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John Tenniel - 19世紀末の挿絵 -

  “ Aesop's Fables ” (1848年) 

 Aesop's Fables 1848
 (John Murray, London 1848)

 「テニエルの挿絵があれば載せて欲しい」、「鏡の国が見たい」とか、「アリス以外のもので何かあれば」と言うテニエル絡みのご希望をいただきましたので、彼の初期の挿絵本である1848年に発刊された「イソップ寓話」をご紹介します。
 出版は John Murray 社で、テニエルが挿絵を施した版は“ New Edition ”となっています。挿絵は全部数えたことはないのですが110枚ほどだと思います(挿絵の目次がありますので数えればいいだけの話ですけど)。すべて黒のペンで描かれ、銅版(エッチング)で印刷されています。

 最初の物語は「狐と葡萄」です。非常に短い話なのですが身につまされることしきりの心に痛い話かもしれません。ご存知の方が大多数だと思いますが、明治40年発行の合本版「新訳伊蘇普物語」(玄黄社、鐘美堂書店)から上田萬年の翻訳でご紹介しておきます。

 「空腹になった狐が、ふと葡萄畑を通りかかり、鈴なりに熟した葡萄を見て、幾度となく飛びあがって取ろうとしましたが、高くて達(とど)かず、憊れるばかりで、一粒も口へは入りませんでした。そこで狐は業を煮やし、「何だ、こんな青い酸っぱい葡萄を誰が食うものか。」

 Aesop's Fables 01

 この物語の教訓は「高望みをするな」と言うことです。
 ルイ18世統治下のフランスにおいて外相として活躍したシャルル=モーリス・ド・タレーランは「言語は思想を隠すために人間に供された」と言っていますが、ある意味においてそれは的を得ています。
 人は失敗や照れ隠しのために心にもないことやその場しのぎの理由づけなどで逃避しようとします。
 たとえば誰かに自分勝手に期待を寄せておいて、それが思い通りにならなかった時にその相手に悪口をついたり、実力もなく努力もせずに高望みをしておいて、それが無理だとわかると「やればできるんだけどね、もう飽きた」などと言ったりもします。
 挙句には人の不幸を願ったりしてしまうことすらあります。たとえば、ある中華屋で嫌な思いをして「こんな店に二度と来るもんか!潰れてしまえ!」などと。
 自分の矮小さ、卑屈さに気付くと自己嫌悪に陥りやるせなくなったりもします。でも、「それも人間」と開きなおることも必要なのかもしれません。だって、上の物語の狐は葡萄を取るために飛んだり跳ねたり一生懸命に、それこそヘトヘトになるまで頑張ったかもしれません。その努力を誰かが認めてあげるというのも大事だと思うのです。

 Aesop's Fables 02 

 話がそれました。テニエルの話をしましょう。
 テニエルは1820年にロンドンで生まれました。彼の母親はダンスの教師、父親はフェンシングの教官をしていました。テニエルは20歳の時、その父との練習試合で右目に剣が刺さり失明するという事故にあっています。
 彼は早くから美術を志し王立美術学校とクリップストーン・アート・ソサエティで基礎を学んでいます。1836年に英国美術協会に認められ初めて公の場において彼の油彩画が展示されました。
 1943年、ジョン・リーチの薦めでディケンズの“Christmas Books”(Chapman & Hall. Bradbury & Evans)のフロントピースの絵を描いています。
 さらに1845年にはウェストミンスター貴族院の「詩人の間」にあるジョン・ドライデンの詩「聖セシリア」のフレスコ画を制作しました。
 
 Aesop's Fables 03 Aesop's Fables 04 Aesop's Fables 05

 テニエルは美術の基礎を学校で学びましたがイラストや漫画、諷刺画については独力で学び、特に動物や植物のデッサンに励みました。その努力はダグラス・ジェロイドの目にとまり、イソップ寓話の挿絵を描く話が舞い込んできます。彼はそれを見事にものにして1948年にJohn Murray社から“ Aesop's Fables ”として刊行されました。この年、ディケンズの“The Haunted Man”の挿絵も手掛けています。
 1850年、パンチ誌を主催していたマーク・レモンからカトリック問題の対立で職を去ったリチャード・ドイルの後任として勧誘され、活躍の場を移しました。ずっと後のことになりますが、彼はそこでビスマルクの辞任にまつわるドイツのオットー首相を題材とした風刺漫画“ Dropping the Pilot ”(1891)を描き好評を得ることになります。

