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七月十九日 土曜日 曇りのち雨

 夏草はどうしてあんなにもいい匂いがするのでしょう。
 少し湿った空気の中で緑の濃い匂いがしてくると、郷愁めいた遊覧を禁じ得ないのは年老いてきた証拠なのでしょうか。
 きっとあの夏も同じ匂いがしていたのだろうと思います。

 ここ最近、あまり体調がよくありません。
 体調が優れないとどうしても気持ちが折れてしまいがちで、こうして書き綴っていても愚痴っぽくなってしまいます。
 弱さが連れてくる連想ゲームのタペストリーのような回想録は、波打ち際のルフランのように終章を知りません。
 少しづつ終わらせていきたいと思っていながら、ちょうど片付けの途中でひっぱりだしてきた物で遊び始めてしまうような心持に似ています。
 片付くはずもありません。

 そんな中、ふっと仕事の手を休めて、詩人の平岡淳子さん主催の「詩から生まれた六つの絵物語」という作品展にいってきました。
 石川ゆかり、さいとうかこみ、椎木彩子、はるみるく、やまもとゆか、YUKOの各イラストレイターが詩や短歌などを題材に作品を描いた小さな展覧会でした。
 狭いギャラリーではありますがテーマが2つに分かれていて、ひとつは各イラストレイターが自分の好きな詩や短歌を題材にして描いた作品パート。もうひとつは平岡さんの新作の詩に合わせて描かれた作品パートです。
 単純に題名をつけられた絵をみるよりも、詩という複雑な、そして、単純化された言葉の世界に寄り添ったものを鑑賞するほうがより作品に近づける気がしてきます。
 詩から受けるインスピレーションは様々で、絵そのものが詩の内容をそのまま表したものもありますし、絵のなかの登場人物の心のなかで唱えられているようなものもあります。
 そういった印象を感じ取りながら自分の心にピンと響いた作品を見つけられたら喜ばしい限りでしょう。
 
 僕は、この外苑前にある小さなギャラリー「DAZZLE」で、あの夏の匂いがする絵を見つけました。
 ひとつは、はるみるくさんの作品で田中ましろの短歌が添えられていたもの。
 もうひとつは、さいとうかこみさんの作品で若山牧水の「白鳥はかなしからずや…」の短歌が添えられていたのものです。
 どちらも高校生が描かれている作品でした。
 漂うような不安定感に、ときめきと眩暈を感じ、時の流れに緩慢さを覚えていた頃。
 言葉にあふれ、言葉に溺れていた頃、です。
 僕の高校時代がその絵のなかに描かれている青春に劣るとは思いません。
 けれども絵のなかの彼等が眩しいと感じてしまうのは、その世界に留まることを許された彼等への嫉妬であり、自分自身がやり残したものに気づいた告悔からなのでしょう。
 肝心なことはいつも後回しで、見えるものだけを追いかけていた罰ともとれます。
 こうして道草ばかりで日が暮れて、気づけば、何もしていないのに疲れだけが体を支配してしまって、眠る日を夢見ていたりします。
 僕に都合の良い夢を見、その世界で留まり続けていられれば理想なのかもしれません。

 会場に平岡さんの「眠る」という詩が掲げられていました。
 そこにあるのは僕の眠りより遥かに前向きな眠りです。


  「眠る」  平岡淳子

 わたしの中から
 ことばを追い出して
 ゆっくり眠る

 寝言すらも云えない
 からっぽのこころで
 色だけの夢を
 
 
 言葉から解放され、時間から解放され、次を思うこともない世界。
 僕もやがて眠りにつきます。
 友もなく、自分もないけれど、敵すらもない、そんな世界。
 


 
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テーマ : ひとりごと…雑記…きままに
ジャンル : 日記

蔵原伸二郎 「きつね」

 僕は本当は何にでもなれたんです。
 なれなかったことは努力を怠ったことが原因なんかじゃない。
 努力をして失敗したときの恥に堪えるだけの強さがなかったからなんです。
 やらないから失敗したというのは決まったことで、誰に対してもそう言えたんです。
 「やればできるんだよ」という言い訳はとても便利で都合よく、遠目から頑張ってる人を笑っているだけでよかったから。
 嫉妬と羨望を捨てきることもできずに。
 無限の時間が人にとっては刹那の有限であることに気づきもしないで。
 思い上がっていたんだね、若さってやつに。
 もうこうなってしまうと取り返すことは時間を巻き戻すことに匹敵するほど不可能に近いんです。
 だから取り返すのではなく、新しく始めてみようかと思っています。
 その「新しく」が何なのか、見当もつかないのだけれど、とにかく始めてみたいんです。
 そう思えるようになったってことは、ちょっぴりだけやる気を取り戻してきたのかな?
 あの日、授業をさぼって屋上で寝転がっていた時の君の言葉を、今一度、取り出してみました。

