飛び起きし声のこと

 ポケットの暗がりの中を降りゆきて とある秋の日の山の平なり (河野裕子)

 息を切らし懸命に山を登り続け、やるべきことを果たしてか、或いは志半ばにしてか、人は山をくだります。その森閑とした藪の暗がりの中を降りて行くと さっと視界が開けて明かりが射す場所に出会うことがあります。いつのまにか坂を下りて平地に出てきていたことに気づかされるのです。その開けた瞬間に人はそれぞれ何を見るのでしょう。
 秋の短い一日、ひと時の安堵。それは病魔に侵された人に訪れる、瞬間的な鎮静のようなものかもしれません。

 4~5日前からの風邪がひどくなり、一昨日は人と話すことはおろか、起きて歩くのも億劫なほどでした。けれど昨日はどうしても行かねばならない用向きがあり、抗生物質と風邪薬を適量を超えて飲み、何とか出向くことができました。そのせいか否かわかりませんが帰宅して夕食をとってしばらく後、立っていられないほどの眩暈を覚え床上に直に寝てしまいました。

 時間にすれば一時間ほどだったでしょう。

 夢の中で僕は仕事をしており、現場なのかわかりませんが遊園地と学校が混ざり合ったような場所を視察していました。図面を拡げ定規で建物を採寸し、完成予想図とデザインが違っていることをみつけました。そして、それを担当したらしい人物(見たこともない人)に、これはどうしたわけかと問い詰めているのです。彼はしどろもどろにメリーゴーランドの説明をしながら、リトマス試験紙を口にくわえて僕に反応を見せようとします。夢の中の僕はその挙動に怒りをあらわにして彼を罵る大声をあげました。

 その自分の大声で僕は目が覚めたのです。

 何と叫んだのかはわかりません。もしかしたら大声を出そうとしたところで目が覚めたのかもしれません。しかし目覚めた僕の鼓動は現実であったかのように早鐘を打ち、残ったものは後味の悪さというか、怒りをあらわにしたことによる嫌悪感でした。
 
 夢でも現実でも、人を罵るということは後味の良いものではありません。

 僕は立場上、ミスがあれば叱らなければなりません。場合によっては罵倒に近い怒りかたをしなければならないこともあります。そして叱った後はいつも自己嫌悪に陥るのです。怒ることなく人を諭す方法はないものだろうかと。もっと別の言い方は無かったのだろうかと。

 仕事ならまだしも、現実ではもっと些細なことで腹を立ててしまうことがあります。

 混雑する電車を降りようとして「すみません、降ります」と声をかけながら人を分けている時に、耳元で舌打ちなどをされるとその音がいつまでも耳の奥に残り、「あの野郎」などと悔しさとも怒りともつかない感情がいつまでも反復してしまうのです。

 そんなつまらないことを反芻してても役に立つわけでもないし、精神上に良く働くはずもありません。その度に自分の心の狭さを思い知らされるだけなのです。

 夢の中に人をののしりをりしこゑ わが耳は聞きおのれを厭う (河野裕子)

 冒頭に挙げた短歌と共に河野裕子の「日付のある歌」という歌集に収められています。

 自分の声を一番近くで聞いているのは、やはり自分なのです。
 恥ずかしさが現実よりも空想の中においてより鮮明であるように、怒りもまた思い返すことで鮮明に残り、自己嫌悪を引き起こす原因になってしまうのです。

 自分の言動に耳を傾けながら言葉を操ることができたならと、いつも思います。
 浅慮な僕は、いつだって考えなしに単語の羅列を吐き出してしまうものですから。 

 

 
 
 
 
スポンサーサイト

テーマ : ひとりごと…雑記…きままに
ジャンル : 日記

コメントの投稿

非公開コメント

sidetitleプロフィールsidetitle

otosimono

Author:otosimono
全く役に立たない独り言です。

sidetitle最新記事sidetitle
sidetitle最新コメントsidetitle
sidetitle最新トラックバックsidetitle
sidetitle月別アーカイブsidetitle
sidetitleカテゴリsidetitle
sidetitleFC2カウンターsidetitle
sidetitleカレンダーsidetitle
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
sidetitle検索フォームsidetitle
sidetitleRSSリンクの表示sidetitle
sidetitleリンクsidetitle
sidetitleブロとも申請フォームsidetitle

この人とブロともになる

sidetitleQRコードsidetitle
QR