佐世保

 1945年(昭和20年)6月28日23時58分、雨の中を切り裂くように佐世保市上空に30機あまりのB29が飛来し空爆を開始しました。
 その激しい波状攻撃は29日未明まで続き、実に市の3分の2を焼失させ、中枢はほぼ壊滅。死者は1,226人におよび、現在も身元の分からないままになっている犠牲者は200人を超えていると言います。
 僕は東京の下町生まれで、空襲と言うと3月10日の東京大空襲がまっさきに頭に浮かんできます。
 その時の惨状については、当時、浅草に住んでいた母の実体験や小学校から中学までを下町で過ごしたので近所のご老人たちからある程度は聞き知っていました。
 ですが、6月28日から29日にアメリカ軍によって行われた佐世保や岡山の空襲については何の情報も持ち合わせていはいなかったのです。
 僕がそれを知るのは旅の途中でふらりと岡山に立ち寄った高校生最後の夏休みになります。
 その時、僕は自分の見識のなさに茫然としました。
 「空襲は東京ばかりではない。」
 それは当たり前のことだったのですが、その事実を少しも思い描いたことはなかったのです。
 そして今回、そのもうひとつの被災地である佐世保を訪問する機会を得ました。

 佐世保の空襲については、小玉ユキさんの「坂道のアポロン」のスピン・オフでも取り上げられています。
 物語のヒロインである迎律子の父親である勉が空襲によって家族も家も失い、その喪失感のなかで音楽によって再生していく自分を見つけ出す場面がラストに描かれています。

 坂道のアポロン BONUS TRACK (小学館フラワーコミックス)

 不幸を不幸として嘆き扱うのではなく、すべては繋がってゆくのだと言う希望への道筋として取り上げているのは、佐世保空襲の犠牲者を供養するために建立された鎮魂慰霊平和祈願之塔に刻まれた「尊い命の土壌の上に生きていること」という言葉と同じ思いを底においているのでしょう。

 三浦町教会03 三浦町教会01

 その佐世保市街の中心を走る国道を見下ろす高台に建てられた小さな教会があります。
 白亜の壁で塗られた三浦町教会と呼ばれるその建物は空襲当時のままに奇跡的に無傷で残りました。
 戦時中は白壁は目立つということで建物をコールタールで黒く塗り潰した漆黒の教会だったそうです。
 白い壁を黒くしたからという単純な理由で見逃されたわけではないでしょう。そこにはやはり大いなる偶然が働いたのです。それを奇跡と呼んでも差し障りはないと思います。
 誰もいない聖堂内にステンドグラスから射し込む光は鮮やかに照り映え、静謐さを尚一層神々しく演出するかのようです。
 それでいて権威に満ちるのではなく、床や壁に射し込む光は息をつく安らぎを与えてくれます。
 「教会の門は常に開かれているのだ。ただ受け入れるためのみに」と僕を諭してくれたロンドンのクレメント教会の神父さんが思い浮かんできました。
 彼には非常にお世話になりました。
 行き倒れかかっていた僕に「体が冷え切っている時には熱過ぎるスープは良くないんだ」と少しだけ冷まして持ってきてくれたことなど、ささいなことまで思い出します。そして、もうその彼も故人であることに胸が痛みました。

 三浦町教会02

 三浦町教会は観光施設ではなく、現在も多数の信者を有し定例の礼拝が行われています。見学の際はくれぐれもお気を付けください。

 弓張岳02 弓張岳01

 さて三浦教会を離れて市街地からバス、或いは、タクシーで15分ほどいったところに弓張岳というのがあります。
 この弓張岳は西海国立公園の九十九島を一望できるベスト・スポットとなっていますが、ここにも戦争遺構があります。
 クレーターのように刳り貫かれた砲台の跡です。今は砲台は取り除かれて木が植えられ、それだと教えられることがなければ見過ごしてしまうかもしれません。 
 
 ここの展望台から見る佐世保港は素晴らしいです。
 特に夕暮れからの光が織りなす変化は美しく、今は昔と語る声も微かになり、暮れなずむ島影のただ雄大な景色に見とれるばかりです。
 この日は生憎と靄かがって遠景は霞んでいましたが、それでも色彩の変化を楽しむことができました。
 公園内には数多くの文学碑もありますのでご興味ある方は辿ってみてはいかがでしょう。
 ただし、弓張岳から佐世保駅へ向かう最終バスは夕方18時44分(3月16日現在)ですのでご注意を。それ以後は自力で4キロほどの道のりを下るか、タクシーを呼ぶことになります。ですので、最終バスの時間を確かめておかれたほうがベターです。
 
 弓張岳04 弓張岳03

 長崎も佐世保も決して明るい歴史ばかりを負ってはいませんが、その複雑な過去もすべて坂道を歩くようなものかもしれません。
 艱難辛苦喜怒哀楽は坂の上り下りと同じで、向きを変えてみれば何のことはないと、乗り越えていかれるのだという力を与えてくれるかのようです。 

 


 
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