 Aesop's Fables 06 Aesop's Fables 07 Aesop's Fables 08
 
 パンチ誌での彼の絵はルイス・キャロルの目に留まり1866年「不思議の国のアリス」、1870年「鏡の国のアリス」と世界的なヒットを飛ばし、ジョン・テニエルの名を歴史に残したことは周知の事実です。
 1893年、英国王室より“ Sir ”の称号を授与されました。ルイス・キャロルと袂を分かった後も1901年に職を辞すまでパンチ誌で漫画を描き続けました。そして、1914年2月25日に亡くなっています。

 Aesop's Fables 10 Aesop's Fables 11

 この「イソップ寓話」の終章の物語は「粉屋と息子と驢馬」です。本書中、最も頁が費やされているものですが、これは本来「イソップ寓話」には含まれていず、先にご紹介した「新訳伊蘇普物語」を編纂した国文学者の上田萬年はこれを同書から外しています。簡単に粗筋をあげておきます。

 粉屋の親子がが隣町の市で驢馬を売るために驢馬を引いて歩いていた折、井戸端会議をしているおかみさん連中に出合い 、その驢馬連れの姿を揶揄されました。
 「ねえ、あの人たちは驢馬に乗らずに歩いているよ。何のための驢馬なのかね。おかしいったらありゃしない。」
 粉屋はそれを聞いて息子を驢馬に乗せました。
 それからまたしばらく行くと、今度は老人たちが世の流れについて議論しているところへやってきました。
 「あれを見なさい。わしの言うとおりじゃろう。最近は年寄りに敬意を払わず、若者が我先に楽をする世の中なのだ。年老いた父親を歩かせておいて、息子は驢馬に乗って怠けておる。」
それを聞いて今度は父親は息子を驢馬から下ろすと自分が驢馬に乗りました。またしばらく行くと彼らは母親と子供たちの集団に会いました。
 「可哀想に小さな息子は足を痛める思いをして歩いて行っているというのに、よく父親はすまし顔で驢馬に乗っている。なんて親なんだろう!」
 父親はそれを聞いて息子を自分の後ろに乗せて町へと入って行きました。 すると一人の男が近づいて話しかけてきました。
「これはあなた方の驢馬ですか?」
「そうです。大事な私の驢馬です。」
「だとしたら、なぜ、あなたは驢馬をいじめるのですか?驢馬が大切ならば、自分たちで驢馬を運んだ方がよいのに。」
 そう言われて粉屋の親子は驢馬から下りると、驢馬の脚を太い木の棒に括り付け肩に担いで橋までを運んで行きました。このおかしな親子を一目見ようと人だかりができ、集まった人々は腹をかかえて笑いました。
 驢馬は周囲の大きな笑い声に興奮して、縛っている縄から逃げようと暴れた結果、縄が切れて川に落ちて溺れ死んでしまいました。

 全ての人の期待に応えようとした結果、大切なものを失うという愚行を諭した物語です。周囲の期待の全てに応えるなど土台無理なことなのです。自分らしい価値観と自己貫徹の意志への教訓です。

 Aesop's Fables 09

 最後に“Good Words”の挿絵を一枚ご紹介します。「鏡の国のアリス」はまた別の機会にします。
 テニエルはここで“ The Way in the Wood ”と言う短編の挿絵を描いています。

 “ Good Words ” (1864年)
 The Way in the Wood 1864
(Individually published issue 1864)

 “ Good Words ”は個人誌として発行された50頁ほどの薄い冊子です。広告と読み切りの短編小説主体に編集されています。挿絵はすべて銅版画で、広告のカットを含めれば膨大な数が入っていますが、著名な挿絵画家としてはテニエル以外ではロバート・バーンズ他数名程度です。バーンズの挿絵は残っている作品がわりと少なく、ちょっと珍しいので2枚ですが載せておきます。

 Robert Barnes
 Illustration by Robert Barnes (1840~1893)

 ついでにアーサー・ラッカムのイソップも載せておきます。
 初版は1912年、挿絵はフルカラー13枚、セピアが53カット収録されています。初版を手にいれるのは少し難しいですが、ラッカムの絵を目的とするだけなら洋書としては現在も販売されていますので入手はしやすいです。

 Illustration by Arthur Rackham
 Heinemann 1912 Rackham 00 Heinemann 1912 Rackham01 Heinemann 1912 Rackham02
 (William Heinemann, London, 1912)





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