 目の前にあるものに触れるのは恥ずかしいことじゃない。
 惹かれてしまうことを誤魔化さなくもてもいいんだよ。
 触れたことで壊れることもあるし、怪我をすることもあるだろうけれど、それはそれで大切なことなんだ。
 自分が「変わっているんじゃないか」と思うのではなくて、みんな違っているのが正しい。
 違っているから誰にもまねのできない唯一無二の自分の生き方があるんだよ。
 それにね。
 違っていることを受け入れてくれる仲間を友達っていうんだ。

 そうだね。
 今なら素直に受け取れる気がします。
 あれから随分と時間が過ぎて行ったね。
 もうすっかりオヤジになった、お互いに、たぶん。

 君が僕に教えてくれた詩をここに。


 蔵原伸二郎 「きつね」

 きつねは知っている
 この日当たりのいい枯野に
 自分が一人しかいないのを
 それ故に自分が野原の一部分であり
 全体であるのを
 風になることも 枯草になることも
 そうしてひとすじの光にさえなることも
 狐色した枯野の中で
 まるで あるかないかの
 影のような存在であることも知っている
 まるで風のように走ることも 光よりもはやく
  走ることもしっている
 それ故に じぶんの姿は誰にも見えない
  のだと思っている
 見えないものが 考えながら走っている
 考えだけが走っている
 いつのまに枯野に昼の月がでていた


 
 
 

初蜩

 この夏、初めて蝉の鳴き声に気が付いたのが6日前。
 その時は微かに聞こえる一匹であろうその声の主の行方を、立ち止まり耳を澄まして見極めようとした。
 昨日は同じように蝉が鳴いていたのだけれど、すでに耳を欹ててその方向を探ることが愚かなことのように、鳴き声は四方に満ちていた。
 そして、台風が九州に接近しようという今日の夕昏に、最初の蜩の声を聴いた。
 夏は確実に辺りに満ち、かつ、懐に忍ばせた終わりの予鈴を密かに打ち振っている。
 暗殺者の呟きのようにひっそりと。

 花の咲き終わった蔓ブルームーンが目に留まった。
 面白味の無い、アルミのフェンスに絡みついて、狭い庭から這い出そうとしているかのような。

 平岡あみの短歌。

…垣根あれば乗り越えたくなるものでわたしだってあの薔薇だって  …

 学生時代、随分と壁を乗り越えたなと思う。
 精進や艱難辛苦の話ではなくて、建築物としての壁のこと。
 学校の壁。
 空家の壁。
 廃工場の壁。
 貯水池のフェンス。
 ああ、そういえば倉庫に忍び込んで閉じ込められたこともあったっけ。
 あの時は鉄骨の柱を登り、スラブに取りついて窓から逃げ出したんだよね。
 友達が着地をしくじってアキレス腱を切った。
 そいつは大泣きしながらも僕の肩に捕まって歩いて帰り、その夜、自宅から救急車で運ばれ手術を受けた。
 数日が過ぎても僕らが倉庫に忍び込んだことは誰にも知られずに済み、僕は、彼に助けられたことを知る。

 生徒会の役員をやっている時、後輩から告白されたことがある。
 僕はそれに返事をするかわりに荒れていった。
 その子に対して、その他の人々に対して。
 言動を粗野にして、答えをはぐらかして、逃げ回って。
 好きとか、嫌いではなく、それまでにあった良好な先輩後輩としての関係を、友人関係を壊されたようで。
 それに対して僕は苛立っていた。
 変化が怖かった。
 卑怯と言えば「本当」に近付く。
 彼女はひとつの壁を超えるために勇気を出し、僕は壁で囲った世界を守るために有刺鉄線を張った。

 自由が欲しくて教師の目を盗んでは何度も乗り越えて抜け出した学校の壁。
 「あの向こう」を求め続けた僕。
 自分の壁には手を掛けようとはしなかった。
 それが僕の青春。
 欲っしていたあの向こうとは何だったのか。
 馬鹿だな、と笑う。

 今もずっと馬鹿なままだ。

 僕はその子にまだ返事をしていない。
 彼女はどうしているのだろう。
 きっと当人はそんな些細な事を忘れてしまっているに違いない。

 僕の夏はとうの昔に過ぎて秋から冬へと降りて行く。

 西脇順三郎の詩。

…むさし野に秋が來ると
 雑木林は戀人の幽霊の音がする
 欅(くぬぎ)がふしくれだった枝をまげて
 淋しい
 古さびた黄金に色づき
 あの大きなギザギザのある
 長い葉がかさかさ音を出す   …

