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小松郁子「錯誤」-詩集「小さな部屋」より

 自分が傷つくことが怖くて心を閉じ込め、胸の奥で蟠っている本当に心を押し潰す不安や悩みを打ち明けることもできず、閉じ込められたままで酸欠になり腐敗してゆく「思い」は、自家中毒を起こすガスを体中に充満させてしまうのです。

 「たいしたことないよ、そんなの」と、「気にしない、無視すればいいよ」と、顔のまえの蠅を払うよりも簡単に言われてしまうことが、心底耐えられないのに、そういわれると「そうだよね」と相槌を打ちます。
 心では「簡単にいうな」と繰り返しているのに、それを口に出すことが出来ません。
 他人から見た「ささやかな悩み」は、自分の中で行き場を失くして重さを増していきます。
 真剣な悩みは深刻な悩みとなり、深淵の闇をつくりだしてしまうのです。
 だから安心したくて、良い話ばかりに聞き耳をたてて、幸せな童話ばかりに夢を見て、哀しい物語に涙するのです。
 そうしていると自分のどこかに、ピュアな部分が残っている気がしてくるのです。

 人の輪のなかにいるのは、とても面倒くさい。
 でも、人の輪の外に居続けるのは、それを維持して行くのは、もっと面倒くさい。
 だから、誰もが幸せな顔をして笑っているのだと、自分もつられて笑えていると、「同じもの」を共有している気がして安心したいのです。
 本当は何がそんなに楽しいのかと、どこか嘘っぽい馬鹿騒ぎを見下しながら。

 他人と触れ合わない自分に平穏な時間を感じ、同時に、触れ合わないことで不安な自分を感じて、融合する振りをして、必死に体を動かして、「仲間」を表現しようとします。
 流行にならうのは安心できるのです。
 人と違わないから。

 自分を裏切ったものは、外部の存在ではなく、自分のなかにあるということを承知していながら、誰かに憐れんでほしくて、自分を憐れみたくて、他人に裏切りを被せてしまうのです。

 現実は厳しいものだと誰かが言います。
 では、だから、嘘は優しいのでしょうか?
 それとも、優しいものが嘘なのですか?
 ならば、僕は優しい嘘をつき続けたいと思います。
 自分にも、他人にも、同じように。
 そして、それも、とても面倒なことなのです、おそらく。
 だから、いつの日か、投げ出してしまうのでしょう、たぶん。
 それを破綻と呼ぶかどうかはその時になってからの話です。
 確実に言えることは、すべては錯誤から始まっていたこと。

 小松郁子の詩集「小さな部屋」から一篇をご紹介します。

 詩集小さな部屋 (飯塚書店、1961年初版)

 「錯誤」 小松郁子

 ひとびとはあれこれ理由を考えるのですが
 つまるところ
 彼女は
 あんまりだわ
 を叫びつづけていたのです
 声に出したらもっと我慢できなくなると思って
 <あんまりなので>
 をかみころしたことが
 彼女の一つの錯誤といえます 
 大きな街によくある 
 小さな部屋部屋の中の一つで
 生前 彼女がききみみをたてていたのは
 たしか ひとびとの幸せばかり
 つまり そう つらいことは他人には
 あまりきこえないものですし
 つまり そう 哀れさや みじめさは
 そっと身をかくそうとする卑屈な習性がありますし
 つまり そう 幸せっぽいものばかりが
 キャッキャッと大声を更にあげたてるという誇張癖をもっていますので
 それも致し方ない
 彼女のもうひとつの錯誤といえます
 それを証明するひとびとのことば
 <大声でよく笑っていました>
 <かげのない人でしたがね>
 <不幸せだったのですって?>
              等々
 とにかく彼女はある朝
 ほんのりお化粧をして
 つつましく死んでいたのです
 これは我慢のできる事実ですが
 自殺のあとでは我慢のならない事実
 が徹底的といっていいほど起こります
 昨日までそっぽをむいていたひとびとまで
 より集まり
 哀れみ深い額をよせあい
 心の底から同情深いのにおどろきあい
 <死ぬほどのことがあったのなら
  話せばいいのに
  どうにでもしてあげられたのにどうにでも>
 とぬけぬけといいかわすことです
 これこそひとびとの最も大きな
 許しがたい狡猾な
 錯誤といえます





 
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