天乃咲哉「御伽楼館」

 最近、というか、大分前からですが、優しい物語に触れたいと思うことが多くなりまして、そういう中で先だっての横田沙夜さんの「スノーグース」は実にタイムリーな個展でした。
 今も「静かで透明感のある良い絵だな」と思い、眺めています。彼女のことは以前から知っていたというものではなく、全くの偶然でしたから尚の事です。

 で、今日はコミックを取り出してきてみました。天乃咲哉「御伽楼館」です。

 御伽楼館1-01 御伽楼館1-02 (芳文社、2008年初版)

 天乃咲哉といえば「月刊ドラゴンエイジ 」で2008年1月号から2012年5月号まで桜庭一樹の小説「ゴシック」をコミカライズして人気を集めましたが、この「御伽楼館」はそれを手掛ける直前の作品になります。
 初出誌は「まんがタイムきららキャラット」で、2007年6月号 から2009年6月号まで増刊号での掲載となりました。単行本化するにあたり本編に加筆がなされているようです。
 僕がこの作品を手に取ったのは本誌掲載時ではなく、単行本になってからなので、どこが加筆されているのかはわかりません。
 この作品が「天乃咲哉」という漫画家を知った最初です。作品についても、作者についても予備知識を全く持ち合わせていませんでした。

 御伽楼館1-03

 絵柄が柔らかく、線が綺麗でしたので何気なく手にとってみただけでしたが思いのほか素敵な短編集でした。
 読み終えてから作者について調べ、「此花工房」( http://amanojaku.chu.jp/ )と言う作者のサイトを拝見したりしました。
 「好きな言葉」が、松下幸之助の「「苦難が来れば、それもよし。順調ならば、さらによし」であり、それと同等に「「先生、〆切りが延びました」という編集担当者の言葉をあげているのには思わず微笑を禁じ得ませんでした。
 それから「将来の夢」が「 尼さん漫画家として、小さな瀬戸内寂聴さんみたいになりたい」というのもユーモアがあります。「小さな…」というのが良いですね。瀬戸内さんに「お手紙でお知らせしようかしら」と思ったほどです。

 御伽楼館2-01 御伽楼館2-02 (芳文社、2009年初版)

 本編ですが、「当店はお嬢様に限りお代はいただきません。お客様の思い出の品と交換でお好きな人形をお貸しします」というミステリアスな人形店を営む美少女人形師のふたごの姉妹が中心となります。 
 各短篇には基本的には連続性はありませんが、「終着駅」と「夢見る乙女」については人物の繋がりがあります。

 「終着駅」は、お店を持つために仲間三人と共同して集めた資金を、そのうちのひとりに持ち逃げされ、「金なんてマトモに働いたって儲かるモンじゃねえんだ。だったら誘拐でもして一気に稼ごう」と自暴自棄になった青年と誘拐の被害者であるはずの少女とのワンナイト・トリップ。
 少女が夜行列車のなかで語った「夜明けは・・・まだずっと向こうのほうかしら。時間は十分にあるわ」というセリフが、日常の姿に燭光を与えるような気がしました。

 「夢見る乙女」は、前作の三人のうちのひとりであるロイ・フランクと18歳以降の記憶を失くしてしまった老婆アンネローゼとの時を超えた恋愛の話です。
 
 作品全体としては薄いヴェールのような悲しみを纏ってはいますが、各話には人の生きる姿の美しさに視点を置いたハッピーエンドが仕組まれています。

 僕個人としては人形というとハンス・ベルメールの影響というわけでもないのでしょうが、様々な先入観からか「死」に近いものを想像してしまいます。
 しかしこの人形店で扱っている人形たちは、借主の思いを生命にかえて、時を救う奇跡の種になります。心優しい珠玉の詩花集です。

 「ちょっと疲れたな」という時にお手にとって見てください。「真夏の夜の夢」という人形店が、疲れた心に、ささやかな奇跡を起こしてくれるかもしれません。


 



 
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