柚木麻子「嘆きの美女」

 嘆きの美女 (朝日新聞出版、2011年初版)

 「嘆きの美女」と言うブログがある。管理者が日常の日記をあげたり、「美女のお悩みレスキュー」と題された掲示板では自他ともに認める美女たちがネット上に集いその悩みを打ち明けたりしている。
 小説の主人公・池田耶居子は個人ブログに「揚げ足取りのコメントを大量に残し炎上させたり、個人情報を調べ上げたり、嫌がらせのメッセージを送ったり、ヲチ板を立ち上げてののしること」が生きがいになっている女性である。当然「嘆きの美女」をターゲットとし荒らすことを日々の糧にしていた。しかしその糧がこともあろうに長いこと更新がされずにいる。しびれを切らした耶居子は掲示板の書き込みから美女たちのオフ会の場所と日取りを推測し現地へ向かうことに決めた。それは「コンビニとTUTAYAとマクドナルド以外」では一年半ぶりの外出であった。もちろん単なる好奇心からではない悪意満々である。ヲチ板に彼女たちの素顔を晒すことが目的であった。
 ところが、とかく偶然と言うものは恐ろしいもので、「嘆きの美女」の管理人を狙うストーカーと現場で居合わせてしまう。正体がばれ逃走する男と揉みあいになり、ストーカーの身柄を確保するも交通事故に巻き込まれ耶居子は大怪我を負ってしまう。意識をとりもどし我に返った時には、なんと「嘆きの美女」の管理人の自宅で介護され、しかも彼女は小学校時代の同級生で親友であった。
 ちょっと主人公のご紹介をさせていただこう。池田耶居子、25歳。顔にはチョコレートやスナック菓子を大量に食べるため吹き出物が一面にこびりついている。汗染みのできたシャツを着替えることなく纏い、髪を何日も洗わなくとも気にならない。少し歩いただけで息切れがするほど運動不足で体重は65キロをとっくに超えている。「耶居子じゃねえだろ、お前はジャイコだろ!」と小学生のころ言われたことから察するに成長した彼女をイメージするのはそう難くない。顔の吹き出物を潰して「白い脂肪を絞り出す」ことと、それから「嘆きの美女」を荒らすことが生きがいなのは述べたとおり。
 その耶居子が捕虜同然に美女の世話になり、「楽な場所から世界を恨んでいた」自分の姿を受け止め、妬みの底にあったものに気づき、次第に自分に相応しい道を求めはじめる。また耶居子と暮らすことによって美女たちも自分が現状に甘えていたことを自覚し、自分自身や周囲の視線と向き合うことを決意していく、という粗筋。

 単純に面白いです。読み始めて2時間ほどで一気読みができます。特に深く感動するということもありませんが、ところどころ共感を呼ぶところもあり、さりげなく織り込まれた冗句には知らず知らずに笑ってしまったりもします。
 いわゆる「自分発見」の物語ですがお膳立てされた綺麗ごとの羅列ではなく、陰にこもった事件が起こったりもします。耶居子が自分の道をみつけるにあたっても順風満帆に進むかというと、別のアクシデントと身から出た錆によって阻まれたりすることでアクセントが加わって、終盤にだらけることもないです。
 耶居子が自分を卑下して美女を妬むことから「アラシ」を生きがいとしていた点について、個人情報の露出はともかく、「嘆きの美女」の書き込みについては「揚げ足取り」であって「中傷」や「罵詈雑言」の類ではないことが、物語のキーになっています。つまり口汚く罵っているように見えても「的を外していない」ことが最終的な理解への橋渡しになっているんですね。
 ただ物語中の美女たちが言うほど耶居子の書き込みが酷いとは僕には思えません。悪意があるにしてはスマートすぎますね。書きこんでいる耶居子自身が無意識に自分の防御を考えているということを匂わせているのかもしれませんけど。寸分の同意も得られない批判は却って自分を窮地に追い込むことになりかねませんから、敵愾心をもつ側の代表に留めているのでしょう。
 まあいずれにしろ「アラシ」の書き込みに対して、現実には当事者からそんな風に好意的には解釈はされないでしょうが、そういうことがあっても良いのではないかとは思います。
 
 2011年に初版が発行され、2013年1月にはNHK・BSプレミアムで実写ドラマ化もされています。ドラマの方はまったく見ていませんのでコメントのしようがありませんが、原作は疲れた時の息抜きに読むのに丁度良いと思います。
 部屋を片付けるにあたってツンドクの山から出てきた本ですが楽しめました。現状の僕にとって良いタイミングの本でした。

 この本の教訓、節度あるアラシは相互理解の懸け橋になります。それを踏み外してしまうとツルハシになって道はボコボコです。







 
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