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別府葉子「仏蘭西小劇場 脱走兵」

 やっぱり書かなければよかったな、と思う事が多々あります。
 言葉にしてみたものの、口中に胆汁のような苦さが澱んで後味を悪くしてしまうことが。
 先日の記事がそれでした。シャンソンはともかく、政治の話題は避けるべきでした。
 でも、書いたものは消さない、それがどんなものであっても。
 真意の説明もなく、撤回などというものが軽々しく通じるのは、やはり政治の世界だけなのです。
 言葉にすることの責任を考えるためにも残しておくべきでしょう。

 さて、そういうことで、その原因が自身の抑えきれない苛立ちから生じているとの自覚を含め、話題を転換してみようとかと思います。

 前回、別府葉子さんのアルバム「仏蘭西小劇場"脱走兵”」からご紹介したわけなのですが、改めてご紹介しなおします。

 ジャケットの写真が良い雰囲気を伝えています。3枚のアルバムの中で僕が一番気に入っている写真です。
 このアルバムはタイトル通りに、各曲をパリの下町にある「小劇場」の演目に見立てて、曲順につながりを持たせているようです。
 選曲も秀逸で、全15曲に込められた人生のシルエットが、聴く人の心の中に映しだされるかのようなアルバムです。

 脱走兵

 このアルバムのオープニングを飾るのは「私はヴァイオリン」という曲です。

 …私の心はヴァイオリン。時には陽気に、時には憂いに満ちて。
  あなたの弓で奏でられるヴァイオリン…

 非常にロマンティックな歌です。別府葉子さんのリラックスした柔らかな歌声によくマッチしていると思います。
 この切ない恋に染まる甘美な夜曲のような独白を綴った後、次曲は路地を抜けた居酒屋に場所を移して、そこに集まった酔いどれたちのドラマを描写します。
 でも、店内ではちょっと物騒な噂が飛び交っているようです。

 …居酒屋は急に鎧戸を閉めた。窓に映るまるで映画のような人影。陽気なアコーディオン。
 縛り首を免れた大男が今夜、裏切った奴らを殺しに来ると言う噂が…(真夜中の居酒屋)
 
 居酒屋を出ると外は雨。少しミステリアスで危険な夜更けのパリ。3曲目は「雨の舗道」。

 …夜更けに過ぎ去るTAXI。霧の中のPARIS.
 繰り返す悪夢の夜、眠れない恐怖の中、今宵、舗道を彷徨うブルース…

 理不尽と不条理とが生活の中に蔓延し、それでも大多数の人々は現実を生き抜かなくてはなりません。
 4曲目は「脱走兵」、それから「アムステルダム」へと移ります。

 …アムステルダムの波止場には、海で取り憑かれた幻影を歌い続ける男がいる…

 夜闇を包んでいた霧が晴れるように舞台は明るい街なかに変わります。
 可愛い靴をならべた靴屋がありますが、ちょっと風変わりなお店のようです。だって「お代はいらないから私と踊りにいっておくれ」と靴屋の主人は娘に頼むのですから。しかも、思い通りにならないと「永遠に踊り続ける」呪文を唱えたりします。けれど「綺麗な靴と引き換えでは愛は手に入りません」(可愛い靴屋)。

 前半の最後は「脱走兵」を受ける形で締めくくられます。
 艶やかな声が郷愁を響かせる雄大な名曲のメロディに乗って、物悲しい詩の世界を見事に歌い上げ、白眉とも言えます。

 …微風が噴水の水面を通り過ぎて行く。
 陽は傾き、薔薇の花びらが舞い落ちて行く。
 太陽と風と雨と歳月に晒された壁には無数の亀裂が刻み付けられている。
 五月の朝、彼らはその壁に、歌いながら奇妙な傷を残していった。
 
 薔薇はその傷跡を辿って成長し、刻まれた人々の名に絡み付く。
 太陽と野の風と歳月に晒されて、いつしか噴水も枯れ果てた。
 五月の朝、人々が花を抱き、裸足でゆっくり歩み寄る。

 彼らの眼には、複雑な思いを秘めた微笑が宿っていた。

 夕日が壁を染め上げる時、鮮血と見紛う真紅の痕を際立たす。
 しかしそれは、薔薇の花に過ぎないのだ。

 我が愛するアランフェス…

 これはスペインの内戦を歌ったものです。
 壁に残る真紅の痕は、抵抗勢力の市民が銃殺された時の血と弾痕です。内戦が終わり、その壁の前で花束を供え犠牲者の冥福を祈る人々。そして暗い時代の記憶は、壁に絡み付いた薔薇の花に留められて行くのです。

