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外小代公園で。(公津原古墳群・成田市)

 成田ニュータウンの北端に外小代公園というところがあります。それほど大規模な公園ではありませんがよく整備されており、総合運動場、テニスコート、遊具施設などを備え、春の桜は見ごたえがあります。
 その公園の一隅に9基の円墳があります。公津原古墳群と呼ばれる成田ニュータウン内に保存された古墳群のひとつです。

 外小代公園04

 今の時期では花には中途半端でとくにこれといって目をひくものはありませんが、何もないということが心地よく感じられることがあります。

 昼食をとりはぐれてしまった午後3時。すこし休ませてくださいと誰にお願いするのか車をとめました。
 今日は湿気を帯びた汗の滲む陽気でしたが、日陰におちたベンチに腰かけてこの季節特有の少し甘い香りを含んだ風を受けていると、夏が近づいているという気配が実感されます。

 外小代公園03

 風に吹かれている丘の上はこんなにも穏やかで、囀る鶯や目白の声は澄んで耳に届いてくるのに、僕はどうしてこんなにもつかれてしまっているのだろうと思うのです。
 何がつらいとか、苦しいとか、誰よりも何よりも厳しい毎日を送っているということではないはずなのです。どこにでもある、誰にでもあるありふれた毎日のはずなのに、こんなにも疲れてしまっているのです。
 理由もなく疲れ切ってしまっている僕は、ベンチに座ったまま目を閉じて呼吸を数えるように心を閉じます。せめて空元気が心を満たすまで。僕はまだやれると、よし立ち上がるぞという勇気が湧いてくるまで。
 たとえ一人でも僕は立ち上がれる。今までもそうだったじゃないか。足は萎えていないし、腕も動く。視界も音も言葉もあり、失ったものなどない。僕はまだやれるんだ。そう胸の奥で呟きながらじっと通り過ぎる風を数えます。

 外小代公園02

 古墳の丘で風に吹かれていると砂時計の蜂の腰を通過して行く、擦れるような時の音がきこえてきます。僕がそこを通過する番もそれほど先のことではないのだろうと確かな予感を抱いて。

 そう、夏が近づいているからなのかな。
 たぶん理由があるとしたらその程度なのです。

 外小代公園01

 ぶらんこに乗って漕いでみたら座板が低すぎて足がもつれてしまい、うまく動かせませんでした。時を実感するというのは、おとなになり過ぎたということを知るのは、こんなにも簡単なことなのです。



 

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味戸ケイコ個展「五月のスカート」

 北青山にあるギャラリーハウス・マヤにて味戸ケイコさんの個展が開催されています。
 「五月のスカート」と題されたこの個展は詩人である平岡淳子さんとのコラボレーションによっていて、味戸さんが描かれた作品に寄り添うように平岡さんの短かい詩が掲げられています。

 たとえば下にご紹介した作品には「スカートの裾がわらうように揺れ わたしの悲しみを隠してくれる」という詩が付されています。
 
 keikoajito-269x300.jpg

 僕が会場を一覧して先ず不思議に思ったのは、その詩と絵の微妙なすれ違いでした。
 詩が作品を解説するわけでもなく、また逆でもない。それぞれが空間に浮遊している印象を受けたのです。わかりにくい表現で申し訳ありません。もう少し言葉を足すと、絵を見て詩を思い返してそこへ戻るような、或いは詩から受けた感覚によって自分で絵を探すような感じです。
 幸いにも、今日、5月12日が個展の初日にあたっており、丁度、味戸さんと平岡さんのお二方も在廊していらっしゃいました。そこで短い時間でしたがお話する機会を頂いて、失礼にも僕はおふた方にその感じたままを質問させていただきました。
 そうしましたらこの個展にあたってはおふた方による打ち合わせといったものはなく、個々に作品をつくって持ち寄り、会場の飾りつけの際にそのイメージに合わせて寄り添わせるように展示されたとのことでした。
 平岡さん曰く「明日には別の絵のところに詩が移動しているかもしれませんよ」と。
 つまり個々の詩と絵とはもとより関連付けられたものはないのです。見る側が自由に詩と絵の間をたゆたうような空間をおつくりになられていたわけです。
 
 ajito01.jpg

 本来、芸術作品にはタイトルや解題といったものは必要ないのでしょう。
 見る側が自由に解釈し、そこから生じた「思い」によってタイトルをつけてゆく。そして、それが作者の意図に合致するなら何にも増して恵まれた幸運であると言えます。
 詩を詩として鑑賞し、絵を絵として鑑賞する。そして、そこから受けた印象を自分で作品同士を結び付けて行くという楽しさがこの個展にはあります。

