善知鳥 - うとう -

 「うとう」と言う鳥をご存じでおられましょう。
 漢字では「善知鳥」とか、「烏頭」とか書くようでございます。北海道から青森、岩手あたり北太平洋沿岸に生息する海鳥で、遠くは米国の加利福尼亜にまでおるようでございます。
 それほど珍しくもなく、かと言って、頻繁にみかけるかと言えばそうでもありませぬ。また見たからと言って、すぐに「うとう」だとお判りになります方は余程の鳥好きかと思われます。
 最近では同じ海鳥の「エトピリカ」の知名度に負け、混同されることも多いとか少ないとか。
 私にしても、青森の県名の由来にこの「善知鳥」が絡んでいるという話はどこかで聞いたことはございますが、個別の詳しい知識を持ち合わせているわけではございませんので、郷土史資料や図鑑なるものに頼らなければ説明に窮する程度のものでございます。ですので、詳細なる謂われや生態、分布につきましてはそちらにお任せして、ここでは省かさせていただきとうございます。
 この鳥、各地で不思議なお話を残しております。同じ鳥であるかどうかはわかりませぬ。ただ名前が同じだっただけやもしれませぬ。
 ともかく、そのひとつに信濃の「善知鳥峠」のお話がございます。
 現在の長野県を走る国道一五三号を塩尻から辰野へと行きますところ、北小野と金井の境、日本海側と太平洋側との分水嶺になっております峠でございます。その峠に伝わるお話。

 ちょっとご案内させていただきますと、概ね次のような次第。

 「猟師が、とある北国の浜辺で珍しい鳥の雛を捕えた。そこで息子を連れ立ち、都へ売りに行くことにした。しかし我が子を捕えられた親鳥はそれを取り戻そうと『うとう、うとう』と鳴きながら執拗に猟師の後を追い続けた。折しも峠に差し掛かかったところで、激しい吹雪に見舞われる。猛吹雪の中、峠越えをする猟師親子を親鳥はなおも追い続ける。切なる親鳥の鳴き声は吹雪に乗り、村の方にまで届いたそうな。やがて猟師は凍え力尽き、峠半ばに命尽き果てた。吹雪のあと村人たちが峠に出てみると、わが子を庇い死んだ猟師の姿があり、その傍らには、同じように雛鳥を庇って死んだ親鳥の姿があった。村人はその鳥が『善知鳥』であると知り、猟師の骸と共に手厚く弔い、その地を善知鳥峠と名付けたと言う。」

 しかしながらこれは世阿弥が謡曲「善知鳥」を起こした時に物語の前提として書き添えたものに様々な手が加わった物語にございます。実際に伝わっておりますところはとても短な伝承でございます。その話は以下の通り。

 「昔、北国の猟師が善知鳥の雛を捕えて、都の神様に供えようと、はるばるこの峠に差しかかった折、雛を案じ鳴きながら猟師の後をおってきました親鳥は、吹雪のために猟師を見失い、悲しみの涙は雪を血に染め、狂い死にしたそうな。土地のものは、それを哀れに思い善知鳥の名を峠につけたとな。」

 いずれにしろこの話、不思議なものでございます。
 信濃の山国の峠を舞台とするのに、何故、海鳥の善知鳥なのかでございます。
 もとは「宇藤」という地名であり、それに謡曲「善知鳥」の字をあてたのだとか。或いは、山の両側が高くせり出した谷道を東国で「うとう」と呼んだので、そうした地形にちなんだ名に字を充てたのだとも言われております。いずれにしろ真偽は確かめようもございません。

 ところで、善知鳥猟師は親鳥の声真似をして雛鳥を誘い出し捕えるそうでございます。
 親鳥が「うとう、うとう」と鳴きますと、子が「やすかた、やすかた」と鳴くと言われております。この耳で確かめたわけではございませんので定かとは言いかねますが。
 親鳥は子の捕えられる様を見て、血の涙の雨を降らせ、その雨を身に受くると死ぬと言われておりますので、猟師はそれを被らぬよう蓑と笠をつけるのだそうでございます。
 青森は安方に史跡がございまして、そこに西行の歌が残ってございます。

 「子を思う 涙の雨の 笠の上に かかるもわびし やすかたの鳥」

 この様に愛情深い鳥として伝承に記されております善知鳥でございますが、恐ろしい生き物でもございます。
 祟るというのとは異なります。善知鳥を殺した者が生きておりまするうちは何事もないのでございますが、死した後、永劫に地獄の責めを受け苦しみ続けることになるのでございます。免れる手立てもなければ、救われる手段もございませぬ。これを避けるには自ずからの不殺生しかないのでございます。
 世阿弥は夢幻能の形式を用いまして、この善知鳥の世界を見事に描き出してございます。謡本を読んでおりますと、まるでその業が事実であるかのように覚えるほどでございます。

 不殺生を説く物語はこれのみではありませぬ。鴛鴦塚の片葉の葦の話もございます。こちらはいずれ書き散らす機会もあるかと存じます。

 世阿弥を調べております中、善知鳥の資料を出して参りましたのでご紹介まで。

 世阿弥「善知鳥」世阿弥元清原作、ウェザビー&ロジャース英訳、旺文社、昭和22年初版
 山本昌代「善知鳥」 (山本昌代、河出書房新社、昭和63年・初版)

 
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