有栖川有栖「闇の喇叭」

 僕は推理小説が苦手です。想像力がないのです。娯楽小説として江戸川乱歩も読みますし、アガサ・クリスティやエラリー・クイーンも読みました。しかし、性格に合わないようです。
 事件の動機については「どうでもいい」です。多少、理解に苦しむことがあっても、(空想上であっても)人のすることです。現実の事件においても理解に苦しむ動機など至るところにありますから。心意を察するまで相互理解を深める必要はないでしょうしね。
 問題はトリックにあります。
 古典的なミステリーにおいて出尽くしてしまっている感があり、近年に及ぶに至って、こじつけがましいを通り越して、もう「トリック」自体を無視しているだろう?という作品が多すぎます。作品によっては、最後に犯人がつかまるまで「当事者」が登場しないなんて馬鹿げているものもありました(「犯罪自体がなかった」というものもありましたが、あれはコメディとして面白かったです)。
 ヒューマンドラマとして内容に入っていけるものは好きです(例えば横溝正史とか)。つまり、一般の小説(文学小説というには気が引けます)に近い感覚で読めるミステリーは僕には「可」で、純然たる想像力で補うようなものは「不可」ということ。つまり僕はミステリーファンシャーにはなれないタイプです。
 で、今回は僕に不向きなジャンルの作品をご紹介します。

 有栖川有栖「闇の喇叭」

 闇の喇叭01 (理想社、2010年初版)

 初版は2010年6月に理想社から出ておりまして、マークデザインを施したプラスティック・カバーの下に、イメージ・イラストが描かれた表紙が別に設けられています。
 初版出版後、経緯についてはわかりませんが、作家と出版社の間で差し障りが生じて契約が解除され絶版となりました。各章毎に挿絵があり、装丁も凝ったつくりになっていたので残念です。しかし、翌年に講談社との出版契約が成立し、2011年8月、新たに加筆、修正を施して新版として上梓されました。

 物語は南北に分断された日本を背景にしています。北海道が旧ソ連(ロシア)の力により占領され独立したという設定になっています。
 その経緯については史実を基に脚色を加えて「序章」に記されています。
 この「序章」ですが、ぜひ真剣に読んでいただきたいと思います。そして、できれば他の資料を当たって、終戦を迎えるに至った日本の実情を、史実を知っていただきたい。日本が「平和に終戦を迎えた」などというのはまやかしです。「日米のコミュニケーションが上手く行ったため」にテロや抵抗戦が生じなかったなどという詭弁に惑わされることがないように。
 この「序章」における「日本の立場」は本作では社会背景の一つ(重要ではありますが)でしかなく、物語に大きな影響を与えているとは言い難い面もあります。しかしシリーズ化を見据えた下地としては充分かと思います。

 主人公は「空閑 純」と言う合唱部に所属する女子高生。父親は元探偵。その父を補佐していた母親はある事件を境にして行方不明になっています。この「母親探し」も重要な要素になっています。
 
 この物語のもうひとつの社会的特徴に「民間人による警察類似行為が禁止」されているという背景があります。つまり「探偵活動は違法」であり、両親とも法を犯している犯罪者として警察に追われているということです。
 父親がどのような事件に関わってきたのかは本作では触れられておりません。「いつか話をしよう」と言う約束のみです。従って母親の生死も不明のままです。

 闇の喇叭02 (中表紙&署名)

 物語は彼女の夢から始まります。

 …どこまでも続く薄ぼんやりとした闇。その奥に、さらに黒々とした、輝くばかりの闇があった。
 漆黒という言葉そのまま。幾度も重ね塗りをしたかのような暗さだ。
 ただそれを眺めている。
 一個のまなざしと化した自分。
 時間さえ果てた世界かに思えたが、そうではなかった。
 視野の中心に、何かが見える。闇に慣れてきた目が、何かをとらえようとしている。時間はながれているのだ。
 形も色も定かではない。しかし、少しずつ輪郭が見えてくる。闇の真っただ中。虚空に浮かんだ何かが。…

 彼女はそこで音を聴きます。凛然と響く喇叭の音を。
 この音がやがて不吉な運命の予兆になり、彼女の進軍の証となります。

 「奥多岐野」という寒村を舞台に2つの殺人事件が起きるのですが、その事件にはあまり意味がありません。推理もトリックも無理を強引に押し通したようなものです。付録的とも言えます。事件は、彼女に「決意」を与えるための契機に過ぎないのです。殺人事件である必要性もなかったでしょう。他の事件でも同じ結果を導きだせたでしょうから。

 では、何に主脈が置かれているかと言いますと、「空閑 純」という一少女が「探偵」を決意するまでの経緯にあります。
 「警察」とは何なのか、「探偵」とは何なのか。そして「探偵」は「警察」に出来ない何をなすべきなのか?社会や権力は何を守るべきものなのか?
 それらについての疑問と逡巡とを少女に投げかけて行くのです。

 探偵「ソラ」の誕生の物語ではありますが、本作では萌芽はあるものの「探偵」ではありません。あくまで希望としての、決意としての「探偵」でしかないのです。
 物語は主人公の帰結を語りません。宙に放り出すかたちで締めくくられています。事件が解決した後、村を離れたという事実で結ばれます。
 
 闇の喇叭03 (第4章挿絵)

 この中には3つの正義があります。ひとつは政体を維持するための強権としての正義。中央警察から派遣された「明神」が掲げる公的治安組織である本分としての正義。それから、探偵が追う警察に頼れない、或いは、法で裁けない正義。

 僕としては「明神」には共感できる部分があります。冷めた人間としてみられるようにポーズは取っていますが、職務としての正義感を強く秘めた人物です。「闇米は食わず」を貫いて死んだ裁判官の逸話を彷彿させる性格が読み取れます。

 「ソラ」シリーズは講談社において再開され、「真夜中の探偵」「論理爆弾」と続いています。どの巻から読み始めても良いのですが、彼女の起源について知っておいてもらったほうが興味がわくと思います。

 闇の喇叭04 (講談社、2011年初版)






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