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伝言板…駅の片隅に

 かつてどこの駅にも伝言板というものが置いてありました。縦書きの線で区切られた、深い緑色の。
 「みんなの伝言板です。マナーを守ってつかいましょう」と小さく添えられていること以外には、何一つ特別なことの無いボードでした。

 小学四年生の頃、夏の少し手前に東京に越してきた僕は、家族が離散して祖母の家に預けられていたため、電車で少し離れた小学校まで通うことになりました。そうして、僕は初めてこの伝言板に気が付いたのです。
 大きな文字で「お父さん、いってらっしゃい。みちこ」と書かれていたのを覚えています。
 僕はそれを見て、「父親よりも早くこの駅を発ったのだろうか?それとも前日に書いていったのだろうか。通勤で急ぐ父親はこれに気づいたろうか」と不思議な思いでその文字の前に立っていました。
 それからというもの、この伝言板がいつも気になって、通りがかるたびに足を止めて書かれている文字を眺めていました。

 伝言板には「時間が経過すると消すことがあります」と断り書きがありましたが、実際には朝見た伝言が夕方まで残っていることもしばしばでした。
 小学校に転向したての半年間、それから、高校と電車通学となり、日常で利用する駅は当たり前のことながら、それ以外の駅に降り立った時でも、いつも僕は意識的にこの伝言板を探しました。
 知った人の名前があるわけでも、自分あての伝言があるはずもありません。それでも、そこに書かれていた文字は誰宛ともとれるようで、僕はそれを読むことで自分の隙間を埋めようとしていたのかもしれません。

 「よっちゃんへ、もう会わない。」

 僕にも「よっちゃん」という愛称の友達がいましたので、勝手なストーリーを頭に描き、そんな彼に当てはめて可笑しがったり。

 「遅刻したお前が悪い。先に行く。」

 いつからか時間を違えた感のある僕には、僕自身がすっかり忘れてしまっている約束がどこかにあり、それを誰かが書かせたのではないかと考えてみたりもしました。

 「またなー。」

 短い言葉でですが、それを見た時、ほんの少し嬉しくなったことを覚えています。僕も胸の内で「またな」と返答を呟いたりして。
 
 今は電子メールがあるので、いつでもどこからでもタイムリーに伝言が送れます。それは大変便利ではあるのですが、なぜか無機質で冷たく感じられてしまうのです。
 手紙や伝言は相手が読んでくれるかどうかわかりません。それ以前にきちんとその人宛につくのかも不確定要素が多くあります。特に駅の伝言板などは。
 それでもそれらが血の通った温かみがあると思えるのは、人のクセが感じられるからなのです。文字や言葉遣いに。
 そして、それが辿りつくまでの時間が更に、そこに思い入れを注ぎこんでいるからなのです。

 僕たちは省略することに慣れ過ぎてしまってはいないだろうか。文章においても会話においても。そしてそれは知らないうちに自分の垣根に、人との距離になってはいないだろうか。時間を短縮することで僕たちは人間らしさを忘れかけてはいないだろうか。

 雑踏の中で読む人を待つ伝言板。
 大多数の人々は気にもとめることなく、その前を足早に過ぎて行きました。
 届いた言葉、届かなかった言葉。幾度も書いては消され、また別の伝言が生まれ、そんな繰り返しが確かに感じられていた時代。

 「がんばらなくてもいいよ。いつでもいるから。ずっとずっと思っていたよ、ありがとう。」

 旅先で初めて降りた名前も思い出せない駅。
 僕はこの時、この伝言を見てほんの少し泣きました。あの頃、僕は本当につらくて街を後にしていたので。
 
 それから、僕が学校をさぼってうろついていた或る日、御茶ノ水駅にこんな伝言がありました。

 「悲しみを心から感じた人は、きっと優しい人になる。」

 今から30年ほども昔のことです。


 


 
 
 
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