せがわ真子「真夜中のアリス」

 「ラブ・ストリート」

 「わたしの卒業した、志苑学院は大学、高等部、2つの中学校、幼稚園からなる総合学院である。明治に設立されて以来、人格を尊重するキリスト教的自由自治教育を特色としてきた。
 中でも記憶に鮮やかなのは小高い丘の上にある高等部。門まで続く坂道はエンジュの樹の並木道。夏には涼しい木かげを作り、冬には暖かな日ざしをとおす。
 多くの歴代の高校生が未来を語り、恋に悩み、肩をならべて歩いた通学路。いつのころからかラブ・ストリートと呼ばれていた。」

 という主人公・槙本あいが尊崇する覆面作家・池端あおぎが「志苑学院通信」に寄稿した一文から物語はスタートします。
 月刊プリンセス誌上で昭和54年6月から昭和56年9月まで掲載され、せがわ真子さんの作品としては最長連載となりました。

 ラブストリート1 「1巻&2巻」(秋田書店、昭和55年1月・7月初版)

 巻頭の序で作者が「初めての街で出合う坂道には、心のときめきを覚えます。この坂道の先に何があるのか、坂の上に着くまでわからないから。そしてそれは、期待してものか、否か。作中では、ラブ・ストリートと呼ばれる坂道を、いろいろな人が、それぞれのペース、思いで、歩いて行くのを、主人公あいの目を通して描いてみました」と述べています。
 が、「坂道の物語」としてはあまり効果が出ていません。象徴としての坂道の取り扱いが弱すぎます。物語はもっぱら学院内、主に、あいと憧れの幼馴染・白鳥聖、不思議な隣人・高樹航が所属する剣道部を中心として動いていきます。そこに親友であり女優を目指す折原立子、家から離れ自身の力で将来を切り開こうする副主将の青山智文、祖父が決めた智文の婚約者・内海敬太郎らのレギュラーキャストが加わり、各話のゲストキャストの主題にそった物語が展開されています。
 
 ラブストリート1話&2話 「ラブストリート1話&2話」

 たとえば「二色の章」では、14年前の信州の事故で両親を失い、その際に行方不明になった弟を探して方々の施設を訪ね歩いている熱心なクリスチャンでもある倉橋元子が新任教師として着任します。彼女は「ワタル」という弟の名しか知らず、それが「航」と重なり、自分の弟ではないかと思い、そうではないとしても引き取って養育しよう決意します。しかしあいが保護し、航が手当した野犬のありかたを通じて、野のものは野におくのが自然であり愛情なのだと気付き、自己の負い目を償うために弟を追っていたことを心から悔い、呪縛から解放されてゆくと言う話です。あいと航、怪我をした野犬、そして倉橋元子とシスターとの交流が描かれています。

 ラブストリート2 「3巻&4巻」(昭和55年12月・56年5月初版)

 一話完結の欠点ともいえますが各話はどうしても展開に急ぎ過ぎの印象があります。最初から長期連載を視野に入れたシリーズ構成をしていればもっと奥のある物語になったと思います。一話積み上げ式で結果的に長期連載になったことから惜しい印象を強めてしまっていますね。当時の事情としてみれば仕方のないことではありますけど。

 ラブストリート3 「5巻&6巻」(昭和56年9月・11月初版)


 「ボビー・シャフト船出した」

 ボビー・シャフト船出した (昭和57年1月初版)

「わたしのお気に入り」の続編として描かれています。
 アーティの美しきおばさまミス・ファラ・ロークが独身でいる理由と待ち焦がれていた恋人ボビーとの再会、ウエディングまでをおった表題作と「幸福な家庭のつくりかた」。
 ボビーの養子ザザの冒険?とミス・ホックの恋の行方を描いた「ホープ・チェストにいれるのは」。テシーの幼馴染ケインの帰郷で揺れ動くテシーとアーティの話「りんごサラダの午後に」を収録しています。


 「真夜中のアリス」

 真夜中のアリス (昭和57年8月初版)

