明け方に見る夢は

 竹林に面した榑縁で、僕は白砂の上をゆっくりと動く石を見ていた。
 石は大小十五個あった。
 それらがなぞった痕は枯山水に描かれた波のように見事な調和を生み出し、波の間からは時折、錦色の魚が顔をだした。
 しかし、十五個あるはずの石はどうやっても十四個しか数えられない。
 僕はこの模様を知っている。そう思った。
 それから膝に置いた籠から金色の釘を掴みだし、そいつらの鼻先に撒いた。釘はチャポチャポと音を立てて白砂の表面に落ちた。
 魚たちは盛り上がった波頭が砕けるように食らいつき一瞬白砂をざわめかせたが、すぐにまた元の調和を取り戻して消えた。
 夜と昼の区別のない寂寥の中で風だけが確かな時間をもっているように感じられ、僕の耳の奥では僕が望む最良のかたちで蝉時雨が鳴っていた。
 ふと、僕の左側から笹の葉擦れのような音がしたので、ぐるりと回る縁の端をみると、淡い藍緑色の絹をまとったような少女がいる。
 少女がゆっくりと進み出るたびに宵闇がその影から滲み出てきた。
 そして、少女は水面をゆする髪のような穏やかさで僕に声をかけてきた。
 「もう行くのでしょう?」
 「うん、そうしようと思っているんだ」
 「どこか宛てはあるのですか?」
 「いや、まだ決めてはいないんだけど」
 「それでも発つつもりなのですね」
 「それしかないと思う」
 「私は、どうすれば好いのでしょう?」
 「君はそこにいればいい」
 僕は少女の方に向き直ってから言った。
 少女は細い手を襟元に差し込んで何かを取り出した。袖から覗く腕の、肌の白さが際立って目に映った。
 「それではこれを持っていってください」
 そう言って少女は僕に千代紙で折られた風船を渡した。
 それはとても小さなもので重さなどまったく感じさせなかった。
 「埋めにいかなければなりませんね」
 少女は僕の手に置いた紙風船を覗き込みながらそう言う。
 「そうなるだろうね」
 僕はそれを手の内でころころと転がしながら答える。
 「春が去ろうとする頃に桐の花が咲きます。そうしたら埋めてくれますね?」
 「約束はできないけど、そうしたいとは思っているんだ」
 「その時になって忘れても一向に構いません。今のあなたの言葉が私の将来であり、同時に過去なのですから。」
 「今は冬なのかい?」
 「どうなのかしら」
 「昨夜、雪がちらついたから」
 「ならばそうなのでしょう」
 「でも、竹がやけに青々としているじゃないか。蝉の声まで聞こえているし」
 「それでも冬なのでしょう。あなたがそう言ったのですから」
 コンとどこかで鹿威しが鳴った。
 少女が僕の隣に座るころにはあたりはすっかり闇に覆われ、蝉の声も止み、竹林の向こうから吹きすぎてくる風がさやさやとしていた。
 「あなたがそれを埋めるのを忘れても、私がきっとそれを埋めるでしょう」
 「そうだね。おそらく君はそうするだろうね」
 僕がそう言うと少女はひっそりとした優しい微笑を浮かべた。そして、ついと立ち上がり僕の左肩にそっと触れてから、僕を通り抜けるようにして一番大きな石の中に消えていった。
 それは花が散ったような瞬間で、あとには真昼の闇と風の音ばかりが残されていた。



 明け方のほんの短い間に見る夢はいつも不思議な感触を残します。
 僕はどうも眠るのが苦手なようで、午前四時や五時にならないと床に入りません。
 新聞配達のオートバイのエンジンとブレーキの音が聞こえだし、鳥の声がささやかれるころになって、ようやくわずかな睡眠をとるために眠ります。
 うたた寝のような時間がこのような夢を見せるのでしょうか。
 夢の理由などわかりもしませんが目覚めた時にはいつもこう思うのです。
 「もう終わりにしてもいいのかな」
 ただ漠然とそう思うのです。






 
 
 
 
 
 
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