 こんなにも淋しくしてしまったのは僕自身だ。

 四万六千日が近づくといつもきまって思い出す。
 ほおずきの紅と吊り忍の脆さ。

 日が変わったので今日がその日。

 平岡あみの短歌は、歌集「ともだちは実はひとりだけなんです」(ビリケンブックス、2011年)から。
 西脇順三郎の詩は、「旅人かへらず」(東京出版、昭和22年)から。
 
 藤原定家の歌。

…かへりこむ月日かぞふるあさぢふも今は末なるひぐらしの声  …

 朝は無垢な白露の児、昼は馬鹿騒ぎの酔人となるも、夕べには静かな音色を好み、夜には笑まいの賢者となる。
 そんなことを誰かが言ってたね。
 なのに夕暮れが近づいても僕はずっと馬鹿のままで、少しも賢くなりはしない。
 馬鹿の度合いは増すばかり。

 マザーグースにそんなような歌があった。

…幼いころ私は知恵をもっていた。
 だけど齢をとるたび、増えるたび、だんだん馬鹿になってゆく。 …

 だからこれはきっと夢だ。
 そう思うことにした。


 


落栗花、そして、昼顔

 栗の花、落ちる。
 落栗花と書いて「ついり」と読みます。
 「つゆいり」がなまったものです。
 栗の花が散るころが入梅に重なるため、この字があてられたとどこかで聞きました。
 最近の雨は栗の花がこぼれ落ちるどころか叩き落とす勢いで降りしきりますね。どこぞの熱帯雨林にでも入り込んだ心持がします。
 そういえばボルネオに初めて行った時の夜、サウナのような湿度の中で豪雨に巻き込まれたことがありました。いつかこの国もそんな気候になってしまうのでしょうか。
 北半球の亜熱帯化。
 次に出番を待っているのは氷河期のようです。
 その前哨戦ではないでしょうが、「俺も控えているぞ」とばかりに先日は東京で雹が降り積もったりもしています。
 異常なのは気象だけではなさそうですけどね。
 とにかくこの日は前日の不規則な豪雨が小休止した心地よい快晴。
 真白な雲が青空に立ち上がり、既に梅雨が明けたかのような気さえし、あまりに気持ちが良かったので車を使わず駅までの道のりを歩くことに。
 その通りがかりの道端に白っぽい丸い小さな花を見つけました。
 ヒルガオです。
 本来は薄桃色の花弁ですが強すぎる陽射しを正面から受けて色を失くしてしまったかのように僕の眼には映りました。
 学名を「Calystegia japonica」と言い、日本原産種。
 この花はアサガオとは異なり根で増えます。ヒルガオが種を結ぶことは稀なのだそうです。
 ふたつの花は良く似ているのに全く違っているのです。
 そのヒルガオを見ながら西脇順三郎の同名の詩を思い出しました。

…ああ
 夏がまた来てしまつた
 もう何もいうことはない
 野原の方へ歩きだすだけだ…

 「人類」という詩集に収められているこの詩は、彼の他の作品と同じように非常に長い。
 
…道端の藪にからむ
 あのヒルガホのやわらかな蔓なら
 馬でもたべられそうだが
 あの花の色のうすもも色は
 地球上何属にも見られない
 薄暮の最高の哀愁の色だ
 まひるに見ても
 どんな放浪の旅人がみても
 つかれた眼になみだがにじみ
 夕暮れを感じたであろう
 放浪の心はその名を悲しそうに
 呼んで顔をそむけるだろう…

 この後、中国語でヒルガオを指す「旋(セン)」を持ち出し、続いてミルトンやランボー、ギリシャ神話を思い浮かべ、そして、道をゆく男や周囲の景色へと視線を動かし、そこから果てのない連想ゲームのように言葉が紡がれていきます。
 その自由な広がりこそ詩のもつ本質だと言わんばかりに。
 ゲンゴロウ、ジュンサイ、サルスベリ…。
 にぎりめし、スカンポ、ヘンリー・ムーア…。
 そして、この言葉の飛翔が最後に行き着くのは一匹の蛇の姿です。

…この窓から天狼星が見えます
 ところであなたは紋章学を
 やつたことがおありでしょうが
 あの赤ん坊をたべようとしている
 蛇の紋は何といいましたかね
 すつかりわすれてしまつたわい
 ああ
 野原のセンリツ
 カイレ …

 蛇足ながら付け足しておくと、この紋章は「戴冠する蛇(Serpent Vorant)」です。
 紋章の形を思い浮かべながら考えます。
 自由な心の飛翔を楽しむ余地もなく、僕たちのこの国はどこへ行ってしまうのでしょうか。
 蛇に食べられてしまうのは僕たちなのか、この国なのか、それとも他の誰かですか。
 食べようとしているその蛇はいったい誰の役回りなのでしょう?
 強すぎる陽射しに色を失くしてしまうのはヒルガオだけではなさそうです。
   
 

 
 
 
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