 見事な構成です。このCDがLPレコードであったなら(A面とB面に分れていたなら)効果は絶大であったろうと思います。
 こうして「我が心のアランフェス」で前半の幕が降り、後半は「指揮者は恋してる」でコミカルに幕を開けます。

 …スキャンダルの嵐、今でも語り草。地位も名誉も投げ捨てて下町のビアホール。たった六人の楽団。愛する人に捧ぐ”青い波の上”。青い眼のウージェニー…

 フィラデルフィア交響楽団を率いていた若き天才指揮者の恋の顛末を聴いたら、次は不器用ながらも純真に恋心をいだき続ける女性の話。馴れない指使いで弾くカンタータが空の上の愛する人に届くように。

 …あなたの指からFa sol do fa、優しく流れたメロディ。私の指でぎこちなく、今、あなたを思い、ピアノの前で…(小さなカンタータ)

 富も栄光も所詮は仮衣。一瞬で散ってしまいます。
 パリ9区の競売場で競りに出される商品は、売り手の思い入れとは無関係に値をつけられ、縁も由もない人々のもとに渡ります。

 …いつの間にか競りは終り、ふと我にかえり手にしたものは古い皺だらけの紙幣。失われた過去の代償。
 見張りの立つ競売場を、背を屈め立ち去る彼女に残されたものは何もなく、ただ枯葉を踏みしめて行く…(競売場)

 枯葉は落日を思い起こさせます。ここにもう一人、過ぎた日々の思いに浸る姿があります。

 …どうか思い出して欲しい。僕たちが恋人同士だった日のことを。
  あの頃は毎日が美しく過ぎ、太陽の光は今よりも輝いてみえた。
  枯葉が風で吹きだまってたのを、僕は覚えている。
  枯葉は風に吹かれて舞いあがる。
  思い出も、そして、後悔も…(枯葉)

 人生は悲喜交々。時にはどうしようもない災難が降りかかったりします。当事者にどうしたらそのショックを柔らかに伝えられるか、任された人は悩みに悩みぬきます。で、最終的にこう言ってみるんです。

…奥様、万事順調でございます。ただひとつだけ、厩はお城からの飛び火で燃え、お城は灰塵に帰しました。でも、それを除けば、マダム、万事順調でございます…(万事順調でございます、奥様)

 いろいろなことがありますが、例えば浮気とか、痴話喧嘩とか、不本意に別れた恋人たちも。でも、せめてクリスマスくらいは今一度、恋に目覚めたいものです。新しい恋も、昔の恋も、本当のやさしさに満ちて。

 …アルマ橋ではいろいろあったけれど、それがどうしたというのか。いつもどおりでないクリスマス。そして、もとの暮らしが一番。7日遅れの幸せなクリスマス…(楽しいクリスマス)

 誰かに愛されるなら、自分が愛した人に愛されたい。他の誰からの愛でもない自分が望む人と恋をしたいという情熱。
 真空パックの初恋とか、恋人栽培キットなどというものが、いつか出てきたら嫌だなと思うのは僕だけでしょうか?そんなことありませんよね?

 …青空だって落ちてくるかもしれない。地球だってひっくりかえるかもしれない。でも大したことじゃない。
 あなたが私を愛してくれるなら、世の中のことはどうでもいい…(愛の賛歌)

 アルバムのラストは若さの熱気が飛び跳ねるような力強いナンバー「サン・ジェルマンへおいでよ」です。
 刹那的で無責任だと責められても、それが若さのエネルギーであったのだと、自分が思い通りに動けなくなった今、思ったりもします。

 …イマジネーションがなけりゃ、お家でおねんねしてな!ここは聖なる場所。合言葉は「思いつくまま!」…

 サン・ルイ島に架かるシュリー橋を発って、ゆるやかな弧を描くようにパリ5区から7区を通り、コンコルド橋まで。活気に溢れ、無数の人生を乗せて流れているのがサン・ジェルマン大通りです。
 現在は高級デザイナーズ・ブランドが立ち並び、僕のような者は居心地の悪さを感じますが、それでもちょっと路地に入れば落ち着きを見せる小さなカフェがあります。
 サン・トリノ、シャンゼリゼと並ぶ恋物語の名所です。

 シャンソンには物語が閉じ込められています。泥臭さもあるし、気障っぽさが鼻につくこともあります。けれど、それもこれも人々の呟きのようなものから生まれていて、どの歌も並べて眺めていると、まるで小劇場の出し物のように思えてきます。

 別府葉子さんの温かな声とナチュラルな歌唱。素敵なアルバムです。
 
 そのうち僕が好きなミレイユ・マチューのアルバムもご紹介できればと思います。


 

 

 

 

 
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