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金井直「予感」

 逝く人の知らせが多くなってきました。
 100まで生きて大往生を遂げた人もいれば、わずか十歳に満たずに世を去った子もいました。
 事故もあれば、病気もありました。
 彼等のひとりひとりに思い入れがあるわけではありませんが、それでも何人かは僕にとって大切な知人であり友人でありました。
 恐らく僕の耳に入らないところでも櫛の歯は毀れ続けているのでしょう。
 そして僕はその透いた櫛の歯の間を埋めるだけの何物をも持たずに、ただ残った櫛の歯を指の先でなぞってみるのです。
 弾かれた櫛先は不揃いのオートハープのような音を立てます。
 じゃれついた遊びのような仕種を繰り返すうちに僕はその毀れた櫛の歯のことを忘れて行きます。
 そうしているうちに隙間は広がるばかりで、果たして櫛の歯を弾くこともできなくなってしまうというのに。

 毀れ落ちた櫛の歯が僕の人生そのものだったと気付くには、僕はまだ終わりを知らなさすぎます。
 いつしか隙間は空虚と名前を変え、空虚となった隙間は無限の大きな口を拡げ続けています。

 僕はこうして空虚を悲観的にしか捕えることはできないのだけれど、それを無に帰すための愛情として捕えた詩人がいました。
 金井直です。
 詩集「青ざめた花」から。

 青ざめた花01 (国文社、昭和50年初版)

 「予感」  金井 直

 一つの入り口がある その内側に「始め」と書かれてある
 一つの出口がある その外側に「終り」と書かれてある
 その間の洞窟のように暗い場所を
 人生と名付ける
 又は 未来とも過去とも呼ぶ
 だが それらをそっくり呑込んでも
 どこへ呑込んだかわからないほどの「空虚」があるとしたら
 そんな途方もない愛情があるとしたらどうしよう

 青ざめた花02 



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アルフォンス・イノウエの銅版画

 イブリン・ホープのために(部分) イブンリン・ホープのために(部分)

 アルフォンス・イノウエは、マンディアルグの「満潮」、ジョイス・マンスールの「女十態」などの装丁、挿絵を手がけており、その甘美な頽廃は見る者を一瞬で作品世界に誘い込みます。
 僕がこの作家の作品にはじめて出会ったのはそんなに昔のことではありません。
 むしろ最近と言っても良いかもしれません。2000年に奢㶚都館から発刊された「黄昏のウィーン」からですから。
 神戸出身のこの作家は武蔵野美術学校(現、武蔵野美術大学)を出て後、「満潮」の挿絵を手掛ける直前に銅版画の門を開き、独学による試行錯誤と先達であった山本六三との親交を深めその教示を得ることにより、独特の世界観を表現する作風を身に着けました。
 「満潮」は山本六三との出会いがなければ存在しなかったかもしれません。

 鏡の前の天使 1975 鏡の前の天使(1975年)

 アルフォンス・イノウエが繊細な線を以て表現する銅版を選んだのは、そこに内在するストイック性が彼の作風に適合したからなのでしょう。
 細い針で刻む線から生み出された作品は繊細で愛らしく、エロスを湛えながらも極めて禁欲的な印象を与えてくるのはその技法から派生してくるものです。
 そして銅版画に没頭することで、挿絵から蔵書票へと活躍の場を移していったのも必然と言えます。
 それは彼の最初の作品集「Belle Fille」で「(銅版画は)掌の上にのせて愛でるのに適したメディア」であると述べていることからも窺えます。
 確かにエッチングで作成された蔵書票は繊細で美しく、掌上の宝箱と言われるのも頷けます。
 その銅版による細密な小宇宙は、アルフォンス・イノウエの作品において高雅とも言える至上の頽廃美を見せています。

 わたしのマリオネットⅡ1975 私のマリオネットⅡ(1975年)

 彼が扱う題材は広く、古典詩、神話、ハンス・ヴェルメールの影響を覗わせる作品、ハードコア的なものまでありますが、全体としてはゴシック的な香りが漂います。

 彼方を見るスフィンクス 1983 彼方を見るスフィンクス(1983年)

 英国の詩人、ロバート・ブラウニングの「イブリン・ホープ」を題材とした作品には次のような詩文自体が刻み込まれています。

  イブリン・ホープのために 1985 イブリン・ホープのために(1985年)

…美しきイブリン・ホープは逝った!十六歳と言う若さで!
 恐らく私の名など耳にすることもなく。
 しかし、その時はやってくる。ついにやってくるのだ。
 イブリン・ホープよ、その身も魂も純粋で、輝くようなあなたが、長い歳月をこの下界で過ごしていたのは何故なのか。
 何故、あなたの髪は琥珀色をしており、何故、その唇はあなたが摘み取ったゼラニウムの花弁のように紅いのか。
 この古びた命を棄てて、神秘的な新しき命を得る時、あなたは私にどのように触れてくれるのだろう、罰として。…

