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うむまあ木

 4年前のことです。仕事で沖縄を訪れました。僕にとっては3度目の沖縄でした。
 一番最初の訪問は沖縄で海洋博が開かれた時、1975年の夏。僕は沖縄の地理的な意味も、歴史的な意味も理解してはいない年頃で、また理解できるはずもない年齢でした。あまりにも幼すぎて、海洋博自体の記憶もほとんど残っていません。
 2度目は学生旅行の時で、これも友人たちと大騒ぎをするだけの観光旅行で終わってしまいました。
 最初の訪問から35年後の梅雨に入りかけた季節に、僕は3度目の沖縄の土を踏みました。
 目的地は「国頭村森林公園」でした。やんばるの自然とその直面する問題を取材するのが目的でした。その時に現地を案内してくれたのが知来さんという女性で、その年に大学を卒業したばかりで、正直、紹介された時には「こんな若い人で取材のガイドが務まるだろうか?」と不安でした。
 しかし、彼女の沖縄に対する知識とその理解の深さには驚かされるものがあり、通り一遍の観光ガイドのような薄っぺらなものではありませんでした。こちらが事前にお知らせしておいた内容に対し、的確な情報を集め、短時日に効率よく動けるよう見事に行程を組んでくれました。

 その知来さんが「この木、何という木だかご存知ですか?」と一本の木の前で足を止めました。
 僕は木に対して知識を持ち合わせていず、また沖縄に関する植生についても世間一般のガイドブック程度の認識しかありません。僕はその通りを彼女に伝えました。
 すると彼女は「この木はそんなに有名な木でも、重要性をもつ木でもありません。もちろん自然林の一部としては重要な役割を担ってはいるのですけど。小笠原ではこの木を植林して、自然林の再生を図る計画も進んでいるようです。」
 彼女はそう説明すると木肌に手を置いてから「この木はモモタマナと言います。このあたりではウムマーギー、ウムヤーギーなんて呼ばれています。この木自身が沖縄の何かを伝えるというものではありませんが、山之口獏という詩人をご存知ですか?」と僕に訊いてきました。
 彼女は僕の返答を少しだけ待っていたようでしたが諦めたのか、答えを聞かずして詩を暗唱し始めました。

 人は米を食つてゐる
 ぼくの名とおなじ名の
 獏といふ獣は
 夢を食ふという
 羊は紙も食ひ
 南京虫は血を吸ひにくる
 人にはまた
 人を食ひに來る人や人を食ひに出掛ける人もある
 さうかとおもふと琉球には
 うむまあ木といふ木がある
 木としての器量はよくないが詩人みたいな木なんだ
 いつも墓場に立つていて
 そこに來ては泣きくづれる
 かなしい聲や涙でそだつ 
 うむまあ木という風変わりな木もある

 山之口獏については、あまりにも迂闊でしたが僕は詩集を手に取ったことはありませんでした。その迂闊さは大きな後悔を伴いました。

 それは僕が「不思議な女の子」でふれた少女の御祖父からいただいた蔵書の中に確かにあったのです。譲り受けた時にちらりと目を通しただけであとは記憶の隅にもおかれず、この取材から帰った後に書棚を整理していて取り出されるまでじっとそこでこの日を待っていたのです。

 沖縄の基地のニュースをはじめ沖縄関連の戦後に関する話題は嫌いだと言う友人がいます。悲劇を誇大に売りものにしていると言うのです。ですが、誇大な悲しみというのはあるのでしょうか?悲しみの大きさは誰が、どうやって測るのでしょう。

 先ほどの詩には「世はさまざま」という題が冠されています。
 この「世はさまざま」と言う題の意味を先入観なく受け入れてもう一度目を通してください。
 
 山之口獏詩集
 「定本 山之口獏詩集」(原書房、昭和33年初版)

 僕にこの詩を教えてくれた知来さんが一昨日、病で亡くなったと今日、知らせを受け取りました。その報を聞いて僕は第一にこの詩集を取り出しました。

 



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