安房直子「初雪のふる日」

 …秋のおわりの寒い日でした。
 村の一本道に、小さな女の子がしゃがんでいました。女の子は、うつむいて、地面をながめていました。それから、首をかしげて、ほうっと、大きな息をつくと、
 「だれが、石けりをしたんだろう。」
 と、つぶやきました。その道には、ろうせきでかかれた石けりの輪が、どこまでもつづいていたのです。…

 今日は随分と暖かな一日でした。ジャケットを着て歩いていると汗ばんできて、思わず脱いでしまおうかと思ったくらいに。

 ところで、先日、何気ない会話のなかで安房直子の童話の話がでてきました。
 安房直子は1971年に「北風のわすれたハンカチ」(旺文社)を刊行して、1993年に亡くなるまで数多くの童話を送り出しました。僕のまわりにも愛読者はたくさんいます。様々な作品が挙がるなかで、僕が持ち出したのは「初雪のふる日」でした。

 味戸ケイコ・挿絵 (挿絵・味戸ケイコ、1981)

 桜も散り、藤の花房が優美に枝垂れ、エニシダが咲き始めるこの季節に「初雪はないだろう」と思われる方もいるかもしれません。まったくその通りです。季節外れもいいところです。でも、そう言わずにおつきあいいただければ幸いです。

 初収録は「遠い野ばらの村」(筑摩書房、1981年)です。これには味戸ケイコの挿絵が施されています。また2007年には偕成社より、こみねゆらの絵本として単独で出版されています。

  遠い野ばらの村 (筑摩書房、1981年)

 昔の言い伝えでは、初雪の降る日には北からたくさんのうさぎがやってきて、一列になって山から山、村から村をわたり、あたり一面に雪を降らせます。その移動する姿はとても早く、人の目には一本の白い筋にしかみえません。だけれど気を付けていないと、そのうさぎの群れに巻き込まれて、うさぎと一緒に世界の果てまで連れていかれて最後には雪になって消えてしまうのです。

 こう聞かされたら、如何にもどこかにそんな伝説がありそうな気がしてきます。安房直子の創作なのでしょうが、こういった言霊的な誘引のしかたが非常に巧みです。
 童話というものはある意味では超常現象の世界ですから、何が起こってもOKなのですが、あまりにも不自然すぎたりしますと一瞬で冷めてしまいます。
 出だしは現実的であればあるほど良いのです。安房直子はそれが上手い。都市伝説的な言い方をしてみたり、民話を背景においた設定にしたり、いずれも現実と混沌をバランスよく配置しています。
 この「初雪のふる日」における契機は「石けり」です。それから「ケン・ケン・パッ」の馴染み尽くしたリズムを使って読者を共感に誘い出します。
 こどもなら誰もが持つ好奇心と、その危うさを滲ませるように混ぜてきて、「うさぎ」の登場で一気に童話の世界に連れ去ります。
 遊びが遊びでなくなる瞬間の恐怖、怯えと言ったもの。安房直子の作品はこの瞬間的な心理を捉え、読者に既視感、もしくは、心的追体験を与えます。それが童話のリアリティなのでしょう。
 そして、こういった瞬間は何も童話のなかだけではありません。現実にも有り得ています。
 本の読み聞かせや童話を与えることによって、そのエスカレートする境目の瞬間の怖さを疑似体験させることは大切なことなのです。それらを現実に思い起こさせるというのも本が担う役割の一つだと思うのです。

  こみねゆら・挿絵 (偕成社、2007年)

 この「初雪のふる日」については先だっての会話のなかで、僕は「女の子が石けりをしていて、いつのまにか兎に取り囲まれ、初めのうちは楽しくなって遊んでいたのですが、いつの間にかそこから抜け出ることができなくなり、ついには兎とともに別の世界に連れていかれてしまう話」として話題にしました。
 しかし、読み返してみましたら結末については全くの記憶違いで、安房直子はきちんと女の子のことを考えていました。それも、この物語中の世界における現実感を損なわないように。
 おそらく僕の内では小川未明の「金の輪」と重なるような印象があったのでしょう。結末を同じようなものとして記憶にとどめてしまったようです。

  こみねゆら・挿絵 (挿絵・こみねゆら、2007年)
 
 
 



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