 芸術はタイトルや注解がなければ鑑賞できないと思われがちですが、思いのままに感じ取るということが本来は基本であるはずなのです。
 僕たちは難しく考えることに慣らされてしまい、そして、純粋にありのままの感覚に触れるという素直さを忘れているのです。
 「感動」と「有り難味」というものを混同してしまっているとも言えます。
 感動というのは解題を施された知識に決定づけられるものでも、対価的な希少性といったものでもないのです。心を動かされたと言う単純な事実のなかに存在するのです。

 ajito02.jpg

 この「五月のスカート」は5月24日(土)まで開かれています。展覧は無料ですので足を運ばれてみてください。

 
 《味戸ケイコ個展「五月のスカート」》

 会 期 5月12日~24日(土)
 Open  11:30~19:00 (最終日は17:00まで)
 会 場 ギャラリーハウス・マヤ
     東京都港区北青山2-10-26
     TEL 03-3402-9849
 東京メトロ・外苑前駅下車。3番出口を右へ、信号を渡り城南信用金庫の前をぬけて酒屋の手前の通りを左折して直進。


 gaien01.jpg おまけ(外苑前の交差点でみつけました)



テーマ : ひとりごと…雑記…きままに
ジャンル : 日記

室生犀星「蝶」

…人の死といふことも妙齡の少女の死ほど、襟を正さしめる淸らかさを感じしめるものはない、少女は死ぬも生きるも、ともにあでやかで、人として人のすることをしないで死んでゆくといふことに、いたみつくせない美と、測り知れぬくやしさがあった。甚吉はいくたびか少女の死といふものを眼にし、またそれを聞くたびに毎時もあたらしいくやしさ、勿體なさを遥かに遠くの方に向かつて感じた。遥かに遠くの方に向かつてなどといふ空虚な言ひ廻しはありえないが、結局、さういひあらわすより外に適當な言葉のないのも、死といふものの正體だつた。…

 犀星・蝶 蝶・故山(櫻井書店、昭和16年初版)

 室生犀星の「蝶」は、娘の同級生であった「山ちん」と呼ばれていた少女の死を綴った短篇です。
 僕がこの作品を知ったのは、どこかは忘れてしまいましたが文学館で行われていた朗読会でした。
 声優か役者の玉子であったか、新人であったか、それも定かではないので申し訳ありませんが、まだ20歳そこそこに見える女性(それでも高校生の僕から見れば十分に大人の女性でした)が朗読を担当していました。
 岩波の全集を底本にしていたようです。
 歯切れよく淡々としながらも、会話の場面では情景が浮かんでくるように声音を変え抑揚をつけて「流石は本職」と思わせられたことを思い出します。
 
 犀星の自伝にもとづく小説の特徴とも言えますが、この「蝶」も感傷に溺れず客観的な描写が続きます。
 少女と死というとどうしても甘ったるいセンチメンタリズムに走りがちなイメージがありますが、ここにはそういった甘さはありません。むしろ冷たいとも感じられるかもしれません。
 けれども、その客観的な少女の死の描写が、どこか現実を離れた夢の話であるかのように、残された人々のなかに再現されている切なさを的確に伝えてきます。
 死の現実は自分の生とは無関係にさえ思われ、それは犀星が書出しで述べているように「遥かに遠くの方」に向かってその人の不存在の空虚さを呼び起こさせるものなのでしょう。
 昨日までそこにいた人はもういないという不思議さ、間隙の空しさ、そういったものなのです。

 この作品に登場する「山ちん」と呼ばれる少女は次のように描写されています。

…はじめのうち甚吉は女学生といふものはどの子もよく似てゐるやうで、誰が誰やら、その特徴をとらへるに甚だ艱難だつた。ただみんなから圖拔けて背丈の高い子がゐてその子が山ちんといふ異名がついていることを知つた。十八歳で五尺三寸かつきりあるといへば、とても眼にたつものであつた。甚吉は娘の友達とは庭からちょつと頭をさげるくらゐで、あとで今日來たのは何といふ人かとたづねるが、あれは山ちんだといつたきり山ちんとはどういふ意味があるのかわからなかつた。…

 少女たちは夏休暇を利用して犀星の別荘があった軽井沢を訪ねて一週間ほど避暑を楽しみます。
 さて、この「山ちん」という少女ですが身長が五尺三寸と書かれています。換算すれば約175cmです。
 彼女は胸を病んでいたことから痩躯であることは容易に想像できますから、五人の少女のうちでその長身痩躯は犀星の眼に一際印象的に映ったことでしょう。
 この少女は文学好きであり、流行に流されない確固たる基準を備えていたようです。数行ではありますが甚吉と彼女との会話のなかでそれが垣間見られます。

