脱走兵、或るシャンソン

 国の腐敗というのは汚職のみを指すわけではありません。
 真の腐敗とは、国民の手から政治が離れ、一部の政治資金提供者の恣意による政治が横行することを言うのです。
 自らの痛みを伴うことなく、苦痛のすべてを大多数の国民に押し付けて、安穏と豪奢なテーブルに着き、美味珍味に舌鼓を打つ、ぶよぶよと溜まりきった脂肪に死臭を漂わせているごく一部の特権階級気取りの売国奴の専横を許す下地が腐敗の正体なのです。

 そして、もうひとつの腐敗は、理想を喪失した国民ひとりひとりの心です。
 かつて日本には60年安保闘争という時代がありました。その是非は別として、ひとりひとりが危機感と理想を胸に抱いて、主義主張の垣根を越えて闘った時代がありました。
 まだ第2次世界大戦が鮮明な記憶として残滓を留め、ベトナム戦争の渦中にあったという特殊性がもたらした協調だったかもしれません。
 けれども政治に対し、社会に対し理想があったことは事実でしょう。一部その理想の根拠に多少の問題があったとしても。
 
 今、僕たちは政治を話題にしても問題とすることは無くなってしまっています。
 新聞やテレビでの不愉快な話題程度にしか感じ得なくなっているのではないでしょうか。
 個人の理想を達成するためには、理想の国を達成しなくてはならないというのに諦めてしまっているのです。
 
 たとえば「ねじれ国会」などと非難がましい言葉を誰が最初に言ったのでしょうか?
 独裁を防ぐためのストッパーならば、ねじれているのが正常なのです。
 党議拘束の下で本当の意味での当否の吟味ができるでしょうか?
 肝心なのは、正しいネジれ方をしているか否かなのです。
 与党が出したものだから取り敢えず反対、野党案だから否決という単純なものではあってはならないのです。
 国民はネジれの根拠を見極めるべきなのです。

 先日、某お馬鹿さんがナチスを引き合いに出しました。
 問題なのはナチスを譬えにあげたことではなく、密室でことが済むと考えたことなのです。

 僕は政治の話を意識的に避けてきました。たまに揶揄することはあったとしても、この場に上げるようなことはしませんでした。

 けれど手に取った一枚のCDから、あえてこの話題を抜き出してみました。
 別府葉子さんのアルバム "Comedies Francaises Le deserteur"に収録されているボリス・ヴィアンの「脱走兵」というシャンソンによります。
 
 「反戦歌」と大袈裟に掲げるつもりはありません。
 なぜなら「戦争反対!」と叫ばなくとも、恋の歌はすべて反戦歌であるはずなのです。
 平和な世界でこそ恋を叶えることができるのですから。

 今日、僕はこの歌を改めて聴いて、僕たちの国は、この世界はやはりどこかで道を間違えてしまったのだと思ったのです。
 そして道を間違えてしまったのは僕たちひとりひとりが理想を喪失して、或いは、理想が衰退してしまったためではないのかと、そう感じたのです。
 僕たちは理想を口することを躊躇ってはならないのです。誰もが幸せになるために生まれてきたのだから。

 このシャンソンは僕にこう耳打ちしました。

 「逃げるなら思い切って逃げ出しなさい。」

 目を逸らして見ないことにしているのは「逃げる」ことにはならないのです。
 逃げ出すのなら心臓がバクバクして、息が切れて、足が上がらなくなるほどに走り続けて、全身全霊をかけて逃げるべきなのです。
 そして、息を吹き返して夢を思い出したなら、小さな勇気を振り絞って、聞き取れないような微かな声でもいいから「それは嫌だ」と吐き出せばいいのです。
 その小さな声のひとつひとつが、理想のために闘う力の理由なのだと僕は思います。


 ― 脱走兵 ―

 大統領閣下にお手紙を差上げます。
 お時間があればお読みいただけますように願っております。

 私は今、召集令状を受取りました。
 水曜日の夜までに戦地に発てとの指令です。

 大統領閣下、私は戦争を望んでおりません。
 私は可哀相な人たちを殺すために生まれてきたのではありません。

 閣下を苛立たせるつもりはございません。
 しかしながら閣下に申し上げなければならないのです。
 私が逃走しようと決意したことを。

 私は此の世に生をうけてから今日まで、父の死を目の当たりにし、
 兄弟たちの出征を見送る時の、悲しみにくれる子供たちの涙を見てきました。

 苦悶に焼かれ続けた私の母は、今は墓の下で眠っています。
 爆撃も、蛆虫も気にすることなく。

 私は捕虜となった時、妻を盗られました。
 魂を盗まれました。
 そして、私の愛すべき過去のすペてまでも。

 明日の朝、私は旅に出ます。
 これから起こる失われる歳月を拒否するために。

 フランスの道端で物乞いをして暮らすことになるでしょう。
 ブルターニュからプロヴァンスへと渡り歩き、私は人々に訴え続けます。

 服従を拒もうと。
 戦争を拒否しようと。
 戦争に行ってはいけない。
 出征を拒みなさいと。

 誰かが血を流さなければならないというのなら、閣下ご自身の血をお流しください。
 閣下は偽善者です。

 私を追うというのなら憲兵たちにお伝えください。
 私はいかなる武器も持ってはいないということを。

 そして、撃ち殺しておしまいなさいと。


 脱走兵
 別府葉子:仏蘭西小劇場"脱走兵”


 
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