スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

新年、明けましておめでとうございます。

 今回は「20世紀初頭の挿絵」とは全然関係のない、僕の「断片」の話です。次回からはまた挿絵について再開します。

 大掃除をしたわけではありませんが、大晦日に机の下からMS-DOSのフロッピー・ディスクなどという懐かしいものを発見しました。ラベルは鉛筆書きのため擦れて褪せており、乱雑な字で「×××のプロッ×、案(1)別紙×り」とだけしか読めなくなっていました。どんな内容なのかすぐに見たかったのですが僕のPCにはフロッピー・ディスク・ドライブがありません。そこで今日、仕事はじめの打ち合わせをした出版社のディスク・リーダーに入れて確認してみました。そしたら、どうやら学生時代に同人誌のために書いたもののようです。ふた昔、いや、さん昔くらい経過していますね。文体は今とそう変わってはいないようですが、展開が唐突で、出てくる器械もPCではなくワープロだったり、ほおずきなどの値段もずっと安いです。思わず笑ってしまうような内容でしたが、今更に見つけたのも何かの縁かもしれませんので、ブログにでも載せてみようかと思った次第です。
 転記しながら「書き直そうか」とも思いましたが、そのままにしておくことにしました。
 話は終わっていません。当時の僕がプロットに肉づけをしてみたものの途中で「落ち」を見失ったのか、これを書くのに飽きたのか、後で書くつもりだったのかわかりません。でも、「案(1)」としたままのところから察するに放り出した感が強いですね。第四章(?)は小タイトルだけで何も書かれていません(因みに全体の題名もありません)。「この後をどうするつもりだったのかな?」と、あの頃の自分に尋ねてみたくもなりますね。以下がその内容です。
 
 (一) 掌
     
 君は、店の人の目を盗んで摘み取ったほおずきの実を口に入れて「苦いね」と笑った。それはいつもの君ではなく、シネマスクリーンに映し出されている誰かのようで、見知らぬ人のその笑顔は僕を戸惑わせた。 
 僕は目をそらすように周囲を見渡す。それにしても、ほおずき市なんて何年振りだろうか。かつては毎年のように来ていたものだが、今の職についてからは足が遠のいていた。今日がその日であることも彼女の口から聞くまで知らずにいたのだ。
 朝顔市、ほおずき市、酉の市、富岡八幡や地蔵坂の縁日、どれも懐かしい。子供の頃には、これらを理由にすれば夜でも大手を振って出かけられた。思えば、夜の街に誘われだしたのはそれが原因だったのだろう。
 しかし、四万六千日のご利益を謳うほおずき市は、こんなにも出店が少なかっただろうか?以前はもっと出店が多かったような気がする。人の賑わいもこんなものではなかったという記憶がある。とはいえ、そんな気がするだけで確信は無いけれど。 
 君はと言えば、一列に吊り下げられた風鈴を指で弾いている。
 「ほおずきが欲しいなら一鉢買おうか?2000円を1500円にまけてくれるって言ってたし。」
 「ううん、いらない。だってアパート暮らしでは枯らしてしまうもの。」
 そう言ったあと君は小走りに人と人の隙間を縫ったかと思うと、カルメ焼の屋台の前で立ち止まった。
 僕は君の後を追う。
 君は屋台の親父さんの手元を覗き込みながら独り言のように呟く。
 「カルメ焼って簡単そうだけど、結構テクニックがいるのよ。うまく冷やせないと萎んじゃうの。」
 君は並んでいるこどもの肩越しから何を見ていたのだろう。君には僕の言葉は届かない、その時はそう思った。君の無邪気さはどこかに陰残な香りを忍ばせた殺風景な子供部屋のようだ。
 「この欠けたの1個頂戴」と、君はいつもの通りによく通る声で100円を掌に乗せて屋台の親父に差しだした。
 そして、割れたカルメ焼を1個買い、僕に大きいほうの半分をくれた。
 「小さいほうでいいよ」と僕が返そうとすると、君は手のひらにもう半分の欠片を並べて言った。
 「いいの。私、すこし食べたいだけだから。小さいほうが私でいいのよ。」
 閑散として見えたほおずき市も出店の電球が点灯するにつれ、夕闇が降りるのと重なるように次第に賑わいを増し、思うように並んで歩けないほどになってきた。ふと振り返ると君が人混みに遮られてぽつんと立っていた。
 繋いだ手が離れたのか、それとも、初めから繋いでいなかったのか、僕は曖昧な感触を残す掌をゆっくりと握って開いた。君は進む気がないようにも見え、また、人の多さに気遅れし途方に暮れているようにも見えた。そう見えたのは点り始めた夜店の不思議な明るさのせいだったろうか。
 僕は思うように流れを遡れず、君を迎えに行くことができない。仕方なしに道脇に避けて君が来るのを待った。
 ようやく追いついてきた君に僕はひと言謝った。
 すると君はいつもよりも穏やかな微笑をうかべて「はぐれた時って探すのと、諦めるのとどちらがいいのかしら?」と言った。
 「はぐれたら探すに決まってるよ。」
 僕が少し不機嫌そうに答えると、君はまた微笑んで言葉を繋げた。
 「風鈴だけ買ってくるね。」
 人波を避けるように人形焼きの屋台の後ろを回って、もとのほおずきの出店に戻って行く君の後姿。
 (はぐれたら探すに決まってる)と僕は胸の内で繰り返した。
 僕には君が何を言いたかったのかさっぱりわからなかった。

