた時の君の言葉を、今一度、取り出してみました。

 目の前にあるものに触れるのは恥ずかしいことじゃない。
 惹かれてしまうことを誤魔化さなくもてもいいんだよ。
 触れたことで壊れることもあるし、怪我をすることもあるだろうけれど、それはそれで大切なことなんだ。
 自分が「変わっているんじゃないか」と思うのではなくて、みんな違っているのが正しい。
 違っているから誰にもまねのできない唯一無二の自分の生き方があるんだよ。
 それにね。
 違っていることを受け入れてくれる仲間を友達っていうんだ。

 そうだね。
 今なら素直に受け取れる気がします。
 あれから随分と時間が過ぎて行ったね。
 もうすっかりオヤジになった、お互いに、たぶん。

 君が僕に教えてくれた詩をここに。


 蔵原伸二郎 「きつね」

 きつねは知っている
 この日当たりのいい枯野に
 自分が一人しかいないのを
 それ故に自分が野原の一部分であり
 全体であるのを
 風になることも 枯草になることも
 そうしてひとすじの光にさえなることも
 狐色した枯野の中で
 まるで あるかないかの
 影のような存在であることも知っている
 まるで風のように走ることも 光よりもはやく
  走ることもしっている
 それ故に じぶんの姿は誰にも見えない
  のだと思っている
 見えないものが 考えながら走っている
 考えだけが走っている
 いつのまに枯野に昼の月がでていた


 
 
 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

sidetitleプロフィールsidetitle

otosimono

Author:otosimono
全く役に立たない独り言です。

sidetitle最新記事sidetitle
sidetitle最新コメントsidetitle
sidetitle最新トラックバックsidetitle
sidetitle月別アーカイブsidetitle
sidetitleカテゴリsidetitle
sidetitleFC2カウンターsidetitle
sidetitleカレンダーsidetitle
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
sidetitle検索フォームsidetitle
sidetitleRSSリンクの表示sidetitle
sidetitleリンクsidetitle
sidetitleブロとも申請フォームsidetitle

この人とブロともになる

sidetitleQRコードsidetitle
QR