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(無題)

 その日の場所がどこであったのか思い出せない。
 木々の葉は既に落ち、葉脈標本のようになった枝の隙間から真冬とは思えない強い陽光が射していたのを覚えている。
 石段に腰かけて、足もとからあがってくる冷たさに膝をきつく合わせて僕はその言葉を聞いていた。
 「思考というものは人間に与えられた最も贅沢な自由であり、またもっとも罪深いものだって思うことない?私はいつもそんなことを思ってるの。つまりね、人は思考することによって現実と言う空間、もしくは時間から逃れたいのよ。いつだってそうするために思考という術を選択し、それによって心を不自由な体から解き放っているのよ。そして、その思考は嘘を生み、罪を生むの。言葉という記号を介してね。」
 彼女はそこで言葉を少しだけとめて「ああ、違う」とでも言いだけに小さく首を振り、言い直すようにまた言葉を紡いだ。
 「世界が記号で満たされているのではなく、記号が私達の世界をつくっているのでしょうね。人間が自分たちの法則によって生み出す記号と呼ばれるもの以前から存在していたもの。生命、万物を構成している記号。そしてね、その記号そのものがある意思を持っているの。記号っていうのが妥当じゃないとしたら信号でもいいわ。いずれにしてもセルっていう単体で最少の存在。細胞のことじゃなくて単に便宜上そう呼ばれているって考えてね。その中には振動、或いは、波というものが詰まっているの。それが、意思、もしくは情報といわれるもの。
 セルはとっても身勝手で、一つのセルには一つの意思情報しかなくて、それが集まって共同体としての大きなセルのコロニーを作り出す。さらにそれが共鳴し合って、自分たちの都合の良い大きな運動体をつくりあげて、個別のセルが有する情報を共有し結合して、あたかもオリジナルであるかのように装って行動様式めいたものを作り出している。人格っていうものもね。
 今、私が話していることも、話しているのではなくて、そう仕向けられているの。今の私は過去の情報の寄せ集めなのよ。私が忘れさせられているだけで。
 だからね、自分がひとつのオリジナルとしての人格であるっていうことがそもそも嘘だって、私は思うの。それは人だけじゃないわ。
 でもそれを知る方法は、不幸にしてか、幸いにしてか、一番身勝手な人間だけにわかりやすい形で与えられた。知能と言語という形でね。
 セルは崩壊と分裂、再生を繰り返し、時間をつくりあげていくの。時間とはセルの連続性によって形成されている相対的な現象のことだわ。そう考えると時間も空間も本当は意思的に創られ、壊されているのであって、コントロールされているプログラムのようなものなの。セルにとってはすべてが実験体みたいなものだわ。
 そう考えることで私は自由になれると思うの。」
 
 1967年、NASAが初めて世に公開した一枚の写真。それが人類が初めてみた地球と呼ばれる惑星の姿だった。
 その地球という最大のセルの集合体は、その皮膚上に繁殖したウィルスの齎す害悪に最終的な意思決定を行おうとしてるのかもしれない。
 人間による人間の絶滅。
 仮に人間と呼ばれるものが全て消滅しても、セルにはその情報が記録され、何らかの形で次世代に伝達されて行き、そしてまた新たなる集合体をつくりあげていくのだろう。
 セルの意思として人間は消去され、地球はリセットされることになるのだろう、いずれは。
 惑星的な時間からみれば僕たちの存在は、その瞬きよりも短いものなのだから。

 僕が彼女の話を突然に思い出したのは、雲一つない夜空を見上げたせいかもしれない。
 まだクォークの先にある存在を知らなかった頃の僕たち。

 僕は思った。
 すべてが滅ぶことと、自分だけが存在しなくなることとは同義なのだろうと。
 僕は僕に認識できるものしか認識できないので、世界の不存在と自分の不存在との違いを区別することができない。
 いずれにしろ僕には後者の選択しかありはしない。問題はそれが「いつになるか」だけなのだ。

 高校生の彼女は僕の記憶のなかでは永遠にそのままで、僕には現在の彼女を想像することもできない。
 僕だけがその相対的な時間のなかで年老いて行く。
 僕は彼女の姿を留めてくれたセルに感謝している。願わくばその記憶を連れたままでと。


 
 


 

 

 

 
  
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