せがわ真子「青春はラブ・40」

 記憶というものはかなりいい加減なもので、自分で思っているほどの正確さはないものです。僕は記憶力には自信があるほうだと思っているのですが、思っているだけでその実は間違いだらけです。今回はそれを思い知らされた感があります。
 というのもこのブログを書き始めて間もない時ですが室生犀星の「信濃」を取り上げたことがあります。その日記を書き終わってから「そういえば、この詩を引用していた少女漫画があったな?」と思い出しました。しかし思い出したのはそこまでで、作者、題名、掲載誌などは皆目思い出せず、ただ単に「榊原先輩」というキャラクター名と、見開きでその「榊原先輩」が雪の降る中、掌でそれを受け止めつつ暗唱するシーンであったような印象のみでした。
 先ずはインターネットで「室生犀星 信濃 引用 少女漫画 昭和 榊原先輩 etc」のワードを検索しましたが出てきません。
 一度心にひっかかると探してみたくなるのが人の常。ことあるごとに気にかけては探しました。記憶をフルに回転させ、連載が終わったのが昭和57年か、56年頃ではないかとか。当時、僕が購入していた「花とゆめ」「少女マーガレット」「少女コミック」「少女フレンド」「りぼん」「なかよし」「ララ」などの連載陣を調べましたが出てこないんです。で、昭和53年まで遡りました。
 記憶にある絵の印象から佐藤真樹、高橋千鶴、あさぎり夕、文月今日子、神名幸子その他の作家の作品をあたりましたが見つからないんです…。
 周囲の人にも訊きまくりました。「恋愛漫画で信濃のでてくるやつ、知らない?」と。だけれど僕の説明の悪さと記憶の曖昧さのせいで見つかりません。ほとほと諦めかけた頃、震災でひっくり返ったままの書斎をそろそろ片付けようと整理していましたら、ありました。見つけました。灯台もと暗しとはよく言ったものです。青い鳥は自宅に居たんです。もう躍り上がるほど嬉しかったです。それが、せがわ真子さんの「青春はラブ・40(フォーティ)」でした。わかるまでに随分と時間がかかったものです。最初から片付けていれば簡単なことだったんですよね…。

 青春はラブ40-00 (秋田書店、昭和51年&52年初版)

 で、記憶のいい加減さですが、掲載誌自体がそもそも間違いでした。掲載は「プリンセス」です。しかも連載期間は昭和51年から52年。僕が思っていた昭和56~7年とは遡ること4年の隔たりがありました。つまり僕が買っていた雑誌ではなく姉が買っていたんですね。これは盲点でした。自分で買っていたとすっかり思い込んでいたのですから。

 昭和51、2年といえば、左翼活動家の放火により平安神宮の本殿が全焼するという事件があったり、かのロッキード事件で、小佐野賢次、児玉誉士夫、さらには田中角栄元総理大臣が逮捕され、「記憶にございません」の流行語まで生み出した時期であります。
 鹿児島の五つ子ちゃんの誕生、キャンデーズの「普通の女の子にもどりたい」宣言があったり、芸能界マリファナ汚染事件で有名芸能人が続々と逮捕されたり、王貞治選手が通算756号ホームランで世界記録を更新したのもこの頃のことでしたね。
 街なかでは「およげ!たいやきくん」と「山口さんちのツトムくん」がこれでもか!というくらいに流れていました。

 漫画の話にもどります。
 この作品がせがわ真子の初連載作品で、原作は「サインはV」「ドッキリ仮面」「花の子ルンルン」などを世に送り出した神保史郎でした。

 ストーリーは、テニス部キャプテン「榊原良」に憧れる「水村美々」の片思いのお話。
 テニス部に入りたいと思いつつ、持ち前の運動神経のなさと好きな人に自分のドジを見られたくないことから「茶道部」の入部申込みをしたのですが、間違えて隣の机の「テニス部」に申込みをしてしまったというところから話はスタートします。

 青春はラブ40-第1章
 
 タイトルと「テニス部」というところからスポ根漫画と思いきや、ほとんど関係はありません。あくまでも中心は美々の片思いと二人の兄や幼馴染の柏木比呂機、同級生の響江里子、早見玲奈などのラブロマンスです。
 主人公は、勉強はちょっと苦手で、運動は更にもっと苦手、思い込みが激しく、誰にでも優しくて、誰かを疑うこととは凡そ無縁なお人好しで、泣き虫のドジっ子、何事にも一生懸命というパーフェクトな女の子です。
 その美々が偶然に知った長兄・一也と良の美しき従姉・雪枝との恋の成就に大活躍するのですが、それが結果として憧れの人・榊原良を失恋させてしまうことになります。
 全10回という短い連載のわりに登場人物が多く、サイド・ストーリーも豊富に組まれています。豊富すぎて元天才テニスプレーヤー・日下卓平と良とのエピソードについては中途半端な感じがあります。これが少し残念。
 しかし全体的にはよく出来ています。非常に繊細で人物も個性が生きているし、各エピソードも落ち着き先がきちんと用意されています。
 また台詞もよくこなれています。例えば、テニス部の入部テストで失敗をくりかえした美々がなぜか他の人を差し置いて合格します。その理由を顧問の谷真介が「ライン引きがうまいものはテニスがうまくなる」と後日説明するですが、何となく説得力がありますよね?当時、そんなジンクスが本当にあるのだと信じたことなど思い出されました。

 この作品、今回のことで三十ウン年ぶりに改めて全体を読み返したのですが物語のピュアさに胸がジーンときました。
 
 さて、肝心の室生犀星の「信濃」ですが、引用されていたのは2度でした。
 最初は(といっても最終回の手前ですが)、第9章「お兄ちゃんのラブストーリー(その2)」の冒頭で、ヒロくん(柏木比呂機)が美々に現国を教えているというシュチュエーションでの朗読で、全文が掲載されています。

 青春はラブ40-第9章

 そして僕のでたらめな記憶の中にあったのが同じ章のラストシーン。
 一也が描いた肖像画を「雪枝だよ。奈都子じゃなく、今、目の前の生きている雪枝だよ」と雪枝に渡す場面を見守る良と美々。そして「ほんとうにすてきなひとだね、お兄さん。とてもかなわない」と美々に告げた後、良は降り積む雪を見上げて詩の一節を詠唱します。見開きではなく1ページ、しかも片側縦抜きのコマでした。

 青春はラブ40-第9章ラスト

 記憶がいかに曖昧なものか、ちょっとヒヤっとしました。調べられてよかったなと胸をなでおろしています。これを記憶頼みで書いてしまっていたら嘘八百の殿堂入りにチェックが入るところでした。

 俳人であり、随筆家でもありました金子晋さんが「僕は知らないことは書かないことにしているんですよ」とおっしゃっていましたが、まったくその通りです。

 「知らないことは書かない!」

 非常に大切なことです。以後、肝に銘じて忘れないようにします。



 
 
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