牧美也子「少女たち」

 …日本人は必ず心の中に富士山をひとつもっていて、悪い考えをおこしたり、間違ったことをするのは、その時の心の中の富士山に雲や霧がかかっているからなのです。だから、霧や雲が晴れればみんな心の優しい人になるのです。…

 のっけから何を言い出すのかとお思いの方もおられましょう。
 先だって富士山が世界遺産に認定された理由の一つに精神的芸術的象徴というのがありまして、その新聞記事を読んだときに頭に浮かんだのが冒頭の文句でした。
 で、これはどこから引っ張り出してきたかと言いますと、牧美也子(作画)、西谷康二(原作)の「少女たち」からです。

 少女たち00 36年1月号

 「少女たち」は月刊「少女」の昭和35年11月号から昭和37年4月号まで本誌、並びに、ふろく漫画として連載されました。単行本も講談社から全2巻で発行されています。
 余談ですが、ふろく冊子の形状が昭和36年4月号からは新書版からB6版に変更され、同年10月号からは本誌での掲載はなくなり、ふろく冊子の方を増頁しています。

 36年3月&4月号 36年5月&9月

 主人公は富士山のように美しく、はずかしくない人に育つようにと「富士子」と名付けられた少女です。
 彼女は幼くして富士山の気象観測所員であった父を遭難事故で亡くし、静岡に移り住んだその後に母親も胸の病で亡くし、東京で乾物屋をやっている叔父夫婦に引き取られますが、そこでは女中同様の扱いを受けます。
 しかし富士子は意地の悪い叔父夫婦のもとでも明るく健やかに育ち、映画監督であるルミの父親に認められて女優への道を歩み出します。

 その秋本富士子を中心として、有名映画監督を父に持ち母を亡くしている梅野ルミ、大手の建設社長夫妻の娘である香取恵子、そこに後半からはスターの座を目指す浅田和江が加わり、それぞれの身の上におこるエピソードに少女らしいジェラシーや誤解、独占欲などの微妙なアクセントを交えて物語は展開されていきます。

 富士子00 富士子01
 
 この物語ですがこども向けと侮るなかれ、本当に複雑な感情が押し込まれています。
 物語当初はお金持ちで我儘し放題だった香取恵子が、自分は養女であったことを知り、打ちのめされ、その事件をきっかけに人の悲しみや苦しみがわかる優しい少女に変わって行きます。この物語では主人公と他の少女たちの橋わたし役にもなっていきます。

 恵子00 恵子 ルミ00 ルミ

 また、転向したての富士子の一番最初の友達である梅野ルミには母親の如く慕っている女教師がいました。その教師が常に富士子を気にかけていることに嫉妬心を抱き、それ故に、富士子を蹴落として自分がスターになることを狙っている浅田和江の詐言に惑わされ、富士子に冷たくあたるようになったりします。

 和江00 和江 和江01 救出

 けれども彼女たちは自分の心の富士山の霧を払うことに成功します。 
 浅田和江にしても最初は富と名声にしばられて富士子に敵対しますが、本当の幸せは名声やお金ではないことに気づき、最後は身の危険も顧みず富士子の救出に向かいます。

 物語の細部に至ると多少破たんしている部分もありますが、それは当時の小学4年生~中学1年生くらいを対象とした雑誌ですので許容範囲というべきでしょう。むしろそれ以上精緻な描写をすればドロドロの後味の悪さがのこる別の物語になってしまったことと思われます。

 36年10月&11月号 37年1月&2月号

 各号の表紙のイラストも楽しいのですが裏表紙などに掲載されている広告も面白いです。
 たとえば37年2月号には「スーパー・ブレンナー」という明脳器が紹介されています。
 これを頭に締めて勉強すると「空冷作用で頭がスッキリと冷え、また永久磁石が頭のなかにイオンを発生させる」のだそうです。
 当時の販売価格は600円ですから、現在に換算すると3000円前後くらいでしょうか?
 効果はどの程度だったのでしょうね。僕は現物をみたこともないので、もしジャンクでも市場にでまわれば一個買ってみたい気もします。どんなに時間が経過しても永久磁石ですからね、たぶん使えるでしょう。