 (二) ほおずき
      
 私はこっそりと橙色のその実を摘み取った。
 ほおずきは、その内側に別の宇宙を持っている気がする。細かな網目状の萼の名残に包まれた火灯色の実。頬の紅色からその名がついたと言う。そう言われれば赤ん坊の頬の色にも似ている気がする。房を開きその実を取って口に含んでみた。ビー玉のように転がる冷たい感触と独特の苦みが口腔に拡がる。
 「苦いね。」
 私がそう言うと貴方は「そんなの食べる人はいない」と言いたげにちょっぴり呆れたように笑った。
 「ほおずきを買ってかえろうか?1500円でいいっておじさんが言ってたよ。」
 「ううん、いらない。アパートでは地植えできないから枯らしてしまうもの。」
 そう、きっと枯らしてしまう。世話を充分にみてあげることもできずに枯らしてしまうから。
 いつだったか朝顔の鉢植えもそうだったもの。毎朝夕、コップ一杯の水を上げていたのに蕾を持ったまま枯れてしまった。地面から切り離された植物はそれだけで生きてゆくのが難しくなる。たぶん、貴方にはそれがわからない。
 カルメ焼きの屋台を見つけた。
 小さなお玉の中で鼈甲色になった砂糖水がぐつぐつしている。実演はいつ見ても面白い。重曹卵を加えて膨らんだら、さっと冷たい濡れ布巾の上で冷やしてできあがり。簡単そうに見えるのだけれど結構難しい。氷砂糖の冷たさとは違って、カルメ焼きは温かい。私はその温もりを感じさせる口当たりの少し重い甘さが好きだった。
 「重曹卵を混ぜ合わせて冷やすタイミングが難しいのよ。私もチャレンジしたことあるけど失敗ばかりだったの。」
 「自分ちでも作れるんだ?」
 「材料はどこにでもあるもの。」
 綺麗な完成品は1個100円、壊れたのは1個70円。私の前にいた小さな姉妹は形よく焼けた2個入りのを1袋買って帰って行った。
 「おじさん、このこわれを1つ頂戴。」
 私は割れたカルメ焼きを1個買い、彼には大きい欠片のほうをあげた。
 観音様へのお参りを済ませた後、人ごみで貴方を一瞬見失った。私は必死に姿を追い、人々の切れ間にやっと貴方を見つけた。ほんの数メートル先のことなのに私には計り知れない距離のように思えた。
 人の流れが緩やかになっている道端で貴方は待っていた。私が傍によると小さく「ごめん」と言った。
 私たちはまた歩き始めた。今度は軽く手を繋ぐようにして。
 「どちらかが先に行こうとして、もう片方が歩みを止めるから、きっとはぐれるのよね。」
 私がそう言うと貴方は怪訝な顔をした。その表情は私が「ほおずき市に行きたいな」とせがんだ時と同じ。
 貴方は知らない。今日、私が誘った理由を。
 「ねえ、風鈴だけ欲しい。」
 そう言ったら貴方は何て答えるかしら?
 たぶん、「風鈴なんてここでなくてもどこでも買えるよ」って言うわね。
 風鈴だけではなく、ほおずきも、釣り忍も、何もかもここじゃなくても買えるのよ。でも、ここで買うことに意味があるってわかってる?貴方にはそんな簡単な思いが欠けている。

