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メモ … 手帳の理由

 気が付けば手帳が処分にこまるほどたまっていた。
 僕は日記というものをつけてはいないのだけれど、何かあるたびに手帳をとりだしては書きつけてきた。
 日記はどうも性に合わないのか、始めたところで続いたためしがない。書き始めてみると、誰かに読ませるわけでもないのだが都合の良いことばかりをごてごてと飾り立てて、嘘ばかりをつらつらと書き綴っている。これは最悪だ。冷静になって後から読み返すとさらに怖気だつほど醜悪で卑屈に思え、本当のことを書く勇気がないのならやめた方がましだと思う。
 で、やめる。
 しかし、しばらくするとやはり書きたくなって新しいものを買い求める。性根が変わっていないのだから続くはずもない。始めては、やめる。懲りもせぬその繰り返しで、まっさらの日記帳をどれほど無駄に捨てたことか。しかも僕は金もないのに高級そうに見える豪華なものを好んだ。たとえば革張りの日記帳とか。
 筆記具にもこだわりがあって、文字の下手に見えるのはそれらのせいだとばかりに、次から次へと万年筆も買い換えた。良い万年筆をもてば名文が書けると考えるほど浅薄ではなかったが、少なくともスタイル的には理想に近づけるとは思い込んでいた。僕は実より形から入る傾向が強い。今思えば文房具屋はさぞ儲かったことだろう。
 ところで一時期ひどい貧乏に陥ったことがある。その困窮のはじまりが何であったかは覚えていない。直近には収入のあてもなく、なんとか工面した家賃でアパートを追い出されるのは避けられたが、光熱水道費を滞納して止められ、食べるものも底をついた。
 空腹で起き上がれず大学に通うこともままならない日が続き、ついには餓死を覚悟しつつあった頃、心配して訪ねてきた友人が桃の缶詰を2缶とビスコを2箱おいていった。どちらもパチンコでとったのだと自慢していた。パチンコに勝ったというのなら「そのあぶく銭をおいていけ」と言いたかったが人間の常識までは忘れてはいなかったので言うのはよしておいた。
 とにもかくにも僕は食料を手にいれた。ビスコは一日一個にして、缶詰は果肉のほうは開けたら一両日中に食べてしまったのだがそのシロップを少しずつ大事に飲んだ。ビスコと缶詰の残りのシロップで二週間ほどを耐え抜いた。
 今更だがあれが夏でなくてよかったと安堵している。そうでなければビスコはともかく、シロップは腐敗していただろう。神様は常に微かだがどこかに光明を残しておいてくれるものだ。全国津々浦々を渡り歩いた折、ところかまわず寺社を詣でておいて良かったと思う。
 その後、委託していたことを忘れていた古書がうまく売れたので古書店の主人が代金を届けてくれた。七万ほどだったかと思うがそれで活動する気力がもどってきたのは言うまでもない。
 人間、折あれば変わるものだと思う。あの短時日の貧困からもどった僕に若干だが変化はあった。
 それがメモだった。
 あの困窮した日々を書きつづろうと思い銀座の伊東屋へでかけた。あれこれと日記帳を選んでいたのだがどうも気に入らない。そこで「とりあえず雑記帳でもいいか」と小さな手帳を買った。
 早速、銀座コアの裏にあるトリコロールへ入って手帳を広げた。書くスペースが小さい!当たり前のことではある、手帳ですから。
 しばし空白を眺めたのちに、非常に簡略に「あった事実」のみを書き入れた。その瞬間、頭の中で閃光がきらめき「これだ!」と感じた。
 メモならば事実しか記さない。脚色する余地がない。僕が求めていたものは「これだ」と確信した。
 以来、僕はメモをすることにした。

 X月01日 10時起床。銀座へ出かける。昼、トップスでフルーツカレー。伊東屋で手帳購入。3時、トリコロールで紅茶とモンブラン。

 X月02日 9時起床(朝食、食パン1枚にバター、紅茶)、授業2コマ(論理学と宗教学)、4時、学食でミートスパゲティ大盛。東横線渋谷駅売店で少年ジャンプ。巣鴨についたら突然の雨、傘なくずぶぬれ。帰宅後すぐ銭湯。夜、YさんからTEL(彼氏への愚痴。「誕生日はその日に祝って欲しいの。翌日はもう他の人の誕生日なのよ!」…なるほど)

 その他、出先で手にした本とか、流れ聞こえてきた音楽やら会話やら気になったことをメモしてきた。下手に文章化するよりも現実が伝わってきやすい気がするし、読み直しても面白いと思う。
 古本が積み上げられ足の踏み場もないほどになっている部屋を片付けながら、処分に困っていた手帳類ではあるが、やはりこのままにしておくことにした。他の誰の役にも立つことはないが、すなくとも日記よりも正直な自分がいるのは事実だから。







 
 
 
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テーマ : ひとりごと…雑記…きままに
ジャンル : 日記

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