 37年2月号広告

 最終回は基本的にはハッピーエンドになります。それぞれの少女も自分たちの困難を克服して人間的に大きく成長した姿をみせます。

 最終話00 最終話01
 
 牧美也子先生が最終号の巻末に書いていらっしゃいますが「心に、いつも日本晴れの富士山を持て」と言うのは良い言葉ですね。毅然として誰に恥じることもなく、すべてに正対する姿は美しいです。

 誰の心の中にもある富士山。みなさんの富士山はどんな景色の中にありますか?

 ということで、選挙が近づいてきてますね。
 立候補者の心のなかに晴れ渡った富士山はあるのでしょうか?霧と雲に覆われていないことを願います。まさか晴れることの無い永久雲霞に包まれている、なんてことはないですよね?まあ、ある意味、雲霞のごときかも…。
 それから、もし頭が冴えていないと感じている立候補者がいらっしゃいましたら「スーパー・ブレンナー」のご使用をお勧めします。

 37年4月最終号 最終号






 



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はじめまして、fukuと申します。

牧美也子さんの昔の作品を探していて偶然このブログを見つけました。
まさか「少女たち」の内容をここまで詳しくご存知の方がいらっしゃるとは!
懐かしくて嬉しくて感涙ものです。
画像があると言うことはリアルタイムで読まれていたのでしょうか??

駐日大使に選ばれた故ケネディ元大統領の娘、キャロラインさんがニュース映像に流れていましたが、当時の少女雑誌には必ずケネディ一家の写真が紹介されていたのを思い出します。

これから少しずつ過去ブログ拝見していきますね!

ご訪問ありがとうございます

fuku様

 ご訪問、並びに、コメントをありがとうございます。

 「少女たち」については連載終了後に個人的なコレクションとして収集したものです。

 「少女たち」は、今の漫画のような複雑なコマワリや込み入った心理描写はありませんが、ストレートに描かれている分、少女たちの懸命な姿が伝わってくる秀逸な作品だと思います。

 温故知新ではありませんが、昔のものを抱き起こしてみることも大切なことだと思うのです。懐かしむことも含めて。

 大したことのない個人ブログではありますが、またお時間がありましたらご訪問ください。お待ち申し上げております。

こんにちは

初めましてセシリアと申します。

牧美也子さんで検索しましたら、この記事が目に入りました。
牧先生の1ファンです。

「少女たち」の連載前後にも「少女三人」「可奈ちゃん」「姉妹ふたり」の連載作品もありますね。
リアルタイムでは読んでいませんけど、もう一度作品をまとめてくださる版元がないかと、期待しながら時間だけが経過していきます。
「少女たち」の単行本は計2冊までしか、入手できませんでしたけど、3巻が出てたのでしょうか?

さいたま市立漫画館にて11/24迄「牧美也子展」原画などの展示中です。

Re: こんにちは

セシリア様

ご訪問ありがとうございます。

>「少女たち」の単行本は計2冊までしか、入手できませんでしたけど、3巻が出てたのでしょうか?

月刊「少女」の編集による単行本の総集編「少女たち」は全2巻となっております。
別冊付録のものを除いては3分冊で発刊されたという資料は僕の手元にはありません。
お持ちの単行本は物語が完結していらっしゃるのでしょうか?
完結していれば、続編はありませんので全2巻だと思います。
念のため、もう一度調べてみます。

>もう一度作品をまとめてくださる版元がないかと、期待しながら時間だけが経過していきます。

単行本については、以前、牧美也子さんが「完全版ではない」とお話をされていおりました。
ぜひとも完全版でまとまったものを読みたいと思っております。

> さいたま市立漫画館にて11/24迄「牧美也子展」原画などの展示中です。

情報ありがとうございます。
会期も長いので時間を作って足を運んでみようかと思います。

またお時間のある時にご訪問くだされば嬉しく思います。
お待ちいたしております。
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