(三)逃げ水
 
 風がひと吹き頬を撫でる。その風に連れられ、どこかから鋭利な、短い悲鳴のような音がした。
 耳鳴りなのか、蝉の声なのか、どちらともと判断がつかない音がずっと鳴っている。
 (またあの音がする。)
 もう音の先を探す気力もない。
 僕はただ横たわっている。
 (ここは、僕の部屋なのか?)
 輪郭のつかめない意識と現実味を無くした天井とがそこにあった。
 だらしなく体側に放り出された掌を掴むものがある。
 (指。)
 冷やりとした柔らかな感触がそれを伝えた。しかし、既に僕には握り返すことも拒否する力も無くなっている。
 そして「あれから何日経ったのだろうか」と朦朧とした頭で重い記憶を辿った。
 
 「・・・君、・・・君、聞こえているのか?」
 強い口調に感覚を呼び覚まされた。
 「しっかりしてくれよ。残された君がそんなでは彼女も安心できないだろうが。気持ちは察するが仕事は仕事。出てきている以上、きっちり仕上げてくれよな。」
 部長代理が僕の肩をひとつ強く叩き、笑った。肩でじんとした鈍い痛みが後を引いた。
 僕はゆっくりと自分のデスクに戻り、セットされているワープロの電源を入れる。
 同僚が声をかけてきた。
 「お前、寝てないんじゃないのか?目の下にひどい隈ができてるぞ。眠れないないなら、今夜ひとつどうだ?気晴らしにはなるだろう?」
 と手でグラスを挙げる真似をした。
 「いや、やめておくよ。」
 僕はたぶんそう答えた。答えたような気がする。しかし、それは自分の頭の中に浮かんだ文字だけだったのかもしれない。
 だが結果として僕は行かないだろう。それは確信できた。
 (眠れていない?僕が?)
 器械が起ち上がるのを待つ。ロゴが表示されたディスプレイに、そう大していつもと変わり映えのしない自分の顔が映っている。
 (目に隈ができているって?どこがだ?)
 確かに身体的には疲れていた。いや、疲れているような感覚はある。
 今の自分を譬えるならば、床に落ちたゼリーと言う形容が相応しい。元の形を失い、半透明で所在をなくした感じがそっくりだと思う。
 (物憂い。)
 自分の声なのか?外から聞こえたような気もする。だが、恐らく空耳。
 僕はキー操作をしながら螺旋の迷路に入り込む。
 あれが事故だったのか、そうでなかったのかはわからない。残った事実は君が地下鉄で電車に巻き込まれたと言うこと。それだけだった。
 ホームで君は貧血でも起こしたかのように崩れ、走ってくる電車の前に倒れたらしい。帰宅ラッシュ直前の午後5時のことだった。
 数百人、いや、数千人にも及ぶ無関係な人々が路線図上に足止めされた。君の一瞬が彼らの足を止めたのだ。
 僕に真実など判ろうはずもない。その一報に触れた時、ただ脳が弛緩した。
 
 仕事をする気も起きず、早々に職場を後にした。
 暑い。したたる汗が首筋から胸元へ流れ込む。
 見ているものすべてが対流する水の中で揺らいでいるように思えた。
 土曜の午後2時、アスファルトに逃げ水が浮かぶ。存在しない水溜りに映り込む景色は現実のものなのだろうか。揺らぐ陽炎を僕は凝視する。
 不意に目の前に鳩が舞い降りた。しかし、それも逃げ水。
 僕は汗を拭った。
 耳の近くで鋭利な、短い悲鳴のような音が鳴った。
 まただ、あの音がする。どこだ?僕は耳を澄ませ立ち止まる。
 瞬間、交差点の「通りゃんせ」が僕の意識を切断した。

(四) 風韻

 
 お世話になっている編集の岸田氏が気を使って「リライトしてみたらどうですか?」とお世辞で言ってくれましたが、今となってはどうする気も起きないので「そのうちに」と応えてみました。
 「案(1)」から「案(2)」になれなかった、意味のない昔の断片の話でした。


  
スポンサーサイト

テーマ : 雑記
ジャンル : 日記

コメントの投稿

非公開コメント

sidetitleプロフィールsidetitle

otosimono

Author:otosimono
全く役に立たない独り言です。

sidetitle最新記事sidetitle
sidetitle最新コメントsidetitle
sidetitle最新トラックバックsidetitle
sidetitle月別アーカイブsidetitle
sidetitleカテゴリsidetitle
sidetitleFC2カウンターsidetitle
sidetitleカレンダーsidetitle
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
sidetitle検索フォームsidetitle
sidetitleRSSリンクの表示sidetitle
sidetitleリンクsidetitle
sidetitleブロとも申請フォームsidetitle

この人とブロともになる

sidetitleQRコードsidetitle
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。