 「ひとみ創刊号」(昭和53年4月号)に掲載された「サウスウエスト62時間」に登場したサブ・キャラクターだったトット・アクエリアスを中心にした短篇3作「12月の魔法」「魔法くらべ」「真夜中のアリス」と「レディお手をどうぞ」を収録しています。
 「サウスウエスト62時」は単行本未収録となっていますが次にご紹介する「コミカル・ミステリー・ツアー」の第2部として再編されています。

 真夜中のアリス(本編)

 ところで、クリストファー・リーブ主演の「ある日どこかで」という映画を憶えておいででしょうか?タイムスリップを題材にしたラブ・ロマンスです。この「真夜中のアリス」も基本的には同じ路線の物語です。

 せがわ真子さんのストーリーの中心は美男美女が多いのですが、この作品では発明マニアでちょっとさえない男の子フェーブが主人公という点も好感がもてるかも。

 夏至祭の日、パートナーがいないフェーブはお祭りに参加する気もなく、町なかをぶらぶら歩いていました。すると目の前に一瞬、妖精と見まがう可愛い女の子が…。少女が去ったあと落ちていたペンダント拾ったフェーブはそれを届けようとあとを追いますが "A・Brown" と表札の下がった屋敷の前で見失います。「この家の子かな?」と思い佇むフェーブに向かってひとりの老女が「ここには盗めるものも女の子もいない」と言って彼を追い帰します。諦めきれないフェーブは塀を乗り越えて中へ入ろうとしますが、あやまって塀から落ちて、そのショックで気を失ってしまいます。女の子の声で目を覚ましたフェーブですが、目の前には先ほどの少女をそっくりの子がいました。彼は「あの子だ」と確信しますが、どこか話がかみ合いません。
 どうやらフェーブは庭師のこどもということになっていますし、トットのお祖父さんフランク・アクエリアスも信じられないくらいに若い、その他フェーブの知っている現実とはどこか微妙につじつまが合いません。それもそのはず彼は気を失った夢のなかでタイムスリップをしていたのです。
 夢の謎を解こうとするフェーブは45年前に自分と同名の男の子がいたことをつきとめます。そして、その男の子がアリス・ブラウンに思いを告げられなかったことを知り、どうにかしてそれを伝えようとするのですが…。

 この物語ではトットの手品はそれほど活躍しません。しかし、ラスト近くでの催眠術でフェーブを夢の世界にスリップさせるあたりは天才魔法少女?の面目躍如といったところでしょうか。

 良い話だと思います。作者自身も「とても気に入っている」と述べている通りに、せがわ真子さんの代表作に挙げても良い気がします。


 「コミカル・ミステリー・ツアー」

 コミカル・ミステリー・ツアー (昭和58年7月初版)

 先ほど触れたとおり「ひとみ創刊号」に掲載された「サウスウエスト62時間」を再編したものです。第一部「アパートの合いカギかします」、第二部「「サウスウエスト62時間」からなっています。
 街一番の資産家であるジョン・ジョージからその愛娘パトリシアと連名で一通のパーティの招待状がソル・グッドマンに届きます。単なるパーティの招待かと思いきや、やり手実業家のソルの母によって仕組まれた政略結婚を前提としたものであったのです。
 「安定した豊かな生活がつづくのが一番」であると世間を要領よく生きたいと願うソルは、あわよくばその政略結婚に乗ろうと足を運びますが、そこで出会ったパット嬢は想像していた女性とは大違い。しかしその物怖じしない自立心旺盛な少女に次第に惹かれていく自分を見つけます。そしてついにはふたりで駆け落ちをしてしまうのですが…。

 ソルの駆け落ち話だけではなく、第2部では次兄オリイのロマンスが主になります。
 オリイは本物のパトリシアとともにソルの住むカリフォルニアへ向かいますが、ジョン・ジョージ氏から愛娘誘拐の嫌疑で追われることに。しかも、列車内ではソルに良く似た某国のプリンスの皇位継承争いに巻き込まれます。危ないところをトット・アクエリアスに助けられたり、長兄のノーマンの機転で救われたりします。
 全体的にコメディ要素が強くでてはいますが、それほどドタバタ劇というわけではありません。トット・シリーズが好きな方には彼女の初登場の作品でもありますから楽しく読めると思います。





  ― つづく―




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