カーブの先に

 今日、仕事の途中、とぼとぼと歩きながらふいっと横道に逸れてみました。いつもは歩かない路地なのだけれど何となく陽気もよかったので。
 風もなく日差しも柔らかく、住宅地だというのに人影もなく、枝葉の間に立ち寄っている鳥の声さえ耳元で聞こえるような静かさでした。それでも立ち止まってみると微かに遠く学校でしょうか、こどもたちの声が聞こえます。
 この先には何があるのだろうと歩を進めて行くと、わずかに下ってゆく左にカーブをとった坂道がありました。両側を住宅のブロックに挟まれたその道は、思っていたよりも急な曲線を描いていて、カーブを抜けた先が高台になっていることを突然として僕に知らせました。そして、その曲線の終りを腕で覆うかのように枝垂れ梅が咲いていたのです。
 僕は自分自身の狭隘な生活圏の中ですらこうして知らないことと出会うのです。知っているものは存外に少ないのだと、もっと歩かなくてはいけないのだと、そう感じました。変化がないと思いこむのは僕自身がそれを知ろうとする努力を怠っているからなのです。

 そして、その花の下を通り抜けながら僕は一篇の詩を思い浮かべました。

 花の名だけは知っていても
 花そのものは知らない
 そんな花があります

 愛という字は
 よく知っているのですが
 そして
 愛そのものも
 知っているつもりだけれど
 
 降るような花の下を行くと
 いったい 
 何を知っているのか
 と 急に思います 

 ― 川崎洋「花」(詩集「象」より)

 もう直に桜も咲き始めるでしょう。そうすれば僕の事務所がある辺りは薄紅の霞が立つような景色に覆われるはずなのです。

 川崎洋「象」
 (川崎洋「象」、思潮社、1976年初版)





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