「人肉の市」(エリザベート・シェーン)

 「人肉の市」(窪田十一 訳、高畠華宵 装幀・挿絵)

 人肉の市 00 (大日本雄弁会、大正10年)

 「人肉の市」はドイツの女性作家エリザベート・シェーンの“ Die Weisse Sklauin ”(白き女奴隷)を窪田十一が翻訳したもので、装丁並びに挿絵を高畠華宵が描いています。
 巻頭には連合ドイツ婦人協会幹事アンナ・パブリッツの序が置かれており、その内容はドイツにおける婦人運動、特に奴隷廃止と売買春について「…要するに青春の徒を悲しむべき運命の前に救ふ防備であります。若い女子は皆同じ運命に晒されてゐるのです。実に女子売買業、女衒、誘拐者など総ての方面に網を張ってゐますので、淑女尚ほ錯って此の犠牲となるのです。…是等少女を保護すべきことは公衆一般の義務であります。(以下、略)」と警鐘が述べられています。続いて、女子売買国際防止国家委員会からも同様の序があります。

 人肉の市 01

 物語はデンマークのコペンハーゲンから始まります。

 「お父様、まぁご覧遊ばせ」と若い娘は新聞を手に、椅子から立ち上がった。
 「何だかよさそうだわ」と一語一語に力を入れて、静かに読む広告。
 ―ドイツ語及び英語を話得る若きご婦人一名家庭教師として雇い入れたく、高給、勤労軽易、ご希望の方はコペンハーゲン市パリスホテルまでご来訪を乞う ―

 この若い女性の名は「春満子」(はるまこ)と言い、退役した海軍少佐を父にもつ、あまり裕福とは言えない家庭にある長女です。その家計を助けるために就職口を探していたのですが、この家庭教師の求人広告に応募したため、彼女の運命は奈落の底へと動き出します。

 人肉の市 02

 舞台は、国際的人身売買組織の手によってロンドン、パリ、コンスタンティノープル、ウィーンと移り変わります。ダブレー夫人に騙されロンドンの娼館に売られた春満子。そこで偶然彼女を知り、その身の上を聞いて救出しようとするイギリス公爵家のガルウィック。二人は組織に弄ばれるように幾度も擦れ違います。ガルウィックとハーレムに出入りする眼科医夫妻の協力で、ようやく手をとりあってコンスタンティノープルを脱出したのも束の間、ウィーンで悪徳警部の逆恨みの罠にかかり春満子は惨めな最後を迎えます。

 この小説は国内外で大ヒットし、翻訳本だけでも大正10年11月に初版が発行され大正12年までには第800刷を超えるまでになりました。また書籍のみならずドイツで1920年頃に映画化もされています。

 映画は小説とは経過や終わりを異にしています。その粗筋は、退職陸軍少佐の娘アルマが両親の死後祖母と二人暮らして居る中オルヴィル・コックスと云う男に瞞されたあげく死産します。周囲の冷たい目に耐えかね、ロンドンの親戚へ行く船中でダブレー夫人とその甥と称するハリー・スモーレーと出会い、ハリーの誘惑に負け結婚の約束をします。が、彼女はイギリスについた途端に睡眠薬を飲まされ、娼館に売り飛ばされます。彼女はそこでガルウィック侯爵と出会い、同情した彼は彼女を救うことを決意します。しかし組織は国際的な連携をもってアルマをインドの王に売り渡したり、トルコのハーレムへと送ります。決死のガルウィックはそれらを追い続け、ついに乗り込んで行きアルマや囚われていた女達を自由にし、悪人は捕らえられ大団円を迎えます。

 日本でもこのシナリオをほぼなぞる形で、大正12年(1923年)に松竹キネマで島津保次郎がメガホンを執り無声映画として制作されました。主人公の名は北村浜子(五月信子が演じました)に、ガルウィックは李芳明(高山晃)に変更されています。

 人肉の市 03

 「人肉の市」とは旧ペルシャの奴隷市場の俗称で、公然と取引され売買された人々は法の力の及ぶところではありませんでした。

 高畠華宵の挿絵を集めているなかで手にした一冊ではありますが、読み始めてみると案外に面白く、さらっと通して一気読みができてしまいます。ここに書かれている人身売買の描写は時代性もあり、表現やストーリーは淡泊にも感じられますが、同様の売買は現在も現実に行われています。
 チェコ、ルーマニア、ブルガリアなどこの問題に取り組んでいる国は今も絶えません。そして、それらは現在では単なる人身のみではなく生体の臓器や胎児にまで発展しています。









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