 森の記憶 1994 森の記憶(1994年)

 蔵書票

 石の記憶 1991 石の記憶(部分) 石の記憶(1991年)

 内気な恋人 1992 内気な恋人(或いは「誘惑」、1992年)

 ウンディーネⅡ 1993 ウンディーネ(1993年)

 たわむれⅠ 1994 たわむれ(1994年)

 私のものよ 私のものよ(「メメント・ヴィー」より)・製作年不明

 書籍の挿絵はまた後に譲り、今回は銅版画として刷られた作品をご紹介しました。
 
  アルフォンス・イノウエ




2枚の絵…はるみるく&さいとうかこみ

 2枚の絵をご紹介します。
 これは先だってのブログのなかで取り上げた、はるみるくさんとさいとうかこみさんの絵です。
 作品タイトルはついていません。
 各々に短歌が添えられているのみで、見る側がそれをどうとらえるかで印象が違ってくると思います。

 はるみるく「君水金地火木」 はるみるく

 オイルパステルで描かれたこの絵は、田中ましろ「かたすみさがし」のために描かれた挿絵です。
 高校生の男の子と女の子が学校生活の日常に隔てられて斜め上下に立っています。
 ふたりの視線は互いを意識するように、また何気ない素振りで通り過ぎるように描かれています。
 添えられた短歌が男の子の微妙な気持ちを伝えます。

…君水金地火木土天海冥僕くらい 離れて廻る教室  田中ましろ  …

 水星から冥王星までの距離は約5,855,610,000Kmです。
 では「君」と「僕」との距離はどれくらい?
 同じ教室、クラスメイトとはいえ片思いの距離は相対性理論や量子論をもってしても縮めることはできません。
 ふたりの距離を縮めるのは0と1では計算し尽くせない、偶然を装うようにそこにあるタイミングとフィーリングです。
 近くて遠い片恋。
 それは愛であるはずはなく、恋と呼ぶには近すぎるもっと曖昧な憧れみたいなものなのでしょう。
 そのもどかしさ、その痛みが愛しいと思える時期があります。
 E=MC2と書くだけで、心が、恋が、光速を越えたらいいのに、なんて夢を見ることのできた時間です。
 
 さいとうかこみ「白鳥は」 さいとうかこみ

…白鳥はかなしからずや空の青 海のあをにも染まずただよふ  若山牧水  …

 浜昼顔でしょうか?咲いているのは。
 明るい夏の日差しに包まれた海岸を行く少女は、空を舞う鴎、或いは、海猫に目をとめて立ち止まります。
 牧水の歌は少女の鞄のなかに入っている文庫本にあるのかもしれません。
 少し離れて堤防につかまっている男の子は何をみているのでしょう。
 海の色なのか、はるか先の水平線なのか、それとも、少女と同じく鳥をみているのでしょうか?
 ふたりはまだ出逢っていませんし、出逢うことはないのかもしれません。
 今はそれぞれが別々の感情を抱えて海をみているのでしょう。
 何となく切なさを感じる一瞬です。

 2枚の絵はどちらも高校生らしい恋を予感させています。
 この絵をながめていると「初恋は実らない」という定番のフレーズが浮かんできます。
 しかし、それは実らなくてもいいものだと僕は思います(実れば何よりもの幸いですが)。
 むしろ実らないことで僕たちは誰かを好きになると言う感情を大切にすることを覚えるのではないでしょうか。
 初恋は最も清らかな憧憬が描き出した感情で、触れられないということのなかに存在する純粋な恋愛。
 口づけも、愛撫も、肉体の交歓もない孤独な恋愛だけが純粋さを保てるのです。
 純粋過ぎる恋が成就することはありません。
 ですから夢のように終わってしまう。
 恋をすることは、たった一羽で空を飛ぶ鳥のようなものなのです。

 ジャン・ルネ・ユグナンは恋愛の孤独について次のように述べています。

…つねに愛に左右されていること、それこそが私が希望と呼ぶものなのだ。
 降ってくる雨が雪のように優しい。愛するものは決して過ぎ去ってはしまわない。我々の代わりに時間に委ねて忘れてしまうことほど卑劣なことはない。
 孤独の秘密。それは人が決して他人の愛を理解しないということだ。…

 愛の孤独は彼の言う通りなのかもしれません。
 自分だけが抱き続ける恋愛は孤独ではあるけれど悲観すべき状況でもなければ絶望でもない。
 恋愛に悩むことは人が生きるための希望に一番近いとも言えるのです。
 幸福を感じることは単純であるがゆえに極めて難しいものです。
 それは生活のなかにおいて、自分の核心を感じ、直接にそれを受け止められるかということにかかっているのです。
 そのために恋愛は最も身近で不可欠なのものなのです。

 「はるみるくのアトリエ」  http://www.halmilk.com
 「さいとうかこみの作品箱」 http://kakomikann.sakura.ne.jp




  
  
 
 
 
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