岡本一平「一平漫画 」

 一平漫画 00 文興院、大正13年初版
 (函、表紙、奥付)
  

 今更ご説明のほどは無いと思いますが、岡本一平は岡本かの子(旧姓・大貫カノ)の夫であり、岡本太郎の父親です。 
 三重県津市の儒学者・岡本安五郎の次男で書家の岡本可亭(本名・良信)と母・正(まさ)の長男として1886年6月11日に北海道函館区汐見町で生まれました。
 上京した後、大手町の商工中学校から東京美術学校西洋画科に進み、藤島武二に師事しました。この時美術学校で大貫カノ(岡本かの子)と知り合っています。

 岡本一平は漫画家のみならず、歌謡曲の作詞も手がけています。
 昭和15年に飯田信夫の作曲、徳山璉の歌唱で流行した「隣組」は、馴染みやすいメロディで、その後も替え歌などで耳にした方も多いと思います(メガネ・ドラッグやドリフの大爆笑のテーマなど)。原詞は次の通りです。

 「隣 組」

 とんとんとんからりんと隣組 格子を明ければ顔なじみ
 廻して頂戴、回覧板 知らせられたり知らせたり

 とんとんとんからりんと隣組 あれこれ面倒、味噌醤油
 ご飯の炊き方、垣根越し、教えられたり教えたり

 とんとんとんからりと隣組 地震や雷、火事泥棒
 互ひに役立つ用心棒、助けられたり助けたり

 とんとんとんからりと隣組 何軒あらうと一所帶
 心は一つの屋根の月、纏められたり纏めたり

 一平漫画 01 「心新聞にあらず」(口絵)

 さて「一平漫画」ですが、大正13年に文興院から刊行されています。大正8年に発刊された「欠伸をしに」以来の画文集でした。
 当初この本は他社から出版される予定でした。しかし一平が漫画を請け負い、月刊誌として発行された世界写真画帖が創刊四号で廃刊の憂き目に会ってしまいました。その責任の一端を感じていた彼は企画が進んでいた新画文集の出版社を変更して発刊することにしました。
 自らの最上の代表作のためにと思っていた「一平漫画」と題したのは、売上向上のために一役立たせる目的でした。

 序文にはこう述べられています。

 「謂はばこの書は、氏の書店の興廃に関して、丁度日本に對する日本海海戦のようなものだ、と自分の責任の上だけでは感じている。どうか賈れて貰ひ度い。その意味から、自分の最上の漫畫集が出来た時に完すべき『一平漫畫』といふ名前を、むざむざとこの書に完した。むざむざと申すところに、著者の藝術的苦衷を察して貰ひ度い。」

 けれども発刊までには更に困難がまちうけていました。
 関東大震災です。震災によりほぼ完成していた凸版紙型の大部分を損壊してしまったのです。それを懸命に復元補正してようやく刊行の運びとなりました。

 岡本一平はそのことに関し次のように書いています。

 「生命力の強いもの程、障害に偶ふては光明に向かって跳ね上がる。鯉の瀧登りが、そうだ。地震を越して書肆の名前が變つて、新春に處女出版として發刊される書物!予は此書の運命の強さを信じて居る。この書を第一出版にする金子氏の文興院も亦然あるべきものと信ずる。
 本書巻頭の東京漫詩も地震で舊東京の壊滅した今日、却って興味を喚起する好記念作品になると思ふ。(大正十二年十二月三十日 修復せし芝白金崖下の家にて)」

 本編は「一平自畫傳(自画伝)」「漫畫漫詩の東京」「最安心な婿選擇法」「藝術品と珠算盤」「學生生活スケッチ」などが収録されています。

 「小学校時代-水を掃いた清書」

 一平漫画 02  (「一平自畫傳 」より)

 書家なる僕のおやぢが、僕の字の下手糞なのを見て、「貴様は到底俺の後継になれ相もない。繪は易しいから、繪ならどうやら飯が食へやう」と、それから舊式な狩野派の先生の處へ、毎晩習ひに遣られた。
 先生が晩酌をやる横の方で、毛氈(もうせん)を敷いて手本の臨写をするのだ。つまらなくて堪らない。新しく描いた振りをして、前の晩描いた奴を、毛氈の上へ載せて置く。先生は酔って知らないから、新しく描いたものと思ひ、真面目になって批評する。
 一週間許りは發見されなかったが、あまり毎晩同じやうな畫(え)なので、つひに發見かった。その翌晩から、先生「こりゃ確かに今晩描いたのかな」と、濡れてるか乾いてるか、畫の上へ掌を宛てて見る。こっちも先以って、ちゃんと乾いた畫の上へ、掃毛(はけ)で水を掃いて置く。

 この子にしてこの親あり、と言うべきか、小学生にして流石は岡本太郎の父君らしいウィットです。

 もうひとつ。

 「入 口」

 一平漫画 03  (「画家裏面展覧会」より)

 「倅(せがれ)が畫家になりてえちゆうが、畫描きとはへえどんなものか、ひとつ入(へえ)って見べえ。」
 「五十銭はたけえのう。」
 
 


 
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