わたなべ雅子「聖ロザリンド」

 …そうでした。執事のわたしがはじめてロザリンド様にお会いしたのは八歳になられたばかりの二月でございました。
 イギリス博物館長のお父さまのお言いつけで、ギリシアのロドス島にあるこのお館へおいでになったのでございます。
 輝くような金髪がバラの花びらのような頬になびき、その瞳の色と言ったら、まるで…、そう…、天使が舞い降りた…とでも申しましょうか。気高く、可愛らしいお姿に一目でとりこにさせられてしまったのでございます。
 この天使のようなお嬢様が…じつは…世にも恐ろしい悪魔の子であろうとは…誰が信じ得たでしょうか!…

 総集編00 総集編

 蒸し暑くなってきましたね。クーラーでもかけてと思いますが電気代が怖いので、ここはまだもう少し我慢のしどころでありましょう。
 で、涼むにはほかの方法をと思いまして、取り出してきましたのが、わたなべ雅子「聖ロザリンド」です。
 昭和48年「少女フレンド」の第12~20号に前半(戦慄編)が掲載、続いて第33~41号に後半(総集編)が掲載されました。
 この作品が完全版として1冊にまとめられるのは1992年に集英社から発刊された「わたなべまさこ作品集 聖ロザリンド」が最初で、ついで、2005年にぶんか社から発刊された「聖ロザリンド」(文庫版)になります。

 戦慄編00 戦慄編

 冒頭にあらすじ代わりに書き出したのは、ストーリー中にでてくるロドス島にあるブールボン館の執事アルフレッドの手記です。

 ところで、ジャン・コクトーの小説に「恐るべき子供たち」というのがあります(萩尾望都がコミカライズしています)。そこでは子供たちの憧れが生じさせる嫉妬や残虐性を描いているのですが、それらは言うなれば同性或いは異性間の愛情に関する心理的な子供たちの変貌を取り上げていると言えます。
 一方、この「聖ロザリンド」はもっと純粋な形での罪の意識のない子供らしい単純な「欲しい」ということに対する残虐性をとりあげ、しかも作者はイノセンスという表現に相応しいキャラクター作りに成功しています。

 戦慄編01

 ロザリンドは、何となくウルトラQの「悪魔っこ」の少女を彷彿させますが、「悪魔っこ」は多重人格というか、霊体分離が事件の中心でしたけど。その分、「悪魔っこ」の方が救済の余地があると言えます(番組では線路を歩くふたりの少女を通して事件の非終息を伝えていますが)。
 それに比べてロザリンドには救う手だてがない、というのが最大の悲劇でしょう。罪の意識をもたず、人を疑うこともしない、可憐な少女。
 物語の終盤で指名手配されたロザリンドについて「ひとをうたぐるということをしないそうだ。すぐにつかまると思うが…」という警部の台詞は胸に痛いものがあります。

 カレンの赤い靴のようにロザリンドは「自分の欲しいもの」を、「約束」を代価にして手に入れ罪を犯して行きます。
 しかし、彼女が欲したものの持ち主たちは、ロザリンドほど誠実に彼女に対応して約束をなしたのでしょうか。そうではないでしょう。その場限りの口約束として流してしまおうとしたのです。或いは、意地の悪さから。
 ロザリンドは単にその約束にあった「時間」を待てなかったにすぎないのです。その「時間」は彼女にとって長短以外の意味を持たなかったにすぎません。そこにロザリンドのイノセンスそのものがあるのです。

 …うそをつくひとは天国にいけないのよ、知ってる?だからあたしはうそをつかないのよ。…

 戦慄編02

 作者が「聖」とつけたのは、ロザリンドという少女の中にあるその無垢な望みを伝えたかったのだと思います。
 彼女は愛情を疑わなかった。神の前において真実であることを棄てませんでした。問われれば自分の罪でさえ真っ白な心で、あまりにも無邪気に告白するのです。

 この物語のラストには「裁きの時」は訪れません。誰も少女を裁くことはできないのです。
 父親は深い愛情を持ってロザリンドを神の手に委ねます。母親の愛情を求めた少女が最後に神のもとへ携えて行ったのは「疑わない心」でした。「純粋さ」と言い換えても良いかもしれません。

 …「ここからは…ひとりでいくんだよ。ロザリンド。この…ずっとむこうにママが待っている。決して…うしろをふりむいてはいけない。まっすぐ…歩いて…いくんだ…いいね。」
 「ええ、パパ…、まっすぐあるいていくわ。」…

 総集編01

 体も髪も凍るほどの吹雪の中を父親の言葉を信じて疑わず、母親のもとへ向かうロザリンドの姿は感動的です。
 手を前に出し道を確かめるように進むロザリンドが雪に足をとられてバランスを崩す描写は特に素晴らしい。あの後ろ姿こそ「聖ロザリンド」なのではないかと思いました。
 
 総集編02

 ロザリンドには確かに信仰はあったのです。誰よりも純粋な悲劇として、母親の愛に基づく神への信仰が。
 聖なることとは一体どういうことなのかを改めて考えさせてくれる作品です。

 
 

 
 

 
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