“ THE TEMPEST ”(Paul Woodroffe)-20世紀初頭の挿絵 -

 今回は“THE TEMPEST”を取り上げてみます。この本についてはエドマン・デュラックのものが有名ですが、そちらは翻訳本も出ており目にする機会も多いでしょうから、ポール・ウッドロフの挿絵の方をご紹介したいと思います。

 “ THE TEMPEST ”(1908年)

 TEMPEST 00 TEMPEST 01
 ( London:Chapman & Hall, HENRIETTA ST. COVENT GARDEN W.C.)

 “THE TEMPEST”は周知のとおりウィリアム・シェイクスピアの最晩年の戯曲です。初演は1611年でした。
 「真夏の夜の夢」と似たテーマを扱っていますが、一方は陽であり、他方は陰を帯びています。つまりコメディであった「真夏の夜の夢」とは対極の雰囲気を持つのが「テンペスト」です。なぜ同じ主題でこうも異なったのかについては多種多様な見解があります。ここでそれを論じようとは思いませんが代表的な説を掻い摘んでお話をしておきます。

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 エピローグの詩をみてみます。

 私の呪力はこれで破れた。
 残る力は現実のこの身にやどるわずかばかりのもの。
 公国は戻り、詐術者は許され、この空虚な島には残る意味もない。
 この身にはもはや使う妖精もいず、魔力もない。
 同朋たちの祈りの他には、絶望しか残されてはいない。
 祈りだけが天に届き、慈悲の女神をして、
 魔術を使い続けたこの身の罪を清めてくれるだろう。
 その罪を許すという慈悲をもって、
 哀れなこの身を救ってくだされ、どうかその心で…。

 続いて手短にこの作品が書かれた時代を一瞥してみましょう。
 エリザベスが逝去したのは1603年です。彼女は「処女王」「グロリアーナ」「妖精女王」などの冠名をもって讃えられていました。エリザベスの威光と共に騎士道精神が英国全土を覆い、まさに「栄光あるイングランド」の頂点とも言えました。しかし、その妖精の時代の終りは確実に近付いており、1599年にアイルランド九年戦争が勃発、1601年には前記の戦争遠征に失敗し失脚したロバート・デヴァルー(エセックス伯)の反乱など不穏な動きが続きました。

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 物語に登場するプロスペローは、ユークリッド幾何学者であり錬金術師であったジョン・ディーがモデルになっていると言われています。彼はアーサー王に仕えた魔法使いマーリンになぞられて「エリザベス女王のマーリン」とも呼ばれました。彼はエリザベスの死と共に失脚します。
 そのプロスペローがミランダとフェルディナンドの結婚式を認めたのちに魔法の杖を折り、魔法書を海に沈め、その魔力をすべて捨て去りますが、その心境はシェイクスピア自身の諦観だったのでしょう。
 シェイクスピアは自分の老いてゆく姿と女王の死と共に王室で必要とされなくなった錬金術。そういう時の流れを見て、妖精と魔法と夢とに満ちていた時代の終りを感じたのかもしれません。エリザベス時代の終焉はシェークスピア自身の終焉でもあったのです。彼が世を去ったのは「テンペスト」の初演から5年後でした。

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 この本の挿絵を描いたPaul Woodroffeについてご紹介しておきます。

 ポール・ウッドロフは、1875年にマドラスで生まれました。1890年初めにロンドンへ移住し本の挿絵とステンドグラスの技術を学びます。彼はストニーハースト・カレッジ(ランカシャー・イエズス会学校)で勉強し、後にブルームズベリーのスレード美術専門学校に進みました。1904年から1935年まで、彼はグロースターシャーのコッツウォルズにある小村チッピング・カムデンで過ごし、カトリック教会のために多くの挿絵とステンドグラス作品を制作しました。

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 彼の仕事はシェークスピア戯曲集、聖書物語、児童書、ローマの歴史書の挿絵が中心でした。その作品はラファエル前派に特有の線形と鮮やかな色彩を用い、描かれた人物はローマ・ギリシアの古代石彫刻を思い起こさせます。
 彼は同時代にはステンドグラス制作者としても著名であり、聖パトリック大聖堂(ニューヨーク)の聖母礼拝室のステンドグラスは代表作のひとつです。またアメリカの女優メアリ・アンダースンの私邸の屋根裏チャペルのために飾り窓の設計なども手掛けています。
 ウッドロフはアメリカでの芸術活動の後にウースターシャーに居を移し、1954年に亡くなっています。

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 この本には20枚のオフセットによる彩色挿絵と2曲の楽譜が挿入されています。付されている楽譜のうち最初の一曲をご紹介します。

 第一幕第2場、プロスペローの「もし言うことを聞かなければ痙攣を起し苦しませるぞ」との脅しに、こそこそと薪を取りに行くキャサリン。ちょうどそこへエアリエルが歌をうたいながら現れます。

 黄色い砂地に立ち、愛しき人と手を結び
 口づけを交わせば、波は静まる。
 踊れ、妖精よ、軽やかに。
 歌え、精霊よ、美しく。
 聞くが良い。聞くが良い。
 バウ!ワウ!
 あれは番犬の吠える声。
 聞くが良い。聞くが良い。
 あれは気取り屋の雄鶏の声。
 クックディルディルドゥ!

 新書館「テンペスト」 エドマン・デユラック 画、伊東杏里 訳 (新書館)








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