…「おぢさま、あかしかいじんの本はございません?」
 或日、山ちんはめづらしく本のことで茶の間で、お茶を飲んでいる甚吉にさうたづねた。この茶の間は四疊半しかなかつたが、庭苔と庭木が疊とすれすれに蒼さを迫らして來るやうな、そんな気持ちの落ち着きと明るさを持つ部屋だつた。
 「あかしかいじんの本とは何なの。」
 「歌をかく人。」
 「あゝ、あの明石海人かね。雑誌に出た歌ならさがして見たらあるかも知れん。山ちんは歌が好き。」
 「可哀想な人ですから讀んでみたいの。」
 「あかしかいじんの歌はみんな讀んでゐるかね。」
 「さあ、誰も讀んでいないでせう。」…

 犀星は少女の最後の夏を思い浮かべ筆をすすめて行きます。
 「山ちん」と呼ばれた大人しい長身の少女に対し、娘の他の友達の女学生とも、また巷の多くの女性とも異なった香気をもつ独特の存在を確信しながら、その穢れ無き生の終りを美しく華やかな音楽に譬え、また現実という実感のなかで薄れてゆく死の不確かさをも美としてとらえます。 

 その少女と過ごした最後の夏に立ち寄った軽井沢の自然石を扱う土産物屋でのできごとを死の予感ともとれる感懐を交え、夏の夜に買い物を楽しむ少女たちの華やかさをわずかな行数で綴っています。

…山ちんと君子は今夜も寶石のある店先に立つて、あれかこれかと、眼を美しい石のあひだに遊ばせてゐた。本物の材料をほんの少しつかつた、高級なおみやげものを商ふ店だつた。
 「どうしても買ふわ。」
 甚吉はその聲音の強いのに驚いた。碧い玉と、珊瑚色の玉とをならべて、山ちんは決心したしたやうに言つた。
 「おぢさまにえらんでいただくわ。」
 甚吉はそばに寄つて二種類ある指輪のそのどちらかの玉をえらばなければならなかつた。
 「この碧いやつがいい。」
 「けど、さんご色してゐるのもいいわ。」
 「ぢゃ、兩方にしたらどう?」
 「そんなにお金ないわ。」
 山ちんはさきの細れたやうな興奮をまぜた聲で云った。
 「ではやはり珊瑚色か。」
 山ちんは物を購ふときにする物悲しい顔付きに變えた。
 「この次に購ふことにしてもいいわ。」
 「山ちんはね、お父様。もうぴいぴいなのよ、氷菓(こおん)ばかり食べてゐるから、少しかしてあげてよ。」
 「貸すよ。」
 君子は山ちんとくしゃくしゃと何かを話しあふと、山ちんはうんうんと肯いて先刻の物悲しい顔付をどこかにしまひ込んで、眼だけを甚吉の方に向けて顔は君子とむかひ合ひにしたまま、實に美しい眼をして何をいつているかお分かりになると云つた。甚吉は笑つて紙入を君子に渡し、山ちんはさんご色の少女の好きそうな指輪を一箇購つた。…
   
 僕がこの作品に吸い寄せられるのはいくつもの要因があるのですが、その中のひとつに、残された少女たちが抱く親友の死に感じ取る恐怖心があります。

 通夜の終りに礼儀として最後に顔をみて行くのかどうかを甚吉は君子たちに問いかけました。

…それだけのことで皆の顔は緊張してかたくなつて行つた。物怖ぢと、気の毒さとで、彼女らは死んだ友人の顔を見ないのも悪いし、見るのは怖いし、どうしていいやら迷つてゐるふうだつた。甚吉はいつそ黙つていればよかつたと思つた。 「見なくとも悪いことはないのだよ。みんなにさうお言ひ。」…

 結局、少女たちは顔を見ずに帰ることを選択します。
 友人に限らず死者の顔がもたらす怖さと言うものは、単にオカルト的なものではありません。近しい人ほど「そこに現れるのではないか」と言った、一種の「連れ去り」の不安に似た怖さを与えます。
 自分を迎えにくるのではないか、何かを訴えにくるのではないかと言う、明かりを消したその夜の怖さなのです。
 
 この「蝶」という作品は、いずれ誰かに壊されてしまう少女と言う危うい瞬間の美しさを描いたものです。
 そして、壊されることなく逝った一人の少女に永遠の美を送ったのです。

 犀星は終りに少女たちの夏を振り返ります。

…川のなかはやつと靑いひとすじの水が、せせらぎをつくつてゐるばかりだつた。河原の石もまぶしいくらゐ日に輝いてゐるし、みんなのスカートも眼に痛いくらゐの反射をひらめかしてゐた。彼女らは高い石垣の上に腰かけ、みな一様の白いスカートを帆のやうに立ててゐた。人といふよりも遠くからは白い蝶のやうに見える程、スカートの純白さがあざやかだつた。…




 
 

 

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