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立原あゆみ「黄色い鳥」

 少しづつですが僕がここで何を整理しようとしていたのがかわかりかけてきました。
 その過程で記憶の底に引っかかっていたことが、まだまだ本当のことには届きそうもないですが、ひつとひとつその形を現してきてくれています。これもそのひとつです。

 「ある狩人が山で迷い、何年も彷徨っているうちにヒゲがボウボウとなり、クマのような容貌に変わってしまいました。ある日、彼がいつものように山を歩いていると、ひとりの狩人に遭遇します。彼は助けを求めようと近づいていきましたが狩人は銃口を向けます。そこで彼は必死に『おれは人間だ!』と叫ぶのですが狩人には通じず、ついには撃たれてしまいました。」

 この山月記の変身譚をモチーフにしたようなエピソードが誰かの童話だったのか、どこの小説でつかわれていたのかが思い出せずにいました。
 僕が部屋のリフォームをしている最中なのは以前に少し書きましが、その折、古書を箱詰めしている時に何気なく手にとった単行本にその答えを見つけたのです。
 
 立原あゆみ「黄色い鳥」 

 …小田星子が飼っていた小鳥の”黄色”がある日、突然行方不明になりました。星子は「まいご鳥」のビラをあちこちの街角に貼って歩きます。すると動物探偵団と名乗る人物から電話が入り、「黄色」が見つかったというのです。「駅前の例の場所で待ちます」の指示に従いそこへ行ってみると、田村葦の介という童話作家を志す青年が待っていました…。

 黄色い鳥00 (集英社、1978年初版)

 この物語の中で星子が葦の介に自分が創作した「かなしいクマ」という童話の案を冗談まじりに話します。この星子の素案が先刻取り上げました僕が「童話」だと思っていたものでした。

 黄色い鳥01 (13頁)
 
 主人公の星子を今風に言うのなら「ツンデレ」に分類されるのかもしれません。但し、そのツンデレには内包された傷が隠されています。
 立原あゆみは作中でそれを表立って描き出してはいませんが、「黄色」に対する心情や電話に寄せる期待、自分の言葉の裏側を自覚しつつも裏切られる怖さから乾いた目でみようとする挙作、それらを通して読者に伝えてきます。余計な登場人物を加えず、たったふたりだけで物語が進められるのもその効果をあげているのだと思います。

 黄色い鳥02 

 「青い鳥は幸せの鳥」だから「黄色い鳥は不幸せの鳥」。

 自分に訪れたささやかな喜びは「作られた場面」であり、それが終わったとしても「映画を観終わった」程度に感じようとする星子の痛々しさが、しっとりと全編に滲み込んでいるように感じられます。
 恋も喜びもすべては「ふり」に過ぎないと思い込むことでしか自分を支えられない弱さを取り繕うために「ドライな自分」を演じ続ける星子。

 期待しなければ裏切られない。愛も憎しみも、そのこと自体に関心を示さなれば通り過ぎることができます。愛憎は反意関係にあるのではなく同列のものです。
 心の中で、ある一定の許容量を超えた時に愛は憎しみに変わります。幸せと不幸せも同じことなのです。対象に関わろうとするからこそ生まれ出る感情なのです。無関心で居続けられれば、それらを感じずにすみますから。
 星子は必死にそれを守ろうとしていたのです。

 黄色い鳥03
 
 たぶん僕は当時、この作品を読んで「星子の哀れさ」だけしか感じていなかっただろうと思います。単なる「ほの悲しくさせる可哀そうな少女の物語」くらいに。

 そして僕は大切なことを思い出したのです。
 もうとうの昔に紛失したはずのこの本が、あの子から借りたままであったことを。







 
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