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山の端の月

 奥へ向かう所々崩れかけている石段に向き合い、何気なく振り返ると階下に見下ろす祭りのざわめきが遠く僕を隔てているように思えた。ほんの今しがたそこを通り抜けてきたはずなのに、僕とは無関係の世界のようだった。鳥居を潜ると木が覆いかぶさり中空の洞を形作っていたせいもあろう。祭りの灯はここまで届かない。日は既に落ち、夜が平等に浸食していく中で、祭りの部分だけが切り取られ別の次元を構成しているかのようだった。
 僕は浮いている。まるで遠くから映画を覗き見しているようだ。そんなことを感じたのは僕自身の疎外感が生み出している感傷であるという自覚は十分にあった。
 石段の上から祭りの灯りを眺めているとタン、タンと階段を足早に上る音が聞こえ、続いて「お待たせ」という彼女の声が聞こえた。その声でやっと僕は人のいる世界へ引き戻された気がした。
 「何をそんなに暗い顔してるの?待ちくたびれちゃった?だってね、リンゴ飴の屋台が意外に混んでたのよ。ごめんね。」
 彼女は悪びれもせずにそう言い、不自然に紅いリンゴ飴をペロリと舐めた。その仕草はまるで猫がちろりと舌をだした時に似ていた。
 「いや、別にそんなことじゃないけど。」
 「じゃぁ、奥のお社にお参りしましょう。」
 彼女は僕の返事を待たずにそう言い、僕は彼女の声に続いて歩を進めた。
 「こっちまでくると急に人影がなくなるわね。まぁ、この先には屋台もないし、お参りだけなら下のお社で足りちゃうし、上にはおみくじも売ってないから仕方ないか。道も手入れされているとは言えないわね。崩壊する寸前って感じ。」
 そんなことを言って笑った。
 僕は暗がりを注意深く歩いた。何かが現れるわけでもない、そう思いながらも用心し耳を欹て気配を気にしながら。なのに彼女は怖がりもせず、トン、トンと軽快に岩場を跳ねる子供のように進んでいく。そんな歩き方をしていたら危ないよと言いかけてやめた。僕は自信を無くしていたのだ。
 「くらきよりくらき道にぞ入りぬべき、 はるかに照らせ山の端の月」
 不意に足を止めた彼女が和泉式部の歌を詠んだ。そして僕に向かってこう言った。
 「今の状況に似てない?下は明るくて笑い声もして、人のいる巷って感じ。こっちから先は行方もしれない闇の中。向かっているは場所はわかっているけど、確かにそこへ向かっているかなんてわからない。一本道だと安心しているけど不安はひたひたと忍び寄ってくる。頼りになるのは私たちがふたりでいて、この先にお社があるって信じていられること。そうじゃなくて?」
 彼女はどこまでも無邪気に微笑む。それは救いに似ていた。
 「暗がりで前が見えなくても歩くことをあきらめなければ必ず人は進んでいるの。動かないことを、進まないことを後退っていうのよ。その一歩が間違っているかどうかなんて関係ない。失敗だっていいじゃない。通り過ぎた後でそれが間違いだった、失敗だったって気が付いたら、それが成長なんだって思えばいいでしょう?いっぱい後悔すればいいじゃない。その数だけ自分は答えを手に入れたんだって、そう居直るのも必要なことなのよ。何もしないで失敗するより、何かをして後悔するほうがましなこともあるわ。後悔っていうのを前向きに言い換えるなら、それは学習ってやつね。」
 彼女は笑った。
 そうかもしれない。夜闇の月明かりは冴えていずとも遠くを照らす。強い昼間の明かりに慣れ過ぎている僕は夜を悲観するだけで、夜のなかにある光に気づこうともしなかった。いや、気づいていても頼りにすることがなかった。役に立たないと、そう思い込んでいたから。光を遮っていたのは他の何かではない。僕の偏狭さだった。彼女の言葉で心が突然軽くなったわけではない。ただその言葉を繰り返すことで僕は僕に勇気を植え付けるきっかけにしたかった。
 「山の端の月はパンドラの函に残された希望ね。」
 彼女はおどけるように再びトン、トンと石段から石段へ跳ねるようにして上っていった。
 あの時の彼女が僕が落ち込んでいた理由を知っていたわけはない。けれどもそれを的確に感じ取っていたに違いない。そして彼女が本当は何を言おうとしたのか、その時にはわからなかったけれど今ならわかる気がする。彼女は言葉を換えてこう言っていたのだ。
 「自分を憐れむ感傷に浸れるのは絶望しているからでも、悲観しているからでもない。余裕があるからよ。それを甘えって言うんだわ。」
 そして彼女はそれを責めない。その言葉のあとにはきっとこう続く。
 「そこにある甘えは希望と同じなのよ」と。
 
 

 
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テーマ : ひとりごと…雑記…きままに
ジャンル : 日記

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こんばんは

こんばんは!

いつもご訪問・温かく大変嬉しいコメントを有難う
ございます。

僕は、歌を主に取り上げていますが、otosimonoさんから
ご紹介いただいているもの、またほかの方からご紹介いた
だいているもの、全ての物事に対して人それぞれの捉え方
があると思いますし、だからこそ色々な世界観があって
充実したものになるのだと思います。

僕は、なんの取り柄もないですが、自分の感じたことを
そのまま人に伝えることくらいはできます。

そしてご紹介させていただいている歌に対してそれぞれの
視点で捉えていただけると、またそれが少しでも安らぎに
つながれば嬉しいです。

otosimonoさんのブログをいつも拝見させていただくと
いろいろな物事の考え方ができますし、また学ばさせて
いただけることも多いのでこれからも是非よろしくお願い
いたします。

最後にいつも励ましのお言葉誠に感謝いたします。

ありがとうございます

こちらこそ、ご丁寧なメッセージに恐縮しております。

scorpius55 さんのブログは僕に見直す時間を与えてくれます。
普段、聞き流してしまっている歌や聞き逃している歌。それぞれがその時々に違った思いで聞こえてくることがあります。それらを聴き直してみようと、そんなきっかけを与えてくれます。

scorpius55 さんのブログは前向きで、拝見していて気持ちが良いと思います。「時の運の良いも悪いも半々、それならば前向きに」と僕自身に言い聞かせ、何とか毎日をのりきる一助にもなっております。

これからもご訪問させていただきますので宜しくお願い致します。

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全く役に立たない独り言です。

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