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ネタの種

 7月になりましたね。夏が過ぎてしまえば一年なんて、あっという間に終わってしまいます。
 半年が経過し、なにひとつ達成できていない自分を改めて反省し、残る半年で何とかしようと決意を固めた次第です。いくら固めようとも、コーヒーゼリーほどの固さしかないのですけどね…。

 先日、物書きをしている知人が上京しまして、それほど親しい仲ではありませんが久しぶりに会うことになりました。
 前にあったのはいつのことだったかな?と思い探ってみますと、もう7年も前のこと。その前に会ったのは、更にそこから9年も前になります。ここ16年で2度ほどしか会っていなかったことに今更に驚きました。
 再会での開口一番。「やぁ、老けたね」とお互いに同じ台詞。それを耳にし、また同じように苦笑したりして。
 日産ショールーム前で待ち合わせ、「銀のぶどう」でゆっくりしましょうとなりました。

  注文を決めて、彼はコーヒー、僕は紅茶をすすりながら話をはじめました。

 「今日は東京まで仕事ですか?」
 「はい、出版社に原稿のことできました。」
 「入稿ですか?わざわざ持参するのは珍しいですね。」
 「いえ、原稿はないです…。」
 「それでは、連載の打ち合わせとか?」
 「いえ、違います。」
 と言ってから、彼はちょっと照れたような笑顔で、「締め切りの延長をお願いにきました。」
 「締め切りですか?それって電話とかで済まないのですか?」
 「あはははは、実はですね、もう3週間も遅れていまして、その前にも2週間延ばしてもらってて。」
 「…。」
 「それで今度はひと月ほど待っていただけないかとお願いにきたんですよ。書きおろしで良かったと胸を撫で下ろしています。これが連載だったらと思うと怖いですね。」
 相変わらず無邪気な人だなと感心していると。
 「ネタがね。ネタに行き詰っているんですよ。」
 「はあ…。」
 「僕は、純文学を書けるほど深い思索などできません。たとえるなら、ネタで食いつなぐコメディアンのようなものです。ネタが切れたらそれまで。日々、ネタ探し。ネタメモが命の次にくる、そんな悲しい職業なんですよ。」
 それから彼は延々とネタ話を語りはじめた。
 「ライトノベル作家なんて、あ、自分のことなんですけどね。ネタが寿命そのものなんですよ。切れたら終わり。しかも、この終わりは突然やってきます。いえ、やってくる予感がします。ある朝、目覚めると文章がなにひとつ浮かばない。一行も書けない日が来るかもしれない。そう思うと寝ることも怖くなります。」
 「確かに、徐々に書けなくなるというわけではないですからね。書けない時には、どんなことしても書けないですよね。」
 「そうなんです。ですから、目を光らせ、耳を欹ててネタハンターと化すわけです。路傍に石があれば、ひっくり返してダンゴムシにネタはないかと尋ね。朽木があれば足で蹴って転がしハサミムシをつまみ上げて『ネタはどこ?』と訊問する。空を見てはネタが降って来ないかと目を見開いて雨を受け止め。海に向かって『ネタよ、来い!』と叫ぶ。花を見ても、魚を見ても、風が吹くさまにもネタ、ネタ、ネタと。耳を澄まして、息を止めて、針音のような会話にも神経を集中する。たとえ変質者に間違われようともネタ探しに明け暮れるんです。わかりますか?その苦しさと寂しさ。そうしてやっと出来上がったものを、『これなん?焼き直しやないの。ぜんぜんおもろないわ。ほかしたろ』と言われた日には、大リーグボール1号を花形満に打たれた星飛雄馬もかくやと思われる傷心の有り様ですよ。」
 と彼は肩を落とした。
 私は一呼吸置いてから、「大分以前ですけど、司馬遼太郎さんが『小説を書くということは、空気を握りしめて一滴の水を絞り出すようなものだ』とおっしゃっていましたね。」
 「それ、それ、わかります。司馬さんのような大作家ではないですけど苦労は同じなんですよ。いやぁ、さすがだなぁ、司馬さんは。ほんと、わかります…。」
(あの~、泣きが入って目が潤んでますよ?)
 彼は出てきたクレープシュゼットを一切れ切り分けて口に運び、また話を続けた。
 「眠るのも、原稿に向かうのも不安だらけで冷や汗がでてくるんです。それで居た堪れなくなって、気がつくと手に汗握りしめてゲームコントローラーを持ってるんです。Lvも上がってたりするんですけど。」
(それ、ダメじゃん…、現実逃避でしょ…。)
 「本編よりも先に後書きが出来上がってたり、それで後書きに凝り始めて、後書きに苦しめられたりするんですよ。もう二度と後書きなんて書くものかって思ったりするんです。」
 (いや、それは本末転倒と言わずして何というのでしょう。)
 以後も、彼は散々にネタの苦しみを訴えた挙句に、「Tさん、ネタありませんか?ありますよね?あるでしょ?無いなんて言わないですよね?ブログに書く前にネタください!」
 「蒔けば芽が出るネタの種があるといいですよね…。」
 「はい、もし見つけたら僕に下さい。栽培してほかの人に売りつけます。」
 (自分が使うんじゃないの…?それに、ネタは咲いたら終わりだし…。)
 そして、彼は最後のシュゼットの一切れを食べ終えると、メモ帳を取り出して書き入れた。
 「ネタの種。」

 
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テーマ : ひとりごと…雑記…きままに
ジャンル : 日記

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