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不思議な女の子(1)

 少し(かなり)冗長な話になりますが、僕が大切にしている古書についての思い出話です。

 20代になったばかりの頃、横浜の日吉に住んでいたことがあります。慶応大学の裏にある、新幹線の高架橋脇の当時築5年の3階建てのアパートで、1階と2階は各2室あり、3階は1室だけでした。僕はその3階を借りて住んでいたわけですが、今思えばわけもなく広すぎた部屋だったと思います。8畳ほどのダイニングキッチン、8畳洋室、6畳和室と言う独身で借りるには贅沢に過ぎたかもしれません。
 家賃としては高架橋脇でその騒音や振動の影響も考慮してなのか、間取りのわりには抑えられた金額でした。といっても入社したての僕が負担したのですから給料の割合から言えば約6割を占める状況でしたが。
 住む前には甘く見ていた新幹線ですが実際にはいたたまれないほどの騒音と振動で、入居した当初は始発の新幹線の通過とともに目覚め、休みの日などは新幹線から逃げるために終日意味もなく外出し終電を見計らって帰宅するという過ごし方をしていました。しかし、それも小遣いの事情と共に引き籠るようになり、そうこうして耐えているうちにふた月ほど過ぎれば徐々に気にもならず、部屋で過ごすことにも苦痛を覚えなくなりました。慣れと言うのはすごいものです。
 日吉と言うのは渋谷に出るのも横浜に出るのもちょうど中間にあり、行動拠点としては非常に便利な場所でした。しかも15分程度歩けば川崎市に入ります。自転車があればもっと行動範囲は広がったのでしょうが自転車置き場がなく、雨曝しにするのも僕の感性に合わなかったので買うことはしませんでした。まあ、歩くということに全く苦を覚えなかったせいもありますし、歩くほうが好きでしたから。
 ぽつぽつと出歩いては小さな寺社や公園、ラーメン屋や焼き鳥屋、定食屋、喫茶店などに入り込んでお気に入りの場所を探しました。
 食べるところで言えば、日吉駅を大学側に出て坂をくだったところにある分岐点のラーメン屋は「行きつけ」と言ってもよいお店でした。
 その日吉駅の近くに大学とは逆の方に行ったところに大倉レストランと言う深夜までやっているレストランがありました。2千円くらいからセットメニューがあり、確か午前2時くらいまで営業していた気がします。小洒落た建物で内装もシックで行き届いていましたし、何より味もそこそこ良く、働いているスタッフの印象も好感がもてたため、小遣いに少し余裕のある時などは真夜中に散歩がてら足を運びました。
 日吉での生活を始めて三か月くらい経った頃でしょうか。その大倉レストランへ行く途中で不思議な少女を拾いました。拾うと言うとまるで犬か猫のようですが、まさに拾った感じだったのです。
 その日は普段利用している慶応大学キャンパスの中を抜ける山道を使わずに、遠回りの散歩コースを辿った夜のことでした。時間にして恐らく午後10時を回っていたでしょう。環境としては住宅街を通り抜けているとはいえ、さほど人通りはありません。寧ろ寂しい夜道でありました。いつものラーメン屋の角を駅方向に折れてだらだらとした坂を上り、大学の正門からスーパーの前を通り過ぎ、レストランの看板が見えだしたその手前に、ちょこんと置き去られている大きな鞄のようなものに気が付きました。僕は目がそれほどよくありませんし、当時は仕事と運転以外では眼鏡をかけていませんでしたから、そのように見えたわけです。
 そばによってみると女の子が膝を抱えて座っていました。立膝のスカートに顔を押し付けるようにして泣いている様に見え、また寝ている様にも見えました。「関わらないほうがいいかも」と一端は通り過ぎましたが、「事故や事件に巻き込まれたら後味が悪い」と臆病心を起こして引き返しました。
 「ねぇ、君、大丈夫?」と声をかけると彼女はそっと顔をあげて僕の目を真っ直ぐに見返してきたのです。それからこう言いました。
 「歩き疲れちゃって。」
 僕はその後何を質問したのか覚えていません。彼女の身元と行先を聞き出すことに専心したことは間違いなく、会話の経緯は忘れましたがとにかく彼女を連れてレストランに入り、ローストビーフのセットを2人分頼んだことは覚えています。そこで僕が彼女から聞き出しことは、高校生で16歳、親は戸塚に住んでいて、(とりあえず)家出をしてきたこと、でした。
 外見としては荒れているようにも見えないし、寧ろおとなしいくらいの子で、滑舌も良く、声も明朗ですし、受け答えの時はこちらの目を見て穏やかに微笑を浮かべて話す様子から、僕は少々混乱しはじめていました。
 デザートのアイスが運ばれてきた時に、「ちょっとお手洗い」と言って僕は席を立ちました。もどった時に彼女がいない可能性も考慮しましたが、僕には席を外さなければならない事情があったのです。あの頃は外出先での連絡と言えば公衆電話しかありませんでしたから。もっとも携帯電話があったとしても席を外したでしょうが。
 僕はお世話になったことのある検事に電話を入れました。事情を話すと「もう夜中だし、刺激するのも良くないから警察に連れて行くのは避けた方がいいな。途中でいなくなられても困るからね。どうだろう、君のところで一晩保護できないかな。名前とか何らかの情報をさらに入手できるかもしれないし、できればその子を家まで送り届けてくれるといいんだけどな。」
 「ちょっと待ってください。明日は僕は仕事ですよ。どうしろと言うんですか。」
 「困る」、「お願いする」の押し問答の結果、僕が折れて連れ帰ることになりました。
 席に戻ると彼女はきちんと座っていて「おかえりなさい」と微笑み、そして「警察に連絡したのですか?」と。
 僕はありのままを話しました。すると彼女は「ご迷惑をおかけしてすみません」と言ったきり俯いてしまいました。言葉が途切れてどれほど経ったかはわかりません。僕の中で彼女が「家に帰ります」と言いださないかとの期待はありましたが、どうやら埒があきそうもないので「帰りましょう」と言葉をかけました。
 彼女は顔をあげて「家、ですか?」と心細げにつぶやきました。
 僕は頭を振って「帰りたくないから家出をしたのでしょう?僕のアパートに行きましょう。部屋は余っているので休むには不便しません。検事さんとも約束しましたから。」
 そうして僕はレストランの人にタクシーを呼んでもらい彼女を連れて帰ったのです。
 
 


 
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