古書の楽しみ 

              新柳集(函&表紙) 「新柳集」(泉鏡花)


 「古書」と書くと何かプレミア風で引き締まる気がします。「古本」と書くと俗的で親近感がでるような感じがします。どちらも同じものなのですけどね。
 最初に御断りしておきますが、私は古書マニアではありませんし、専門のコレクターでもありませんから、特別に深い蘊蓄などというものは持ち合わせておりません。ですので、所有しているものも雑多です。漫画、児童書から文学、写真集、画集など、少しは価値が認められるものから、再生紙資源以外の価値のないものまで、まったく統一性のない蔵書です。

 「読みたい本が安い」と言う以外に古書、古本に関心のなかった私が、何故に収まりきれぬほどに蔵書が増えたのかと言いますと、つまりは以下のような話です。

 話の元は、高校生の頃になります。
 私、学校が苦手でして、というか、勉強が大を上回るほど嫌いでして、何というか、常に足が学校とは別の方角へ向かうという極めて変わった風でもない習性がありました。
 かといって、グレるほどパワーもなかったですから、所謂、小者ですので、あちらをふらり、こちらをぶらりとするだけでした。どこをと言えば、足を延ばせば鎌倉、手ごろな所ではお茶の水~上野あたりをほっつき歩いていたわけです。(このランブリング、結構、後に役立つのですけど、当時は成績を下げるのと、夏冬春の休校時に埋め合わせ登校をさせられると言う効果効能しかありませんでした。)
 しかしながら、アメヨコあたりに入り込んで、昼日中からMGCでモデルガンなど手にとって入り浸っておりますと補導される危険性がありまして、それは困るわけです。西洋美術館も良いところではありますが入館料がかかりますから、常設展以外はおいそれとは行かれません。そこで、本屋です。特に古本屋です。新刊を扱う大きな書店さんですと補導員が巡回にくる心配がありますからね。安全、かつ、時間もつぶせて、身にもなる? というわけです。
 古書店って、博物館や美術館に匹敵するくらい面白いですよ。玉石混交の宝箱です。古本独特の匂いも体質に合うと言うか、好きですね。
 読めもしない洋書を引き出して、眉間に皺を寄せて眺めていたりすると、自分が偉そうに見えるんじゃないかと、ふとそんな錯覚に陥ったりします。まぁ、外から見れば、格好だけなのは見え見えなのですが。
 ある時、古書店のご主人がショーケースの入れ替えを行っておりまして、それをじっと見ていたわけです。メーテルリンク「青い鳥」(原書・初版)、ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」(米国版・初版)、「長岳寺 地獄絵図(写本)」など出てくるわけです。当然、手の届かない値段がついておりますから眺めていただけですが。
 と、ご主人がいきなり一冊を手にして振り向き、「これ見事でしょ?」と差し出しまして。見れば、本当に見事な絵が描いてありました。
 「これ木版でな、小村雪岱が元を描いてるんだよ。表紙の見開きを『見返し』って呼ぶんだけどね。」
 「綺麗ですね。これって誰の本なのですか?」
 「泉鏡花だね。知ってるかい?鏡花。」
 「名前だけは聞いたことがあるような気がします。」
 「教科書には載らんもんね。馴染みはないか。」
 手にとってみなさいとばかりにぐいと押し出されたので、恐々とお預かりしたわけです。ぱっと見も眼を惹きましたけど、じっくり見れば、なお、美しい。肝心の本の中身は、雅文調で読みづらく、単語の意味不明も多くて、とんとつかめなかったけれど、とにかく、綺麗につきると言うものでした。
 「鏡花本と言ってね。人気あるんだよ。」
 「でしょうね。意味わからないですけど、この本、欲しくなりますもの。でも、買える値段じゃないでしょうし。」
 「君、バイトとかしてないの?」
 「やってますけど、余分なお金は出ないです。生活で手いっぱいです。」
 「一人暮らしかい?」
 「そんなようなものです。」
 本を戻して、曖昧な返事をすると、ご主人は「古本は夢があるんだよ。著者が生きていた時代の本を読むという夢と、何より手仕事の装丁、職人の技が楽しめる」と言って、また本を並べ始めました。
 その日はそれで帰宅したわけですが、脳裏に焼き付いて離れないのは、あの本のことばかり。思い返せば思い返すほど欲しくなるわけです。
 「明日、値段だけでも訊いてみよう。」

 翌日、同じ書店に足を運びまして、紆余曲折の交渉結果、店頭払の分割ということで本を持ち帰ってきました。
 今のようにクレジットカードなど普及しておりませんし、もとより高校生ですのでローンなどできるわけもなし、一途にご主人の温情に訴えるほかなかったわけです。

 泉鏡花「新柳集」(小村雪岱・装丁、春陽堂刊、大正11年、初版)。これが私の収集動機の古書となります。
(それ以前にも、室生犀星の「旅びと」を持っていたのですが、その話は次回ということで。)

新柳集(表見返し) 新柳集(裏見返し) 「新柳集」表見返し&裏見返し

 「新柳集」以後、太宰治「女生徒」(山田貞一・装丁、砂子屋書房刊、昭和14年、初版)、夏目漱石、幸田露伴などを買い集めることになって行くわけです。
 ちょっと珍しいのから、鑑賞に足る本まで多々ありますが、それらは追々ご紹介致します。
 今日はこの辺で。

太宰治「女生徒」 「女生徒」(表紙&奥付)






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